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19 断罪後への初手 続き
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僕の学院生活は順調に日々を重ねていた。
馬車通学OKなのが異世界学園物の良いところだ。カイルのお供で登校すると、どこからともなく取り巻きが姿を現し荷物は彼らに渡される。
お殿様扱い…けれどあまり違和感はない。
こう見えて難病に侵されていた僕は5年間常に上げ前据え膳、末期に至っては箸一つ自分では持たなかった。
だけど本当は、健康な身体を神に感謝して徒歩通学でもいいと思っていたりする。しないけど。
そしてなんとなく定位置の決まっているいつもの場所に着席する。
「シャノン様、今朝も置かれていますね」
「全くどこの誰が!シャノン様に憧れるのは無理もないが…図々しい!」
またか…
机の上には一輪の花。これはここ最近のお決まり。僕が使うであろう机の上に毎日置かれるタンポポ。
ミーガン嬢いわくタンポポの花言葉は『真心の愛』…これは…喜んでいいものなのか…
…それ以来毎朝置かれるようになったのだが、本日添えられていたのはペーパーナプキンにくるまれた数枚のジンジャークッキー。…そうか見られていたのか…、僕が教授の目を盗んで授業中にコッソリつまみ食いしていたのを…
…どうやらシャノンには熱心なファンが付いているようだ。ゾゾッ…
気を取り直して、本日の午前は数学。シャノンノートによってほぼ追いついた僕には朝メシならぬ昼メシ前である。問題は午後。本日は作法の授業。生きた心地のしない時間…。
その前にあるのが憩いの時間。シャノン専用サロンでのランチタイムだ。
「シャノン様、あの、コンラッド殿下が昼食をご一緒にと…」
「先約がありますので遠慮します」
最近は王妃に何か言われたであろうコンラッドがこうしてちょいちょいランチに誘ってくるが、僕はフルシカトを貫いている。シャノンがされたことは僕がやり返す。これはある種の敵討ち。不敬じゃないかって?それこそが思う壺。断罪を恐れぬ僕に怖いものは無い。そもそも自分で誘いに来いや!人に頼むとか…無いわ~。
「シャノン様、私たちのことはどうぞお気になさらず…」
「いいえ。今日はゲストもお呼びする予定なので」
「ゲスト…ですか?」
「アレイスター様です」
「「「 ‼ 」」」
「ちょうど良かった。そのままアレイスター様に伝言をお願いしても?」
「は?え、ええ…、あの」
「そうですか。僕の頼みは聞けませんか…」しゅん…
「いえ!今すぐお伝えして参ります!」
アレイスターを探して走っていくモブ貴族。すまんね。
さて、気を取り直して今日のランチはリアム君が持って来てくれた伯爵家特製のチーズチキンサンド。ウマそう…
「そういえばシャノン様、北への支援、相当な規模でいらしたとか。さすがでございますね」
あー、修道院への毛布バレてるのか…。しまったな…匿名で、って言っとけばよかった。今さら遅いけど。
「大したことはしてません。でも冬の寝具は暖かいほうがいいですから」
足先が寒いと寝付けないからね。
「シャノン様に倣って我が家からも何かと考えているところなのですよ」
「偶然ですね。当家でも父と話していたのです」
「ぜひシャノン様がご寄付なさった修道院をお教えくださいませ。どうせなら同じところに送ろうかと」
おお!それは好都合!
この国では南に行くほど土が肥えて収穫も多く長閑で豊かだ。比べて、北に行くほど土は痩せ気候は厳しく辛い生活を強いられる。因みにエンブリー領は北よりの東部だ。
「それは助かります。では…りんごやぶどう、スモモにブルーベリーの苗木など送ってはいかがでしょう?」
「苗木…ですか?」
食事事情の改善、それは一朝一夕で整えられるものでは無い。一日三食、365日食料は必要になる。だからこそ大切なのは自給自足生活!
