断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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168 断罪危機一髪

「アレイスター!右だ!」

「人の心配をしている場合か!もう一人来たぞ!」

「チィッ!」
「危ない!」

寸でのところで払いのけた、子供に襲い掛かる悪漢の剣。どうも子供は運河から貯水槽へと流れる水を石や瓦礫で堰き止めようとしているらしい。
子供に剣を向けた男を含め悪漢は五人、どれも身なりはゴロツキとは言えぬ…だが騎士にしては品の無い様相。恐らくはどこかの従士崩れ。どこの…かは推して知るところだが。

五対二といっても、僧兵上がりのバード男爵と違い手練れとは言えない男ども。一人、また一人と急所を突き地面に這わせていく。

「はあっはあっ…」
「もういいヘクター!後は私が相手をする!まずは転がったそいつらを縛り上げろ!」

「お前らは下町の自警団か!こ、この平民風情がなんと不敬な!我々の主を誰だと思っている!」

アレクとその友人として平民服でやって来た私たちの素性に、目の前の従士崩れは微塵も気付いていない。
月も欠け暗闇までも味方に付いたこの状況下では私の髪色など曖昧なものだ。
たかが平民相手と侮れば警戒心も緩むのだろう。ならば己の主人が誰なのか、精々口を滑らしてもらうとするか。

「なにが主だ。どうせお前たちのようなゴロツキを雇うなど大した貴族じゃないんだろう?自警団の若造にすら勝てない腕無しが!」

「なんだと!我らは下位なれどまごうことなき貴族!お前ら平民と一緒にするな!」

「信じられないな!悔しければ打ち負かすがいい!この…、バーナード伯爵に雇われた腕利きを!」

「ハーッハッハッハッ!なんだお前、バーナード伯の手の者か」

「そう、あの公明正大、立派なバーナード様だ。だからその少年は無傷で返してもらう。彼はバーナード伯が守る下町の住人だ!」

言葉を交わしながらも止むことのない金属音。先の三人を相手にした腕はすでに限界を迎えている…が、ここで負けるわけにはいかない!私には護りたい人がいる!

「ふざけるな!なにが立派だ!俺たちの主人の方が立派に決まっているだろう!なにしろ俺たちの主はここ、準貴族街の管理を王より賜る偉いお方なのだぞ!」

「ヘクター!子供!今の言葉を聞いたな!」

「もちろんだ!」
「おれも聞いた!」

浅はかな主の元で剣を振るう従士もまた浅はかなものだ。名を出すなと言われているだろうに…、いや、名は出していないのか…どちらにせよ愚かな事だ。

「ヘクター!休憩は終わりだ。そろそろ手加減は不要!」
「…それは助かる…手加減するのも楽ではないのでね!」

ふっ、強がりを…

「生意気を言うじゃないか!」
「やれるものならやってみやがれ!」

その直後響き渡った数度の重たい金属音。

「これで最後だ!」
「ぐあ!」

ドサリ

…その場は静寂を取り戻した。




-------------------------


過去に同じ場所で同じように閉じこめられた人がいた。…教えてあげよう、その人の名は…

「ぶふっ!」

ダメだ!水位はすでに天井まで残り20センチの位置。立ち泳ぎをしながら顔を上に向けているけど、もうそれほど長くはもたないだろう…体力が。

ああ…儚いセカンドライフだった…

けど生まれ変わったシェイナならきっともうくじけたりしない。アーロンもコンラッドも自分自身を取り戻したし、ブラッドとも異父妹として、ロイドとも友人の妹としてきっと上手くやれるだろう。

フレッチャーを自分の手で退治できなかったのは少し心残りだが、シェイナとロイド、頭の良い二人がこれだけの状況証拠を手にしてるんだから、きっとあいつをのさばらせたりなんかしないと思う。

あーあ、ジェロームのお嫁さんになりそびれちゃったな…
あれ…?ということはつまり…僕は前世から通算して一度も恋人がいないってことじゃないか!…これは一体…?
あ!神の思し召しでここに居る僕は清い身体で天に還らなくちゃいけないってこと?前世も今世も?神様は賢者をご所望なの?

…バカ言え!納得できるか!

ジェローム…ジェローム…前世の初恋に似た今世の初恋、僕の黒髪ジェローム。ジェロームと暮らす田舎の生活を、僕は異世界ここに来てからどれほど夢見て、その夢にどれほど癒されてきただろうか。ジェロームとエンブリーはいつだって僕の支え…

…ウソです。盛りました。最初の第一希望は下町でした。
ええい!そんなことは些細な問題じゃないか!そんなことより問題はジェロームだ!

将来性の塊みたいなジェロームには、お披露目パーティが済めば女も男もすぐにワンサカ群がるだろう…

だってジェロームは黒髪イケメンで優しくて…思いやりがあって優しくて…包容力があって優しくて…ロマンチックで優しくて…困ったな。良いところしか思いつかないや。
…思い出すのは全部優しい笑顔と笑顔と笑顔だけ。…笑顔だけ?

走馬灯に浮かぶ今世の思い出といえば…初めて体験した友人とのプチ旅行、楽しかった川遊び。何度も繰り返したお茶会代わりのミーティング、友人との模擬店巡りに、それから…それから…
本気で雪をぶつけ合った雪合戦、力を合わせて頑張った文化祭での展示発表、童心にかえった輪回し対決、…初めて踊った…踊った…廊下のダンス…

「ゴブ…」

そっか…僕ってば…
憧れと現実の違いに今頃気が付くなんて。
でもうっかり何にも言わなくて良かった…。指輪をくれたアレイスター。だけど今なら彼の傷は最小限で済む。

…って、僕のバカ!まだ5センチあるでしょうが!

ここで死んでどうする!
僕が居なくなったらシェイナが泣くでしょうが!
それにエンブリーの事だって、領地に跡取りが必要な以上…僕という防波堤抜きでは、シェイナが大きくなるまでジェロームもお父様もきっと待ってはくれない。ジェロームの隣に立つのが自分でも僕でもない未来をシェイナがどんな顔で受け入れるか…僕は知ってるじゃないか!

おじいさんお父さんから受け継いだエンブリーを、ジェロームはとても大切にしてる…。こうして守り豊かにしていける結果をジェロームがどれほど喜んでいるか…
それが分かっているからこそ…キングオブ貴族のシェイナはきっと受け入れる。

あんな顔二度とさせちゃダメなんだってば!

「ア、アレイスター!アレごぶっ!ぶはっ!」

きっと来る!もう来てる!きっとそこに居る!!信じてる!!!

「がはっ!アレイスターーーー!」

早く!もうサプライズはいいってば!今助けないでいつ助けるの?今でしょーが!

「アレイスター助けて!助けて!たす、あん?わぁぁぁ!」

急転直下のウォータースライダー。というか…滝?前後不覚の中でアレイスターの顔を見た気がした。
けどそれが現実か今際の夢かもよく分からないまま僕の意識は…

ゴン!「ぐへ」

途切れた。


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