コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人でしっぽり初お風呂

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この世界のお風呂とは、沸かした熱湯をカメに溜めておき水で薄めて調整する、という大変手間のかかる人力仕様だ。

四畳半(あ、これ以前のマイルームね)ほどの石造りの部屋の中には、ナスか瓜みたいな形の白い陶器の浴槽が置いてある。が、残念ながらシャワーは無い。無造作に転がったいくつもの手桶を見るに、人力で流せということだろう。

そして部屋の片隅には子供がかくれんぼ出来そうなサイズの大きなカメが二つあり、その一つがお湯で一つが水だ。
お湯は調理の傍ら満杯溜めたつもりだが…四人分の入浴にはあとどれくらいお湯が必要なのか…クラリ…あ、立ち眩みが…

一日中歩き回った身体はヘロヘロだってのに。
…かといって腰の悪いじいちゃんにはカメから湯を運ぶのはしんどそうだし、可愛いルイージ君にそれはさせられないし…

「イヴァーノ、今日のお詫びに私がやろう。どうすればいいか教えてくれないだろうか?」
「フラヴィオ…」

落ち着かないのか、フラヴィオはさっきから僕の後をついてまわっている。そうして何とか役に立とうと頑固ジジイの目を盗んで手伝いを申し出るのだが…

気持ちはありがたい。ありがたいが…この箱入りお坊ちゃまは途中でヤケドして僕の仕事を増やす未来しか見えない。

「いいからダイニングで待っててください」
「だが…」
「…気持ちだけ貰っておきます」

けど気遣いと思いやりは夫夫円満の大事な要素だ。パンキーなんかと結婚してギスギスした夫夫生活送るよりポンコツでもフラヴィオで良かった、心底そう思えた。



さて、十八歳のピチピチな肉体でさえ悲鳴をあげそうなお湯汲みを終え、まずは就寝の早いお子様から入浴を開始しよう。

「はいルイージ君からどうぞ。一人で入れる?」
「入ったことはありませんがやってみますね」

驚きはしない、想定内だ。

「…おじいちゃーん。出番だよー」

「良いでしょう。これはこれは。フラヴィオ様の幼少期以来でございますな」

当時を思い出して照れ臭そうなフラヴィオだが、田舎の男爵家にしちゃえらく過保護だな…

「どうせ濡れるんだからおじいちゃんも入っちゃってよ」

「主従でありながらそのような無礼…、なりませぬ!」

お湯の節約のためついでに入れという僕の合理的な提案は、上下関係にうるさいじいさんによって頑なに却下された。ジジイ!

まあ…年寄りは長湯と相場が決まっている。最後が良いならそれはそれでかまわない。かまわない…が!

ルイージ君、フラヴィオ、僕、が入った後のお湯はすっかり冷めきっているだろう。そうすると最後にもう一度追い湯を運ばなければならない。

誰が?

……

僕は裏庭への五右衛門風呂設置を脳内で真剣に検討し始めていた。


「フラヴィオー!おじいちゃんがルイージ君の着替えと寝かしつけしてる間にお風呂入ってー!」
「あ、ああ」
「石鹸はそこ、オイルはそこ」
「石鹸…オイル…」
「出来る?」
「こ、子供ではないのだし大丈夫だ」

子供と似たようなもんだけどね。

お風呂場に行くフラヴィオを見届けながらふと考える。
じいさんがルイージ君と入らないなら、逆に僕がフラヴィオと一緒に入っても同じじゃないの?って。
とにかく追い湯の手間をパスしたい。

誰の手間かって?……僕のだよ!