だけど葉野菜根菜の種はカイルによって却下された。北の地では大して育たないだろう…って。ああ…だからあの地はひもじい生活を強いられるのか…。せっかく先日の下町散策でいっぱい買ったのに…。
代わりと言っては何だが、僕の乏しい知識では心もとないけど、これらは北海道や東北の名産。のはず。今から頑張れば寒い北の地でも数年後にはきっと立派になるだろう。
そうしたら美味しいビタミンは確保される!
「修道院をぐるりと囲むように。皆さんで手分けして、一家一院ずつ。いかがですか?」
「苗木でしたら費用もそれほどかかりませんし…それは良いお考えですね」
「一院で良ければすぐにでも。父に言って手配してもらいますね」
「皆さんがそうしてくれるなら僕は北の全修道院に今度はニワトリを寄付します。あ、もちろんオスメス両方ですよ?」
動物性タンパク質は重要だ!
カタン
「寒さと栄養失調…。北の修道士は過酷ですからね。素晴らしい考えだ」
「「「アレイスター様!」」」
庭側から声をかけてきたのは僕のマナー講師アレイスターだ。
これら王族の個室は季節の花々が眺められるよう、中央のパティオから四方に4部屋ある。
パティオ自体がだだっ広いので声の届く距離ではない。ど真ん中にはでっかい噴水があって、その周りが季節の花々が咲き誇る花壇である。また、その噴水により部屋同士の視界は分断されプライバシーは守られている。
けれど部屋と庭の間には柱がいっぱい並んだ廊下があって、その気になれば行き来は自由だ。
コンラッドの部屋は庭を挟んだ真正面。なのにお互い行き来したことは無い。終わってんな…。
護衛は通路側の扉前に居るので人の入り込めない庭側は完全フリーだ。王族の息抜き用スペース、それがこのパティオなのである。
「この部屋に来るのは初めてではないですか?」
「ああ。今まで私は目立たないように過ごしていたからね」
ほら、やっぱりそうだ。
「だが君の誘いだ。無下には出来まい。参ったよ」
「いいじゃないですか。これからはちょくちょくお呼びします。断らないでくださいね」
「だが…」
「断らないでくださいね」ニッコリ
どうだ!『茨姫』シャノンの威圧は!
「……君がそう言うのであれば…」
ニヤリ…言質は取った!
馬車通学OKなのが異世界学園物の良いところだ。カイルのお供で登校すると、どこからともなく取り巻きが姿を現し荷物は彼らに渡される。
お殿様扱い…けれどあまり違和感はない。
こう見えて難病に侵されていた僕は5年間常に上げ前据え膳、末期に至っては箸一つ自分では持たなかった。
だけど本当は、健康な身体を神に感謝して徒歩通学でもいいと思っていたりする。しないけど。
そしてなんとなく定位置の決まっているいつもの場所に着席する。
「シャノン様、今朝も置かれていますね」
「全くどこの誰が!シャノン様に憧れるのは無理もないが…図々しい!」
またか…
机の上には一輪の花。これはここ最近のお決まり。僕が使うであろう机の上に毎日置かれるタンポポ。
ミーガン嬢いわくタンポポの花言葉は『真心の愛』…これは…喜んでいいものなのか…
…それ以来毎朝置かれるようになったのだが、本日添えられていたのはペーパーナプキンにくるまれた数枚のジンジャークッキー。…そうか見られていたのか…、僕が教授の目を盗んで授業中にコッソリつまみ食いしていたのを…
…どうやらシャノンには熱心なファンが付いているようだ。ゾゾッ…
気を取り直して、本日の午前は数学。シャノンノートによってほぼ追いついた僕には朝メシならぬ昼メシ前である。問題は午後。本日は作法の授業。生きた心地のしない時間…。
その前にあるのが憩いの時間。シャノン専用サロンでのランチタイムだ。
「シャノン様、あの、コンラッド殿下が昼食をご一緒にと…」
「先約がありますので遠慮します」
最近は王妃に何か言われたであろうコンラッドがこうしてちょいちょいランチに誘ってくるが、僕はフルシカトを貫いている。シャノンがされたことは僕がやり返す。これはある種の敵討ち。不敬じゃないかって?それこそが思う壺。断罪を恐れぬ僕に怖いものは無い。そもそも自分で誘いに来いや!人に頼むとか…無いわ~。
