断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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22 断罪はダンスの向こう

うう…ん…ラスボスが…ラスボスが迫ってくる…

「誰か…たすけ…」

両の手に感じる体温。何か聞こえた気もする。
なのに目が覚めたらそこは無人の救護室。じゃあ今のは幻聴…

気を失った僕はいつの間にか運ばれて寝かされていたらしい。

「誰か居たと思ったのに…」

それにしてもえらい目に遭ってしまった…

あれは貞操の危機…?それもアーロンに…?
…いったいいつからそういう目で見られていたのだろう…?この顔か⁉ この顔がイケナイのか!
美しいって罪…CMのキャッチコピーみたいなことを考えながら僕はシャノンの魔性を再認識した。

これは断罪までの道のりをもう一度練り直さなくては。ダイレクトコンタクトは禁止だ。

最後に少しヘタレてしまったが、それでもどうにか第一関門である教科書フラグはクリアー出来た。
直接対峙は二年時のお茶会のみ…ど、どうするか…。あ、でもあれは二人きりじゃない。取り巻きもいる。そうだ!王族であるアレイスターも誘えばきっと危険はない!

僕はそう結論付け、わりとあっさり問題を棚へ片付けることにした。

それにしても今何時だろう…、お昼休みはもう終わっただろうか。確か今日の午後はダンスの講義。

ダンスか…

僕の中学生活にいくらダンスが必修だったとはいえ、そしてその創作ダンスがモダンやバレエをベースにしたものだとしても社交ダンスとは全くの別物。因みに僕の一番得意なダンスは、健康だったときに覚えたアニメのエンディングダンスだ。

僕はシャノンの名誉を守るため、教本を見て必死に毎晩手製の抱き枕を相手に練習に励んでいるが…自信があるかと言えばイマイチ不安だ。

救護室を出てやって来たのは午後の授業があるダンスルーム。小さく扉を開いて恐る恐る様子を見るとそこは…今まさに、模擬ダンス会場へと変貌していた。

…今入ったらマズイことだけは確かだ…。
このままそーっと帰ってしまおうか。いやいや、それではただのサボりだ。シャノンにそんな汚名は着せられない。救護室で二度寝が正解だろうか。でも待て。
あ…あのステップはこの間意味不明すぎて教本では分からなかったワルツその5のステップ。ふんふん、あーするのか。横にスライドしてからの…ターン、で、くるっと。やっぱり実演どうが付きだと分かりやすいな…


--------------------


シャノンが倒れたと聞いて駆け付けた救護室には静かに眠る彼が居た。
折れそうな細い身体…
サロンでアーロンとひと悶着あったという話だが…、目を閉じた彼の顔を見ながら、その時私の胸中には少しづつある覚悟が固まりつつあった。

シャノンがそうであるように、私もまた己の居場所を整えねばならない。思い通りにならぬ運命の中で、それでも最善を尽くすために。

その後救護室から戻った私は一番目立たぬ壁際に立ちそっと背をもたれかける。
私の立場を理解している学院の講師陣は、けっして私を講義中に名指しで当てることも、自演実技に指名することもない。目立たぬグレーの髪色のようにそっと存在を消す。私にとってそれがいつもの在り方。

「おいあれ…」
「シャノン様じゃないか、誰か呼んでやれよ」
「待てって!そっとしといてやれって!」

「あ…」

何かに気付いた二、三の学生がヒソヒソと囁き合う。

「シャノン」今一番私をとらえて離さないその名を聞いてふ、と扉の隙間に目をやれば、そこには目が覚め講義を受けるため駆け付けたのであろうシャノンが居た。
ダンスの授業は廊下を歩く者が立ち止まらぬよう、その窓は厚いカーテンにより閉じられる。だというのに、ほんの少し開けられた扉からシャノンが中の様子を伺っていたのだ。

