断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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コンラッド 

「コンラッド。こんな時間にどうした?シャノン様に何の用だ」

「ロイド…。君こそこんなところで何をしているんだ」
「例の件が徐々に漏れ出している。シャノン様の身辺を把握するため挨拶に来る家門を調べようと思ってね」

プリチャードの屋敷を出て少しばかり馬車を走らせた先、一本道を供も連れず、前方より一人で歩いてきたのは私の側近であり幼馴染であるロイドだ。
彼は馬車の窓まで近づくとさも当然そうにそう告げる。その表情は私と違い何の曇りもない明澄な空のようだ。

「君は私の側近ではなかったのか」

「シャノン様はコンラッドの正妃になるお方だ。ならば私がシャノン様を気にかけておかしいと言うことも無いだろう?」

言われてしまえば頷かざるを得ない、だが彼はあの事件の直後から、それとわかるほど明確に変化を見せた。
それはシャノンへの敬称だけではない。

思うにロイドは、幼い頃より常に誰かの顔色を窺い、他人の評価を気にしていた気がする。そしてそれは無意識にだろうが、幼馴染である私への態度にすら顕著に表れていた。
彼は私の好む答えをいつでも用意していたし、私の感情や考えに同調し共感を示した。

それがシャノンに敬意をこめ「シャノン様」と呼び始めた頃より、彼は私に対してさえ毅然と意見を述べるようになった。それと同時に彼は自分の勉強会を立ち上げ、執行部の仕事を増やし、私やアーロンと過ごす時間を少しずつ減らしている。

「君に寄りかかる側近ではいかにも頼りないだろう?」

常に側にいた私の幼馴染。それは私に少しの寂しさを感じさせたが、そう言われては受け入れるしかない。

私に何が言えよう。
彼はアーロンに思慕を抱いていた。だが私がアーロンを後宮に迎えるつもりでいる以上、彼の想いはいずれ行き場を無くす。であればこれは幸いと思うしかない。

アーロンは気にすること無く何時ものように受け入れるだけだ。全てはあるがまま、御心のままにと。

「ロイド様には博愛の精神が届かなかったのですね。ですが仕方ありません。彼はもともと器が足りなかったのです」
「器…?」
「愛を欲する器です」
「酷い事を言う…。ロイドは君のことを…」
「…ロイド様はお持ちですから」

「何をだい?」
「木彫りの馬を」

それは何かの符牒なのだろう。だがゆらゆらと揺れる、その神秘的なマーブルの瞳は、それ以上私に何も言わせなかった。

ロイドに続きブラッドまでもが、当主教育、領地訪問、私と過ごす時間を減らしていく日常の中、私がひどく不安定になったのは精神的支柱を失ったからだろう。

第一王子、いずれ立太子する者としていかにも情けない話だ。だがアーロンは理解を示し、私の側に寄り添い続けた。

「コンラッドには僕が居ます。僕は何処にも行きません。側にいます」

繰り返されるアーロンの慰め。甘く優しい私の好きな声。
だが今は…彼の、ロイドの意見を聞きたい。私を慮らない、もっとも率直な意見を。

「乗ってくれロイド。来客の調査はまた今度だ」

馬車に乗ったロイドに私は心の内を全て打ち明けた。私は今まで、彼ら側近にでさえ見苦しい姿を見せたことはない。だが形振りなど構ってはいられない。それほど私は見えない何かに追い詰められていた。

「アーロンを想う気持ちは本物だ。だが一方で、アーロンと離れなくては駄目だと思う自分が居る」
「それは何故だか分かるか?」

「分るものか!だが君には分かるのだろう?誰よりも早く我々から距離を置いた君になら」

「正直に言おう。コンラッドと同じことをブラッドも口にしていた。アーロンと離れなくては、だがアーロンを失えば耐えられないと。私は…、残念ながらそれほど夢中にはさせてもらえなかったようだね。幸いなことに」

幸いだとそういうのか。それがロイドの本心なのか。そしてそれは…恐らく今のブラッドも同じなのだろう。

「一度は好きになった相手だ。彼が意図してそうしているとは思わない。だがアーロンは人の感情を制御する。そして思考を誘導する。気を付けるんだコンラッド」

制御、誘導、あの無垢なアーロンには不似合いな言葉だ。
私がアーロンによって救いを得たのはまやかしなどではない。だが…

「シャノンに言われた…。アーロンはいろんなものを私に捨てさせていると」

「いいかコンラッド。アーロンは地位や名誉を欲しない。それは聖職者として素晴らしいことだが、君の置かれた地位や名誉にも執着が無いということでもある。その意味が分かるか?」

アーロンはいずれ私に地位や名誉までも捨てさせる、ロイドはそう言いたいのか…

「アーロンが仕えるのは神だけだ。たとえそれが異端の神でも」
「アーロンの信じる神が異端だと言うのか!」

ロイドの語る言葉は何もかもが荒唐無稽で、とても信じられる事ではない。だが…

『神は博愛と解放によって僕たちを楽園へとお連れ下さいます。持てる者は与え、持たぬ者は与えられ、全てを共有して人々は幸せに暮らすのです。そこでは何も我慢する必要はない、僕たちは一つなのだから』

ルテティア国教の教えは『無償の愛』そして『魂の救済』。神を信じる正しき者には救いの道が開かれる。

国教の教えと慈愛に満ちたアーロンの信じる神の教え。それが異なる教えだと一体誰が気付く? 

「シャノンにはこう言われた。神は神判を下す存在であり、民を救うのは「良い国を作ってくれる偉い人」であり「彼らは平民という身分によって守られる」と」

「ふふ、シャノン様らしい言葉だ」

「だが神の救済を信じるアーロンとは相容れぬ言葉だ…」

私の頭を打ったシャノンの言葉。身分によって彼らは守られ、彼らを守るために私たちは善き統治をせねばならない。神はそれを見極めるだけ…。

「自らの心を救えるのは自身だけだ。少なくとも私はシャノン様にそう教えられた」

そうだったのか。だからロイドは…

「…私にも一つだけ分かった事がある。私は拗ねていじけた馬鹿な子供だった…」
「コンラッド…」

この一年、私なりにシャノンとの関係を省み、私はあの母に似たシャノンが好きになれないのだと考えるに至っていた。
だがあの対話は私に真の感情を理解させた。
私は母に似たシャノンが好きになれないのでなく、母を独り占めするシャノンが嫌いだったのだ。

そして情の薄い母が苦手だったのでなく、シャノンばかりを構う母が許せなかったのだ。
だがそれを口にすることは出来なかった。
何故なら、尊敬する父を前に、王の子として男らしくあらねばならないと思っていたし、有能な母を前に、王子としての振舞いをすべきだと思っていたし、何より…

厳しいお妃教育に耐えるシャノンを前に、私だけが子供のように母を乞うなど…、そんな情けない姿を見せたくなかったのだ。

歪んだ認知。母の愛は初めから私だけのものだった。ならば私は何に対して怒りをぶつけていたのか…。
そうだ。こうしてまた一つ明らかになる。

私は怒りを抱えていたのだ。幼いころよりずっと。そしてシャノンはその不条理を受け止め続けた。






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