コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人に差し込む陽の光

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「つまり…その後妻から逃げ出したいってことね」
「…そうです。俺だけならいいんだ。何されたって耐えられる。…それでいつか弟を連れて家を出ようって思ってた…。けど弟はもう限界なんだ!」

この少年、名をリコと言う。歳は十歳、ルイージとタメだ。
彼の親は庶民街でロンバートを営んでいる金持ちだ。この国で言うロンバートとは、話のニュアンス的に金貸しとか質屋とか(それもちょっとアコギな)そういう類の商売っぽい。
両親と言っても彼の母親は早世していて今の母親は後妻ね。それも子連れの。

「ウーゴは俺より三つ上の嫌な奴で、あの女と一緒になって弟をいじめるんだ」
「ってことは後妻も意地悪なんだね?」
「ウーゴは俺たちよりバカでブサイクだから俺たちが目障りなんだよ…」

ププ…笑っちゃダメだ笑っちゃ…今シリアスなんだから…

父親はそんな気の強い後妻に辟易し、家内の一切を任せ別邸から全然帰って来ないのだとか。多分別邸とは愛人宅だろう。

それをいいことに後妻は前妻の子である彼らをまるでシンデレラのように虐げているそうだ。

そして昨日、ギルドで巨大な氷塊を買って帰る、という嫌がらせの途中で見つけたのが僕の求人票だ。その中身は庶民街では滅多に出ない、貴族家での使用人。

なんでも後妻は彼が家出しようとするたび手を回して妨害したそうだ。(多分嫌がらせ)そこで彼は場所が貴族家ならその手はさすがに届かないと考え、僕がギルドを出た直後、速攻張り紙をはがしたのだとか。

「それはお可哀想に…」
「イヴァーノ!彼らに救いの手を!すぐにでも彼の弟をこの屋敷に呼び寄せねば!」

いつの間にか同席していた上品兄弟。そのポンコツ当主までもが後妻の仕打ちに憤慨している。

…フラヴィオは本当に良い奴だ。みすぼらしい市井の子供!と追い出すような男じゃなくて僕も妻として誇らしいよ。力になってやりたい。やりたいよ…

余力があればね?

助けてやりたいのは山々だが問題は先立つモノである。人助けとは自分が二本の足で立っていてこそ出来る事で…僕の二本足にはたくさんの亡者がしがみついている。…二次被害は避けたいところだ。

「…弟は今日が七歳の誕生日なのに…、あの女は弟に「誕生日のギフトだ」って朝からずっとカメの水汲みをやらせてんだ…」

「なんと非道な!許せませぬ!イヴァーノ様!私が迎えに行きまする!」

うっ!あの過酷な労働を七歳の少年が!ああどうしよう…

「あのカメには穴が開いてるのに!」

ドンッ!「リコ!今すぐ弟を連れて来なさい!なんならそのクソババアの横っ面張ったおしてもいいから!っていうか三発ぐらいぶっ飛ばしてきなさい!」
「い、いいんですか?」
「おうよ!」

お誕生日は景気よくパーっといかないと!

「あ、あ、ありがとう!俺なんでもします!一生懸命働きます!」
「早く迎えに行っといで!」

とは言うものの…四分の二の生活費、四分の一の先行投資、これらは削れないから…くっ…

コスプレ喫茶はいったん中止の方向で。


----------------


「まあいいですよ…。これで掃除や洗濯手伝ってもらえますから。お湯汲みも」

ため息をつきながら、それでもどこか満足気にイヴァーノは言う。

「イヴァーノ。彼らを雇い入れてくれて感謝する。だがこれもまた高貴なる者の務めだ。そのためなら私はどんな清貧にも耐えて見せよう」

「その言葉に二言はありませんね」
「もちろんだ。足りぬなら私のおかずを減らしてくれて構わない」

「あはははは!馬鹿フラヴィオ!しませんよそんなこと。大丈夫です。お腹いっぱいどうぞ」

ああ…、誰が彼を気の強い傲慢な令息だと嘯いたのだ。私の妻は世界一素晴らしい人ではないか。私はなんと幸せ者なのだろう。

幸いにしてこの屋敷は庶民街に程近い。リコは二時間もしないうちに弟、エルモの手を引き戻ってきたが、その手には一つの荷すらも持ってはいない。その事実が彼らの境遇を物語っているといえよう。

そんな彼らにイヴァーノは屋根裏部屋を与えることにしたようだ。
屋根裏には小窓もあり広さもある。片付けが済めば快適になるだろう。

「今日は二人で屋根裏片付けて。明日からは少しづつお屋敷を掃除してくれる?」
「「はい!」」

「それじゃあ僕は出かけてきますから。おじいちゃん、子供たちのことお願いしますね。お昼はサンドイッチがありますから」
「畏まりました」

「フラヴィオ、行くよ」
「私もかい?」
「荷物持ちね。馬出して」

この屋敷の厩には荷台を引くための馬具が残されていた。イヴァーノが言う馬とはその意味だろう。
私たちが母国より旅を共にした馬は本来荷を引く馬ではないのだが…背に腹は代えられぬ。幸い栗毛の彼は快く荷台を引いてくれた。


「それでイヴァーノ、今日はどこへ行くんだい?」
「畑作りの材料買いに。あとレンガ」
「煉瓦?」
「レンガと鉄板。それで出来るはず」

…何を言っているのか私にはわかりかねるが、イヴァーノに任せておけば何も問題は無いはずだ。それよりも私は、こうしてイヴァーノと並んで店屋を巡ることにその時密かな愉悦を感じていた。

人々がチラリチラリとこちらを見る。ふふ、私たちは似合いの夫夫に見えるだろうか。

その彼と歩く商店街は知識の海だ。こうして歩いているだけで庶民の暮らし、その背景を窺い知ることが出来るのだから。

イヴァーノが言うにはこの国サルディーニャは我が国アスタリアと同じく王が統治する国だが、独裁的にならぬよう、その力は一部議会下におかれ制限されているらしい。

「大衆派の大臣とかも議会に席を持ってて意見を言うからこの国は庶民街でもこんなにファンシーなんだ…ってオープニングロールにありました」
「なんと素晴らしい…」

我が国とは比べ物にならないほど福利が充実しているのを肌で感じられる…

「ここの建物は面白い形をしている…」
「ああ。長屋ですね。テラスハウスって言ったほうが良いかな?」
「サルディーニャ国の庶民街ではこれが普通なのかい?」
「長屋は庶民の味方ですよ」

確かに壁を共有するこのスタイルは狭い地区に少しでも多くの住宅を確保するのにうってつけだろう。そしてそれは建築資材を抑えるのにも役立ちそうだ。

「ここは奥の庭が横一列繋がってて井戸とか窯とか共同で仕えるんですよ。顔の分かる相手だからこそ安心して助け合いが出来る…って、たしかそれも庶民街パートのモブセリフに入ってました」
「なるほど…」

これらはまさしく、貧しい我が国にこそ必要な仕組みなのではないだろうか。物の貸し借り、病床に伏した時、こういった住民同士の繋がりは時に大きな力となるだろう。
私は一つ一つに感心しながら、ところどころ難解な言葉を交える博識なイヴァーノに尊敬の念を抱いていた。

「あ、すぐ戻るからちょっとここで待ってて」
「ここは…?」

〝商業ギルド”

入り口の上部にはそう刻まれていた。



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