コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人はそれぞれ予定外

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コンコン

品よく鳴らされるのはロデオによる入室の合図。
執事兼庭師を言い付けられたロデオは、早朝から張り切って全室のカーテンを開けてまわっているようだ。

私のお付きとして付き従うロデオ。
彼はシリル男爵家の執事であるフリオの又従弟だ。
私が生まれたその年から第四宮にはいり、私の側仕えとして世話を続けてきたロデオ。彼は執事の何たるかを知るわけではない。
それでも己の記憶にある執事像を頼りに、伯爵家として相応しい執事になってみせると張り切っていた。

「…眩しい…」
「お起こししてしまいましたかなイヴァーノ様。朝でございます」
「今何時?」
「…七時でございますな」

私の隣で目を覚ましたのはイヴァーノ。
彼とは未だ触れ合わないままだが、こうして一つの寝台で寝起きをすることには慣れてきたように思う。

昨夜などは、いよいよ夫夫としての営みに向きあおうとしていたのだが、浴室から戻ったイヴァーノはあっさり眠りについてしまった。
その事実に少しばかり落胆してしまった私は、夫としての自覚が芽生えてきたのではないだろうか。

「ふわぁぁ…着替えたら下に降りるから窯の火だけ入れといて」
「畏まりました」
「出来る?」
「昨夜教えていただきましたからな」

着実に務めをこなしていくロデオ。であれば私も伯爵家の当主として立派に務めを果たさねばなるまい。

だが私の継承したビアジョッティ伯爵位とは、領地はすでにコレッティ家に接収され、また宮廷に席も持たない名前ばかりの伯爵位。
あの様子ではコレッティ侯は私を臣下にはしてくれぬだろう。では私は当主として何をすべきか。馬の世話だけと言うのはいかにも情けない…


湯気の立つ甘いコーヒーと、卵と牛乳を甘く絡めた温かで柔らかな焼いた白パンという、彼の手による大変美味しい朝食を堪能しながら、「何か出来る事は他にないか」と問う私にイヴァーノは「あるよ」と事も無げに一言。

「馬の世話だけで済むと思うのか、って話で。なんでルイージ君の勉強みてください。お隣さんに家庭教師紹介してもらおうと思ってたんですけどね…高給取りの教師なんか雇えそうにありませんから」
「すまない…」

「もういいですって。とにかくフラヴィオの労働と違って子供への教育はちゃんとしないと。大人の大事な義務ですからね」
「あ、ああ!その通りだ!」

そうだ。間違えてはいけない。私にとって最大の務めとはあの子を王位に相応しい傑物に育て上げ、無事母国へ帰還することではないか。

幸い書斎には立派な書棚がある。

この屋敷はコレッティ侯に負債を抱えたまま亡くなられた老男爵の持ち物だったと聞いたが…コレッティ侯は屋敷に手を付けることもなく放置していたと言う。

わが国であれば空き屋敷に貴重で高価な書物類が捨て置かれるなど考えられぬことだが…

この程度の財などコレッティ侯は歯牙にもかけぬということだろう。

読書家だったであろう前住人はかなりの書物を残していった。あれらを使えば教えられることも多い。

イヴァーノには世話をかけるが、この大恩にはいずれ必ず報いるつもりだ。


----------------


というか、フラヴィオの国とこのBLファンタジー大国サルディーニャは文化背景が違いすぎて…、何をするにもまずはフラヴィオ自身がこの国を知る必要がある。

幸い書斎の本棚には地図とか旅人の見聞録みたいなのとか、どっかの貴族が書いた社交界のゴシップ小説、みたいなのもいっぱいあったし。参考書には事欠かない。

だって見て見なよ。ちゃっかり一つテーブルで朝食を囲む若夫婦と義弟と…おじいちゃんの図を。

……

おじいちゃん!自国ではどうだか知らないけど執事が一緒に席ついちゃダメでしょうが!
まあ、一人だけハブるのは感じ悪いしこれでいいけど。イジメヨクナイ!

そのおじいちゃんは今日の午後から台所を全てピカピカに磨くとやる気がみなぎっていた。
実は「執事の仕事とは?」って聞かれたから「銀のスプーンとか磨くらしいよ?」って答えたら、台所全般に脳内変換されたらしい。でもちょうどいいから黙っとこうと思っている。

とにかく僕は残された資金に関し、四分の二を向こう半年の食費や燃料費、四分の一を節約生活のための先行投資、四分の一を規模を縮小した商売の元手、に再度振り分けていた。

先行投資とは何かって?

先ずは食への投資。

野菜根菜の種や苗、果物の苗木、土と肥料と、あと足りない園芸用品を買い込まなくては。これは長い目で見たら最も大事な投資である。

本音を言えばニワトリも欲しいところだ。
だが早朝天然の目覚ましで起こされるのは近所迷惑だろうし僕もイヤだ。なので断念。代わりに気合と根性で蜂は飼えないだろうか?と実は考えている。

次に労力への投資。

五右衛門風呂は無理でも窯の増設は急務だ。カートも自作したい。

あと掃除道具。あんな毛の抜け落ちたホウキでは集まるごみも集まらない。

初期投資はいずれ労力の軽減という形で自分へ返って来る。これらは必要な投資だ。

そんなことをつらつら考えていると、聞こえてきたのは玄関のノッカー音。

「お客人ですかな」

見た目だけは完璧な執事が対応に向かうが、誰だろう?こんな朝早くに。
貴族は朝が遅いと相場が決まっている。それ以前にそもそも訪ねてくるような知人などここには居ない。

「イヴァーノ様、どうやら下働きの希望者が参ったようでございます」
「え?うそ!だって昨日の夕方張り出したばかりで…」
「これを持参しております」

手渡されたのは僕が昨日ギルドで張り出した求人用紙。その手には確かに僕がこの手で書いたコックと庭師とメイド、三枚分の紙が握りしめられている。

「ええっ!三人も来たの⁉ 」

「いいえ。参ったのは一人だけです。なんでもするからどうか弟共々ここへ置いてくれと」
「ちょ、あ、えっと、とりあえず応接間にお通しして。着替えたらすぐ行く」

なんてこったい!このあとすぐに張り紙剥がしに行こうと思ってたのに!

「雇うのかい?」
「断るに決まってるでしょ!」

我が家に人を雇う余裕があるとでも?一ミリもないわっ!
なのに服を着替えて急いで部屋へ向かえば…

応接間に居たのは、薄汚れた服を着ているどっからどう見ても訳アリ、って感じの少年。歳は日本の弟ぐらいだから…十二~十三?

ああーっ!お茶と隠しておいたお菓子まで振る舞ってるー!

「お、おじいちゃん…いつの間にそれを…」
「食器棚の奥に見つけましてな。大きく腹を鳴らして気の毒でございましたので」

そ、そうか…。お腹をすかせた子供を放ってはおけないよね…クスン…隠しカロリーだったのに…いやいい。グッジョブだ。

大変申し訳ないが予算亡き現在、なんとかして角が立たないよう上手くお断りしなくては。一番いいのは「ゴメンね、タッチの差で決まっちゃって」これだろう。

「イヴァーノ様、聞けばこの者ずいぶん苦労人にございます。性根も良さそうですし雇いましょうぞ」

はぁ?こ、このジジイ!その人件費を使いこんだのは誰の主人だと思ってんだ!

「あのねー!僕にも計画ってもんが」
「このままでは幼い弟共々いびり殺されてしまいますれば」

幼い弟、いびり殺される、その二つのキーワードは僕の耳を傾けさせるのには十分だった。




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