断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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三人の王子

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アレイスターがプリチャード邸へとやって来たのはまさに青天の霹靂。
まさかあのアレイスターがシャノンの招きに応じやって来るとは。彼は王妃である我が母の意を汲んで、今まで決して表舞台へは出なかったのに…

シャノンとの様子を伺い見るに、やはりシャノンからアレイスターへの思慕は感じられない。楽しそうに話すその内容も、シャノンが北部へおこなったという支援についてだ。

シャノンが平民街以外にも支援をおこなっていたことは知っていたが、その詳細を知るのは初めてのことだった。
知ろうと思えば簡単に知れるはずのそれらを今日まで知らずにいたのは、私の関心がアーロンの語る東南の地に向けられていたからだ。

私とシャノン間で交わされた取り決めを知ったアーロンは、「それはとても結構なことだ」と、まるで自分のことのように喜んだ。
博愛の精神を持つアーロンは「嫉妬など愚かなことです。愛とは分かち合うもの。神の前で人は皆平等です」笑いながらそう言ってのけた。
そうだ、彼はいがみ合う事を良しとはしない。だからこそ東南の果てへ行きたいと彼は申し出たのだ。

東南の国境付近にあるという小さな村。そこでは村民がまるで一つの家族のように、全てを分かち合いながら幸福に暮らす、愛の村なのだという…。
片道ゆうに3か月はかかろうというその村へ、容易に足を向けることは叶わない。だからこそ祈りを届け力になりたい、せめて支援をと、アーロンはそう望んだのだ。

だがそれを良しとしないシャノンとアレイスター。政治的な配慮…、確かに貧しさで北部が上回るのは私も理解している。だがアーロンの望むのは大きな支援ではない。幾何かの寄付がどれほど問題だというのか。

それに対しアレイスターは、「彼はまだ神子ではない」と、母と同じことを言い切り捨てる。まだ『神託』は下りていないのだと…
『神託』はいずれ下る。この愛に満ちたアーロンが伝承の神子でないなど、ありえるものか!

…だがシャノンの呟き…「『神託』ならとっくに」あれはどういう意味だ。一体誰が?一体どこで神託を得たというのだ…。そして何故それをシャノンが知っている。

ただの戯言…。私はそれを取るに足りぬと聞きと流した。


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シャノンの前で覚悟を決めた以上、私はこれ以上陰に隠れていてはいけないと考えていた。
だからこそシャノン16歳を祝うその夜会に、私は覚悟を決め顔を出した。

執事に付き添われシャノンのもとへ案内されると、彼は我が異母兄コンラッドと、なにやら感情的になって言い合いをしていた。
だがシャノンが感情的になる…、それ自体が今までの二人では無いことを知らしめる。
ある人は「打ち解けられた」と話し、またある人は「相変わらずの不仲」と話していたが、私には前者のように感じられ、あまりいい気分とは言えなかった。

これ以上シャノンとコンラッドを二人にしては碌な事にならないと、私の頼みを聞き共に参った義母弟のトレヴァーと私は、シャノンに連れ立ち彼の新しい家族を祝いに行くことにした。

そこに居たのは双子の弟妹。
プリチャード侯爵によく似た、落ち着いたキャメルの髪が柔らかい印象のダニエル・アノン。
そして…、プラチナの髪がどこか崇高さを感じさせるシェイナ。

彼女の面差しはどこかシャノンを感じさせる。それは髪色のせいなのだろうか?
だが、ニコール夫人が付けたというその名、シェイナとは、北部の一部ではシャナともシャノンとも呼ばれる。
ニコール夫人は北部に縁を持たないはずだ。
何故それを知っていたのか…。それとも単純に偶然だというのか。

シャノンの名を持つ二人の赤子。そこにはどんな運命が待ち受けているのか…。いや。彼らの未来を明るく照らすためにも、シャノンの因縁を、この私が断ち切ってやらねばならない。私は自分自身に再度そう言い聞かせた。

ホールに戻り、コンラッドが双子に泣かれるという、ちょっとしたハプニングはあったが、何事もなくそのまま宴は続けられた。

だがまたしてもコンラッドはシャノンに些細な事で不満を漏らす。
思えば彼は、私たち王子の中で最も気難しい母を持つ。何しろ、不在の王に代わり政を動かす正妃が母なのだから。
私には、彼がその抑圧をシャノンにぶつけているようにしか見えなかった。コンラッドもいい加減大人になるべきだ。
だがアーロンへの依存は彼の成長を阻害している、私にはそう思えてならなかった。

その時投げかけられたシャノンの呟き。
「『神託』ならとっくに」
私とコンラッド、いや、その場の全員が目を見張ったのは言うまでもない。

冷静に考えれば、シャノンがそれを知るはずはない。皆すぐに落ち着きを取り戻した。だが私の頭をかすめる一つの考え。それは…

下町を覆った黄色いタンポポの光だ。
蒲公英たんぽぽ…素朴で強い、『愛の神託』と呼ばれる花。シャノンが『神託』を賜った?…いや違う。あれはシャノンが授けた『神託』だ。
では誰に?
スキッド地区は何と呼ばれた?「シャローム」元はシャノンだ。そしてその農場は何と呼ばれている?「シャノン・プチ・ファーム」
『愛の神託』はシャノンに下された。だが目の前にいるシャノンは『神託』を授ける者。

ならば『神託』を受けるシャノンとは……


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シェイナ嬢はとっても可愛いかった♡


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