浴槽は一人用だが、幸い作画師のちょっとした文化考証のミスで洗い場もある。なら交互に入れば問題ない。裸の付き合い?フラヴィオはどうだかしらないけど…僕は気にしない。



----------------



ああ…自己嫌悪だ…
言い付け通り上手くいったと思っていた屋敷の美観が、装飾でなく清掃だったとは…

少しばかり思い違いをしてしまったのは失態だったが、買い入れたものはどれもが伯爵家として相応しいものばかりだと自負している。使用人を雇えなくなったのは痛手だが、私も及ばずながら尽力するつもりだ。その働きで挽回するしかない。そのためにも何かもっと…おや…?誰かの足音が…な、何だと⁉

「イヴァーノ!何故来た!何故服を脱ぐ!ここで何をするつもりだ!」

「え?同時に入っちゃおうと思って。お風呂」
「だ、だが私達は…」

夫夫だ。そうだ夫夫だ。

「このほうが早いでしょ?後ろにおじいちゃんもつかえてるし。何か問題?」

「いや、な、何も問題はない…な…」

せ、積極的なのだなイヴァーノは…
浴槽の中で彼の場を空けながら身構えるが、彼は湯には浸からず浴槽の外で身体を洗い出した。

「…中には入らないのか?」
「身体洗ったら入りますけど?まさか…、中で洗うつもりじゃないですよね!」
「そういうものだと思ったのだが…」

「違いますよ!お湯が汚れるでしょ!」

彼は「入浴の基本マナーですよ、まったくもう!」と、怒りながら自身の身体を洗っていくがどうにも目のやり場が…

いったいどうしたと言うのだ私は。
彼は妻とはいえ男で…その自分と同じ裸体は見慣れたものであるはずなのに、どうにもこう…同じ男とは思えない…

白く華奢な身体…髪を洗う仕草にちらりと見える胸元が妙に艶かしい…
これがこの国の〝受け形”と呼ばれる男子か…

…柔らかな泡が肌を滑っていく…

駄目だ!あまり凝視しては不快に思われよう!い、いやだが…

「じゃ入るか。フラヴィオ、そこ代わって」

いきなりかけられた声に心臓が跳ね上がる。彼の姿を盗み見ていたことに気付かれてはいないだろうか…

「それ以上入ってるとのぼせますよ。…ま、まさか自分で洗えないとか!? 」
「え、あ、いや」

彼は私の不審な挙動に自分なりの答えを導き出したようだ。男として情けないことこの上ないが、今はその誤解が必要に思えた。

「…もーしょうがないな。背中だけですよ!」
「それはどういう…」

「いいから早く!」
「わ、分かった!」

言われるがまま浴槽を出て小さな丸椅子に腰掛ければ、彼は私の背後に回り、泡立てた石鹸で背中を撫で始めた。

「イ、イヴァーノ!」
「あっ、強かった?」
「その、…いやいい」

ドッドッドッ…
心臓の音が大きく波打っていく…

お、おかしい…。身体など洗われ慣れているはずだと言うのに、何故これほど私は動揺しているのだろう…

「髪、伸び放題ですね…それに随分傷んでる」
「あ、ああ。あの山を抜けた二か月半の道中は中々に過酷でね…」
「だから痩せちゃったんですか?ここにもう少し筋肉があるとカッコよくポージング決められますよ?」ペタペタ

ビクッ! む、胸を触るなど…あ、いや、夫夫なのだしいいのだが…

「き、君が望むなら鍛えよう!」
「何その声?」

声が裏返った気がする…
朗らかに笑いながら彼は背中の泡を流していく。だがそれは終了の合図。…残念だと言ったら怒るだろうか。

「いい気持だった」
「それは良かった。残りはセルフでどうぞ」

入れ替わりで浴槽に身体を横たえる彼は、額に冷たいタオルを乗せ目を瞑り、窓から差し込む月明かりに照らされ幻想的に浮かび上がっている。
そんな彼の頬に濡れて張り付く髪は、今この瞬間にも私から理性を奪いそうだ。

「い、イヴァーノ!私はもう行く!」
「あー、じゃあおじいちゃんにあと十分で上がるって言っといて」
「わ、分かった」

イヴァーノに対し芽生え始めた感情。この感情に名をつけたら何になるのだろうか…





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