断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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北部の一コマ アリソン

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爽やかな初夏の風吹く北部の夏。僕が待ちに待った季節の到来だ。

前世でいう初夏くらいの気温が夏中続く王都と違い、北部の夏は、春の初めくらいの肌寒い日から初夏くらいの気温、と日によって大きく変動するのが特徴である。そのため体調管理に気が抜けないのが難点だ。

僕が夏を待ち望んだ理由は…何も婚約パーティーがあるからではない。それは…


「いらっしゃいアリソン様。お越しになるのとってもお待ちしてました」
「お言葉に甘え夏まで引き延ばしてしまいましたが…本当に良かったのでしょうか?」
「ええもちろん。将来の部下であるカーティス君を育てるのも大切な上司の仕事ですからね」ニコリ

手取り足取り。なんなら他のところを取ってもらっても構わないけど。
おっ?そのアリソン君の背後に見え隠れするアッシュ系の髪は…

ピョコ「あの…シャノン様…」
「カーティス君もいらっしゃい。夏休み中北部でのんびりしていってね」

というか、のんびり以外することが無いんだけどね。それでもここに来た当初を思えば、少しずつ出店が増えつつある。

因みにアリソン君の居住はここではない。アドリアナ様はクーパー伯から飛び石領地を買い入れた際、屋敷だけは別荘代わりになる小さいのを一軒用意して渡している。なので彼は自邸からの通勤となるのだが…

「えと、カーティス君は向こうの塔にゲスト用の部屋があるから…」

「あの…シャノン様、僕はクーパー邸に泊めていただきますので、その…お構いなく」
「え…じ、じゃあ?」
「あ、い、いえ…マダ…」
「…チッ…」

だが逗留を自邸に誘うとは…良くやったぞアリソン君!それでこそ男だ!

実のところ、今現在僕の腐心を最も満たしてくれているのがこの二人なのである。

妹の婚約者である以上、ジェロームにはもう、キャラ萌えすることはあっても妄想するのは憚られる。同じ理由でリアム君を素材にするのも今となってはもう出来ない…(苦悩するアリソン君とリアム君…はギリセーフで)
アレイスターとヘクターに関しては…アレイスターの所有権が僕にある限り妄想し放題だが、さすがに己の夫予定者ときては、その妄想も18禁未満が限界だ…
つまり、大手を振ってカプ推し出来るのはこの二人…それも、これはもしかしたら妄想でなくなる日は近いかも…

「そういえばトレヴァー君の婚約の儀はどうだった?」

「ええ。それはもう華やかでしたよ。元帥閣下も南より駆け付けましたし」
「ええ?王様、じゃなかった、元帥来たんですか?」
「第二側妃様のご出産もございましたので」
「あ、そうでした。えと、王子ですか?」
「ふふ、その通りです」

さすがだわ~、第二側妃様の遺伝子、つっよいわ~…

「シャノン様と殿下もすぐですね?」
「ええまあ。ここでこじんまりと」
「よろしいのですか?」
「婚約のお披露目っていうだけだから…これで十分」

「では成婚の儀は盛大にやりましょうね」
「……」

どうしてこう、揃いも揃って…、けどそうは言ってもアレイスターはまごうこと無き王子様。いくら北部に引っ込んだとは言え地味婚…って訳にはいかないか…。僕はいよいよ、一年後盛大に行われるであろう結婚式くぎょうを覚悟をした。

ところでこうして僕について北部に来たロイドとアリソン君がここで担うお仕事だが…

僕の個人秘書としてつきっきりで僕の頭脳を担当するのがロイド。
そして、お父さんであるクーパー伯が河川担当なのと屋形船の発案が僕、というのもあって主に河川を使った流通部門を担当するのがアリソン君だ。
ヘクター曰く、その部門は北部と王都を結ぶ一際重要な部門ということで、優秀で真面目なアリソン君の北部入りを彼はとても喜んでいた。


そうして迎えた婚約パーティー。
一階ホールを全開放して行われた、といっても王子様のパーティーとしては異例の小規模宴会。当然楽団も弦楽器のみのカルテットだし、一斉ダンスも行われない。気の向いた数組が踊る程度で、実にカジュアルな立食パーティーである。
そんな中今日の僕は、アレイスターに連れまわされて、ひたすら初顔合わせのご当主たちを前に挨拶マシーンへと成り果てている。

「初めてお目にかかります。本日お会いできたことをとても嬉しく存じます」

あとはひたすら口を噤んで微笑むだけ。シャノンが無口なのは社交界では知られたことだし、時々ニコニコ相槌うつだけでそれなりに許されている。いやー、そつのないアレイスターが居るとこんなに心強いとは。大発見…

最後の挨拶はアレイスターの御用でずっと東に行っていたという、帰ってきたばかりの男爵。なかなか見ごたえのあるダンディだ。

「シャノンこちらがジークフリート男爵、私が頼りにしている御仁だ」
「ジーク…あ、もしかして文化祭の…」
「その節は息子アーサーが世話になりまして。息子は失礼しませんでしたかな」
「そんなことないです。え、と、今日そのアーサー様は…」
「ああ、確か先ほど殿下の補佐官殿と話しておりましたが…アーサー!」

え、ちょ、補佐官って…ヘクターじゃん…
それにアーサーさんって確か若手IT実業家みたいな…出来そうだけど気持ちチャラ目の…やさおとk…

なんじゃこりゃーーー!

「…」フルフル…
「どうしたんだいシャノン」
「いいえなんでも」

男爵の声につられてそちらを見れば、僕の胸に去来したのは降ってわいた二推しカプ爆誕の予感。ビジュが…ビジュアルが強すぎる…

「シャノン様なにか?」
「い、いいえ…、その、ヘクター様はアーサー様と以前からお知り合いで?」
「ええまあ。バーナード領はジークフリート男爵領の隣でね」

話ながら近づいてくるヘクターとアーサー氏。

「歳が違いますから共に遊び学ぶ、というわけではありませんでしたが…、北部では身分の差異はあまり問われませんので…バーナード伯爵家とは昔から懇意にしております」
「アーサー様…」
「お久しぶりですシャノン様。学院の文化祭でお会いして以来ですね」

一見軟派に見える、けどホントは一途だよ、みたいなチャラい先輩と正直になれないツンデレ後輩とか…美味しすぎるんだけど…

いやー、この接点は盲点だったわー。



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