「シャノン様、私たちのことはどうぞお気になさらず…」
「いいえ。今日はゲストもお呼びする予定なので」
「ゲスト…ですか?」
「アレイスター様です」
「「「 ‼ 」」」
「ちょうど良かった。そのままアレイスター様に伝言をお願いしても?」
「は?え、ええ…、あの」
「そうですか。僕の頼みは聞けませんか…」しゅん…
「いえ!今すぐお伝えして参ります!」
アレイスターを探して走っていくモブ貴族。すまんね。
さて、気を取り直して今日のランチはリアム君が持って来てくれた伯爵家特製のチーズチキンサンド。ウマそう…
「そういえばシャノン様、北への支援、相当な規模でいらしたとか。さすがでございますね」
あー、修道院への毛布バレてるのか…。しまったな…匿名で、って言っとけばよかった。今さら遅いけど。
「大したことはしてません。でも冬の寝具は暖かいほうがいいですから」
足先が寒いと寝付けないからね。
「シャノン様に倣って我が家からも何かと考えているところなのですよ」
「偶然ですね。当家でも父と話していたのです」
「ぜひシャノン様がご寄付なさった修道院をお教えくださいませ。どうせなら同じところに送ろうかと」
おお!それは好都合!
この国では南に行くほど土が肥えて収穫も多く長閑で豊かだ。比べて、北に行くほど土は痩せ気候は厳しく辛い生活を強いられる。因みにエンブリー領は北よりの東部だ。
「それは助かります。では…りんごやぶどう、スモモにブルーベリーの苗木など送ってはいかがでしょう?」
「苗木…ですか?」
食事事情の改善、それは一朝一夕で整えられるものでは無い。一日三食、365日食料は必要になる。だからこそ大切なのは自給自足生活!
だけど葉野菜根菜の種はカイルによって却下された。北の地では大して育たないだろう…って。ああ…だからあの地はひもじい生活を強いられるのか…。せっかく先日の下町散策でいっぱい買ったのに…。
代わりと言っては何だが、僕の乏しい知識では心もとないけど、これらは北海道や東北の名産。のはず。今から頑張れば寒い北の地でも数年後にはきっと立派になるだろう。
そうしたら美味しいビタミンは確保される!
「修道院をぐるりと囲むように。皆さんで手分けして、一家一院ずつ。いかがですか?」
「苗木でしたら費用もそれほどかかりませんし…それは良いお考えですね」
「一院で良ければすぐにでも。父に言って手配してもらいますね」
「皆さんがそうしてくれるなら僕は北の全修道院に今度はニワトリを寄付します。あ、もちろんオスメス両方ですよ?」
動物性タンパク質は重要だ!
カタン
「寒さと栄養失調…。北の修道士は過酷ですからね。素晴らしい考えだ」
「「「アレイスター様!」」」
庭側から声をかけてきたのは僕のマナー講師アレイスターだ。
これら王族の個室は季節の花々が眺められるよう、中央のパティオから四方に4部屋ある。
パティオ自体がだだっ広いので声の届く距離ではない。ど真ん中にはでっかい噴水があって、その周りが季節の花々が咲き誇る花壇である。また、その噴水により部屋同士の視界は分断されプライバシーは守られている。
けれど部屋と庭の間には柱がいっぱい並んだ廊下があって、その気になれば行き来は自由だ。
コンラッドの部屋は庭を挟んだ真正面。なのにお互い行き来したことは無い。終わってんな…。
護衛は通路側の扉前に居るので人の入り込めない庭側は完全フリーだ。王族の息抜き用スペース、それがこのパティオなのである。
「この部屋に来るのは初めてではないですか?」
「ああ。今まで私は目立たないように過ごしていたからね」
ほら、やっぱりそうだ。
「だが君の誘いだ。無下には出来まい。参ったよ」
「いいじゃないですか。これからはちょくちょくお呼びします。断らないでくださいね」
「だが…」
「断らないでくださいね」ニッコリ
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「……君がそう言うのであれば…」
ニヤリ…言質は取った!
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