悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド

kozzy

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12歳

10 モブは見た

レッドフォード家三男、アリエス様の通学は筆頭侯爵家としては考えられないほどの老朽化した馬車である。
恐らくあれは官舎から払い下げられた旧式の馬車。
なさぬ仲とはいえれっきとした侯爵令息であるアリエス様に対する仕打ちに、学院の中ではすでにおもしろおかしく噂が飛び交っている。

入学直後からすぐにその魔法の才と愛嬌で学院生の人気を集めつつあるアリエス様は、誰に何を言われてもどこ吹く風だ。

なにしろ高位の貴族子息たちからの求愛が常に絶えず、男爵家である私のような下位貴族など近寄れない程の取り巻きがすでに出来ている。
特に第一王子殿下レグルス様を筆頭とした生徒会のメンバーからあれほど可愛がられていては、私達下位の者が厚かましくも不埒な真似など出来るわけがない。

「アリエス、俺が迎えに行くと言ってるだろう?何故それほど頑ななんだ。侯爵夫人もひどい真似をするな。この馬車を用意したのは癇癪持ちの息子、テオドールだと聞いたが本当か?」
「アルタイル様?えっ?何故ご存じなのですか?そうです、この馬は僕の通学を心配してお兄様がご用意くださいました」

司法長官のご子息であるブルースター伯爵家のアルタイル様が厳しい顔をしてアリエス様に問いかける。
義理の兄のひどい仕打ちにさえ嬉しそうに頬を染めるアリエス様はなんと純粋な人なんだろう。私を含め周囲からは感嘆と憐みのまじったため息が漏れている。

「侯爵家の次男がぼろぼろの馬車を買いに来たとみんなが知っているさ。庶子のお前に嫌がらせをするためだともな」
「な!ちっ、違います!どうしてそんな話になるのですか!お兄様は…テオドールお兄様はご厚意でこの馬車を用意してくださったのです。二度とそんなこと言わないでください!」

心根の優しいアリエス様は何を言っても義兄を庇う。その姿がまたいっそう周囲の評価を上げていくのだ。

「アルタイル様。お兄様は優しい方です。いつでも僕のことを考えてくれて…僕の味方です」
「お前を離れに追い出したのにか?」
「あれは…守ってくださったのです。大人たちから…」
「七歳の子供に侍従一人つけて放り出す、それのどこが守ることになるんだか。まったくアリエスは人を疑う事を知らないな。なんでも好意的に解釈してしまう」

侯爵家の次男テオドール様ほどいい噂を聞かない者はいない。

我儘三昧、癇癪持ち、偏屈の人嫌い。

誰も見たことは無いが、容姿だけは神からのギフトと言われるぐらい素晴らしく整っているらしい。
だが、それくらいでは帳消しにならないほど問題だらけの人格破綻者という噂だ。全てを容姿に持っていかれたとも揶揄されている。

偏屈が過ぎて、年頃になっても社交界のどんな茶会にも同伴することなく王都の屋敷に引きこもっているという。

これは普通なら侯爵家の子息として考えられない事だ。
貴族社会では社交を通じて情報を集めたり人脈を築いたり、この集まりこそが要と言っても過言ではないのだから。皆、どの会に出ればより将来有利に働くかと日夜招待状と格闘するのが我々の当たり前だ。


「侯爵家の子供が人嫌い…ね。だがその我儘すら通すと言う事か。侯爵夫人もたいがい甘い」
「何の話だアルタイル」

アリエス様が立ち去った後の廊下。アルタイル様の独り言のようなつぶやきに割って入ったのは騎士団長ご嫡男であるイエロー・ダルブレイブ侯爵家のタウルス様だ。

「アリエスの事だ。お前も見ただろうあの古い馬車を。気の毒に…。何とかしてやりたいがアリエス本人が迎えに行くことを許してくれないのではな」

「まったくアリエスは意地っ張りだ。俺も力になろうとしたんだがな。父上に頼んで我が家の古い車を譲っても良いって。だがあいつはお兄様とやらの厚意だからと言って首を縦にふらないんだ。まあ、我が家の車なんかやったらそれはそれで嫌がらせを受けるのかも知れない、なにしろあのテオドールではな」

タウルス様はけなげなアリエス様にかなりご執心だ。
タウルス様は騎士団長の嫡子に相応しい身体能力と剣の腕をお持ちだが、私たち下位の者などには声もかけない少々尊大な方だ。いや、そうではないな。視界にすら入っていないと言えばいいのか。

「ああアリエス…なんて可愛いんだ。あいつだけはたとえアルタイル、お前であっても渡せない」
「それはアリエスが決める事だ。だが、アリエスには殿下が関心を寄せているらしいじゃないか」
「まあな。だが殿下の婚約者にアリエスが選ばれることは無いだろう?こういっては何だがやはり母親の出自が…」
「よせよタウルス」

タウルス様は豪快で悪いお人では無いのだろうがこういうところがある。
無神経と言うか…思ったことがそのまま口から出るというか。

だがやはりそうか、殿下はアリエス様の事を…

誰もがうすうす気が付いていた。それでも改めて聞いたことで周囲から今度は明らかに落胆のため息が聞こえてくる。

しょせん我々のような子爵、男爵子息からみれば雲の上、だ。


たとえ庶子であっても、アリエス様はれっきとした筆頭侯爵家三男なのだから。


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