あのまま休んで居れば良いものを…生真面目な事だ。
だがホール中央に目をやれば…、彼が入室を躊躇う理由がそこにはある。

「さすがは第一王子殿下、コンラッド様。見事なステップでございますね。ですがアーロンさん、あなたはもう少しステップを覚える必要があります。殿下のリードが無ければ目も当てられません…」

「すみません先生。ですがダンスなど教会育ちの僕には縁のないものでしたので」
「アーロン、だが学生である以上君だけ除外と言う訳には…。そうだな、では君のレッスンパートナーは私かブラッドがつとめると約束しよう」
「コンラッド!」

「ブラッド、授業中ぐらいはいいじゃないか。先生、かまわないだろうか」
「王子殿下がそうおっしゃるなら…」

「ではアーロン、もう一度だ」

相変わらずのコンラッド。
シャノンに気付いた学生たちは見て見ぬふりをすることにしたようだが、それでいい。今声をかければ却って彼の誇りを傷つけることになるだろう。
そんなことを思いながら視線をやれば、そこには廊下で一人小さくステップを踏むシャノンがいる。

あの高貴なシャノンがなんという痛々しい…。たった一人でステップを踏む、そこに隠された感情が何であろうと、あのように惨めな真似をシャノンにさせて良いはずがない。

今までの私であればそんな行動などけっして起さなかったはずだ。だがその時の私は考えるよりも先に身体が動いていた。
気が付けば私は廊下に出て、シャノンに向かって手を差し出していた。

「シャルウィダンス?」


---------------------

ぬあー!!!
うっかりステップの復習に夢中になってたらアレイスターに見られていた!
こ、これは恥ずかしい…

「その、これは…」
「いいのだよ。さあどうか。ほら、演奏が始まった」

たかがダンスの講義に、たとえ四重奏でもオーケストラは来ない。演奏と言ってもバイオリン奏者が一人居るだけだ。

「あの、でも…」
「シャノン、私に恥をかかせないで」

そんなこと言われて断れるだろうか…。アレイスターはまごう事無き王子なのだ。カサンドラ様の威光が届かない相手、それがコンラッドとアレイスターの二大王子。くっ!

「じ、じゃあ…」

まさかこんな廊下で異世界初のダンスを披露する羽目になるなんて…あー!とんだハプニングだよ!何ていう一日なんだ!今日は仏滅か?

「ああほら、緊張しないで」
「で、でも…」

「ふふ、お上手だ」
「そ、そう?」

褒められた!?
も、もしかして踊れてた…のか…?

よく考えてみればこう見えて小1から小5までピアノを習っていた僕は(くどい)リズム感には自信がある。そーかそーか、出来てたか。ならば!
見よ!このアニメダンスで鍛えた黄金のダンススキルを!

得意げにリズムを刻み始めた僕は、いつの間にか誰かがカーテンを開け放ったことも、その窓から全員にそれを見られていたことにも、その観衆の中にコンラッドがいることにも、…しばらくの間気付かなかったし、気付いた時には遅かった。

ザワザワ…

「見ろよ、シャノン様のダンス…」
「あんなシャノン様初めて見ましたわ…」

「…ステップは正確ではありません。ですがダンスとは本来心で踊るもの。ああ…なんと楽しそうなのでしょう、講師歴20年にしてシャノン様に教えられましたわね…」

ん?なんかうるさい…、ぎょえー!!!

「ア、アレイスター様、みんな見てる…」
「注目の的だ、参ったな。君といると自分が自分でなくなる。この責任は重大だよシャノン…」

はぁぁぁん!? それはこっちの台詞だっつーの!
僕は極度の人見知りだ。ああ…穴があったらたとえブラックホールでも入りたい…


「そんな顔なさらなくても…。皆分かっております」
「ありがとうリアム様」
「それにとってもステキでしたよ、みなため息をついておりました」

それはきっと呆れたほうのため息…

そんないたたまれない気分で、その日は取り巻きたちの影に隠れながら存在を消すようにして帰宅の途につく僕だった。



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