コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人は互いに惚れ惚れする

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二人を見送った僕たちはそのまま庭にあるベンチに腰かけてダベっていた。ワインで火照った顔になんだか夜風が気持ちいい…

「イヴ、私は事情を抱える身ゆえ今はこうして君の厚意に甘えるしか出来ないが…、せめて社交界での君の名誉、それだけでも取り戻せるよう…力を尽くすよ」

社交界での名誉、それがなんちゃって貴族の僕に必要かどうかは多いに疑問だが、フラヴィオが僕のためを思ってくれる、その事実がなんだか嬉しい。

生活力のないフラヴィオだが、今日の様子を見ても社交界…というものに関しては僕の百倍上手くやる気がする。役割分担、これは〝合わせ”をする際にも大事なポイントである。

「君の行動力には驚かされるばかりだよ」
「何度も言ったけどこれは…」

「ああ分かっている。〝趣味と実益”だね?君の成長を妨げる事はしないさ。私も負けてはいられないと思うだけだ」

フラヴィオは爽やかに笑う。ルイージ君を立派な青年に育て上げ母国へ帰還するその日まで決して挫けない、と。
どうも彼はブラコン味が強いお兄ちゃんだ。だがブラコン勝負で負ける気はさらさらない。フラヴィオがルイルイの中身を磨くのなら外見は僕に任せてもらおう。

「イヴ、一緒に来てくれるかい」
「どこへ?」

連れていかれたのは人気のない書斎でそこは見違えるぐらい整頓されていた。雑多に積み上げられていた本が棚に納まり床面積が増え、その板張りは月明かりに照らされている。

「すぐにでもルイージの勉強を始められるよう整えられたと思うのだが…どうだろう?」

目の前に居るのは褒めてもらいたそうに尻尾をふる上等なボルソイ(元アフガンハウンド)。
部屋の片付けぐらいで何を…と思わないでもないが、パンツ一枚自分で買えなかったことを思えば、これは大成長だ。僕は褒めて伸ばすを実践している。

「スゴいじゃないですかフラヴィオ!」

「床を磨いたのはリコだし家具を拭きあげたのはエルモだよ。働き者だね彼らは」
「後で御褒美あげなくちゃ」
「そこで君に相談なのだが」
「うんうん」

「私はリコとエルモにも学びを与えたいと考えている。労働の時間は減ってしまうが構わないだろうか?」

「え?」

フラヴィオは言う。彼らは裕福な家に生まれながら、まるで使用人のように扱われてきたがそれは不当なことだと。

この手の世界観ではお決まりのことだが、やっぱりここでも庶民の識字率はそれほど高くない。だが彼らの生家はお金を扱うロンバートだ。その息子なら子供のころより読み書き足し引きくらいは教えるのが普通だろう。
それをしないところに、彼らを跡取りにはしない、という後妻の強い意思を感じる…

「彼ら…特に兄のリコは良い素質を持っている。伸ばしてやりたいのだよ」
「フラヴィオ…」パァァァァ「すごく良いと思います!ぜひっ!」
「いいのかい?」
「もちろん!」

拘置所で身に染みて分かったが…この世界はがっつり階級社会である。あのノンデリフランコがそれでも僕を「イヴァーノ様」と呼んでいたのがいい例だろう。階級社会と言うことは、例えいくら人道的な当主でも身分の線引きはキッチリするということだ。

少なくとも家庭教師につけて使用人と息子を一緒に学ばせる、なんて当主はまず居ないだろう。
そんな背景のなかで貴族として生きてきたフラヴィオがこんな提案をするなんて…それだけでもどれほど希少なことか。

「フラヴィオ…やっぱり僕が見込んだことはある。惚れ直したよ!」
「イヴ…」

あ、ヤバ。

チュ…

「君に相応しい男になりたい。そのための努力は惜しまないつもりだ」
ポッ「き、期待してる…」

も、もう!参ったなぁ…。フラヴィオが遊び人とはとても思えないけど、それでもこういう時、恋愛ごとには慣れてるんだなってしみじみ感じる。ああ…恋愛初心者の僕がこのスイーツに慣れる日は来るんだろうか…




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「イヴ…」
「そ、それよりほら!老男爵は本の虫だったんですね。こんなにいろんなジャンルの本がいっぱい」
「あ、ああ。そうだね…」

この先のためにももう少し仲を深めておきたい、そう考えていたのだがイヴの考えは違うようだ。
今もなお記憶にある『紅白の結婚』。それを考えるにイヴもいつかは触れ合いを望んでいると思うのだが、今はその時でないということか…

「一ついいですか?この辺の本…きちんと分類してくださいね。棚に押し込めばいいってもんじゃないですよ?」

肩をすくめながらイヴが言うのは、物にはなんでも与えられた〝分野ジャンル”があり、それを混合することは時に「混ぜるな危険」と言った状態になるのだとか。

なるほど…言い得て妙だ。

アスタリアの宮廷には大国に倣い議会がある。だが議会に顔を並べる大臣らは、家門のバランスや王家への貢献といった事柄でのみ選ばれている。その彼らが常に最善の務めを果たしているかと問われれば…それは甚だ疑問だ。そしてそれは時に危険をはらむ…

あれは内乱と同じく驕りと油断による人事。本気で他国に狙われるようなことあらばひとたまりもないだろう。
より良き国を作るのであれば、武を理解する者には武の長を、法に長けたものを法の長に、そして理財を深く知るものこそを財務の長とせねばならない。

「それからスペースには限りがあるんですからついでに断捨離もお願いします」
「ダンシャリ?」

「不要なものは捨ててください。ほらこの辺の、どう修繕してももう修復不可能な古すぎる見苦しい本とか…」

確かに…宮廷の地位には限りがある。その地位に大局を見通せぬ老人たちをいつまでものさばらせておいて良いものか…。
権力にしがみつく重鎮たちは己の見苦しさにさえ時として気付かぬ。此度の内乱でさえ、彼らのその浅ましさが過熱させた側面は否めないのだ。

「それからくだらない本も捨てちゃって、えーと、これとか…?」パラパラ「わっ!捨てて!今すぐ捨てて!」

イヴが手に取り真っ赤になって投げ捨てたのは装丁のない薄い冊子。閨の営みを赤裸々に描いた春本である。恐らくは若かりし男爵に教育を施すため、当時の家人が市井で手に入れたのだろう。

つまり…軽薄な者を宮廷に置いてはならない。そう言いたいのだ、イヴは。
浅はかなものは宮廷を乱す。金銭の乱れ、痴情のもつれ、私情による口利き。それはいずれ小さな火種を生み、その火種はいつの日か大火になる。

「イヴ。君の言葉は一つ一つが勉強になる。胸に刻んでおこう」
「…胸に刻まなくていいから…それ捨てて?」

「無論捨てるとも」

後学のため一読した後で。



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