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気になるあいつ
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食欲の秋…
それは僕の異世界生活一周年記念ともいえる感慨深い季節でもある。
不定期開催のおもてなしランチとは別に、お昼時に来た患者さんとは時々中庭でお昼をご一緒することがある。
それを見越してお昼間際の診察予約は会員ナンバー一桁勢で占められているとかいないとか。
おっと、予約って何のこと?って思うよね?実を言うとガメツイ事務長はいわゆる〝ファストパス” 的な何かを売り出しているようなのだ。実害ないからどうでもいいけど。
そんなある日のお昼時…
「エヴァちゃん、もうすぐアスタリアへ出かけていた公爵家のご子息様がお戻りになるよ」
「へー、さすがマッティオさん、情報早いですね」
「どうも帰路はカステーラの舟を使うようでね、うちの船と偶然出航が重なったんだよ」
「そうなんだ」
「ほう?外遊中のパンクラツィオ様がようやくお戻りになるのか」
「長い外遊でございましたが…」
「公爵家騎士団の演習を兼ねた外遊という話だったね。ひとまわりもふたまわりも大きくなられただろうよ。彼は我が国の守護神タランティーノ公爵家を背負って立つ若者、頼もしいことだ」
貿易商のマッティオ氏と僕の会話に割って入ったのは会員番号001番トーニオ男爵、熱心なエヴァ信者だ。
パンキーが無事で心底やれやれである。これで未だに僕のところへやって来ては、慣れない貴族生活を愚痴っているニコラも胸をなでおろしているだろう。
表向きにはただの慰安旅行になっているパンキーのアスタリア滞在。マッティオ氏もトーニオ男爵も、パンキーが〝国落とし” に出向いたことは当然知らない。
けど僕は大体の概要を把握している。何故ならエヴァとイヴが同一人物だと分かっているフラヴィオは、アマーディオから聞いたことを隠さないからだ。
といっても細かい部分は知らないけどね。三次元の乱戦になんか興味ないし。
フラヴィオから聞いたのは「公爵家のご子息は柘榴を手に入れ無事帰還するそうだ」ってこと。
それはイコール、その国の宮殿を手に入れたってことで、それはその国のトップが不在になったということ。
無邪気なエヴァちゃんのちょっとしたパンキーへの嫌がらせによって一国が滅びるとは…なんてお詫びしたらいいか…
いまさらゴメンでもないが、僕には『事の元凶』としての責任がある。正確に言うと責任を取るつもりはサラサラないが、一応どれほど心苦しくても言い出しっぺとして最後まで見届けるのが礼儀だと思っている。
なので今度アマーディオに「次代の担い手にとって勉強になるから事の進捗は逐一勉強会メンバーに共有すべき」と進言するつもりでいる。
大事なことなのでもう一度言うが、フラヴィオはこの件に関し僕に隠さない。
「エヴァさん、少しいいだろうか」
「マルティノ先生…」
仕事の途中でちょいちょいっと廊下の方から手招きをしたのは眼科医の助手となったマルティノである。
彼は大事なカラコン開発研究者だ、先生と呼ぶに不満はない。が…若干モヤッとするのは否めない…
「どうかしました?」
「いや…今度我が家でちょっとした催しがあってね。ニコラに夜会の主催を勉強させるためのものなのだが…君は私の義弟となったニコラと仲が良いだろう?よければ顔を出してやってくれないだろうか。その…私の同伴者として…」
…ニコラと仲良しになった覚えは一ミリも無いが…ニコラがここへちょこちょこ来ていたのはマルティノも知るところだ。
慣れない夜会のホストをするニコラは確かに気の毒ではあるが、かといって…
うーん…うん?同伴者?マルティノの?なんのこっちゃ。意味不明。
「すいませんが貴族の催しに一庶民の僕が参加なんておこがましくて…遠慮します」ズバ
「そ、そんな…、我が家はしがない子爵家系だ!何も問題は無い!」
「問題だらけです」
「君は私の同僚ではないか!それにニコラも安心するだろう!」
「知りません」
「で、では看護師!看護師として君に来てもらいたい!何か起きた時に備え待機してもらいたい。どうだろう」
しつこいな…そもそも催しってなんだよ!
「子爵家の夜会でしたら下位貴族が中心ですよね?ニコラが不安だって言うなら従兄の同僚セルジオを貸してあげます。えーと、男爵家の息子でニコラと面識ある人です」
神経衰弱の勉強会でね☆
「だが…」
「それに看護師待機するほどデカい夜会ですか?子爵家ですよね?」
おっと!ちょっと失礼だったか…失敬。
「集まり自体は小さなものだが…ここだけの話…実はお忍びでパンクラツィオ様がお見えになる」
「え」
「帰国直後の催しだ。彼も長居は出来ないだろう。だがニコラが初めて夜会を主催することは夏頃には決まっていてね、アマーディオはパンクラツィオを奮起させるつもりでその事を知らせていたのだよ。おかげで最後の報告には「祝いに寄るための衣装を新調しておくように」と書かれていたとか」
マジか…
フラヴィオの話では、どうやら僕の授けた生存フラグは無事役目を果たしたようで、パンクラツィオは心臓に命中していたはずの弓矢から例のロケットペンダントで九死に一生を得たらしい。
当然僕の目論見通り、アマーディオに届いた手紙には「これは愛の力、ニコラの起こした愛の奇跡だ」とテンション高めに書かれていたらしい。…男って単純だよね。
そんな運命の相手、ニコラの初主催パーティー…そりゃ駆けつけるだろう。たとえ10分でも。
パンクラツィオが来るのか…気になるっちゃ気になる。
「分りました。長期外遊帰りのご子息様ですもんね。過労で倒れてもいけませんし…看護師としてなら同席しましょう」
「あ、ありがとうエヴァ!当日は私が馬車で迎えに行く。いいね」
「え?別にいらないです。運動代わりに歩いて行きますから」
「これは正式な依頼だ。依頼主が迎えに行くのは当然だろう」
「いや歩いt」
「いいや!これは礼儀だ!!待っていてくれたまえ!!!」
「あ、ハイ」
この圧よ…
さすが生真面目キャラ。設定にブレ無し!
去っていく後ろ姿から聞こえる鼻歌が謎だけど。
それは僕の異世界生活一周年記念ともいえる感慨深い季節でもある。
不定期開催のおもてなしランチとは別に、お昼時に来た患者さんとは時々中庭でお昼をご一緒することがある。
それを見越してお昼間際の診察予約は会員ナンバー一桁勢で占められているとかいないとか。
おっと、予約って何のこと?って思うよね?実を言うとガメツイ事務長はいわゆる〝ファストパス” 的な何かを売り出しているようなのだ。実害ないからどうでもいいけど。
そんなある日のお昼時…
「エヴァちゃん、もうすぐアスタリアへ出かけていた公爵家のご子息様がお戻りになるよ」
「へー、さすがマッティオさん、情報早いですね」
「どうも帰路はカステーラの舟を使うようでね、うちの船と偶然出航が重なったんだよ」
「そうなんだ」
「ほう?外遊中のパンクラツィオ様がようやくお戻りになるのか」
「長い外遊でございましたが…」
「公爵家騎士団の演習を兼ねた外遊という話だったね。ひとまわりもふたまわりも大きくなられただろうよ。彼は我が国の守護神タランティーノ公爵家を背負って立つ若者、頼もしいことだ」
貿易商のマッティオ氏と僕の会話に割って入ったのは会員番号001番トーニオ男爵、熱心なエヴァ信者だ。
パンキーが無事で心底やれやれである。これで未だに僕のところへやって来ては、慣れない貴族生活を愚痴っているニコラも胸をなでおろしているだろう。
表向きにはただの慰安旅行になっているパンキーのアスタリア滞在。マッティオ氏もトーニオ男爵も、パンキーが〝国落とし” に出向いたことは当然知らない。
けど僕は大体の概要を把握している。何故ならエヴァとイヴが同一人物だと分かっているフラヴィオは、アマーディオから聞いたことを隠さないからだ。
といっても細かい部分は知らないけどね。三次元の乱戦になんか興味ないし。
フラヴィオから聞いたのは「公爵家のご子息は柘榴を手に入れ無事帰還するそうだ」ってこと。
それはイコール、その国の宮殿を手に入れたってことで、それはその国のトップが不在になったということ。
無邪気なエヴァちゃんのちょっとしたパンキーへの嫌がらせによって一国が滅びるとは…なんてお詫びしたらいいか…
いまさらゴメンでもないが、僕には『事の元凶』としての責任がある。正確に言うと責任を取るつもりはサラサラないが、一応どれほど心苦しくても言い出しっぺとして最後まで見届けるのが礼儀だと思っている。
なので今度アマーディオに「次代の担い手にとって勉強になるから事の進捗は逐一勉強会メンバーに共有すべき」と進言するつもりでいる。
大事なことなのでもう一度言うが、フラヴィオはこの件に関し僕に隠さない。
「エヴァさん、少しいいだろうか」
「マルティノ先生…」
仕事の途中でちょいちょいっと廊下の方から手招きをしたのは眼科医の助手となったマルティノである。
彼は大事なカラコン開発研究者だ、先生と呼ぶに不満はない。が…若干モヤッとするのは否めない…
「どうかしました?」
「いや…今度我が家でちょっとした催しがあってね。ニコラに夜会の主催を勉強させるためのものなのだが…君は私の義弟となったニコラと仲が良いだろう?よければ顔を出してやってくれないだろうか。その…私の同伴者として…」
…ニコラと仲良しになった覚えは一ミリも無いが…ニコラがここへちょこちょこ来ていたのはマルティノも知るところだ。
慣れない夜会のホストをするニコラは確かに気の毒ではあるが、かといって…
うーん…うん?同伴者?マルティノの?なんのこっちゃ。意味不明。
「すいませんが貴族の催しに一庶民の僕が参加なんておこがましくて…遠慮します」ズバ
「そ、そんな…、我が家はしがない子爵家系だ!何も問題は無い!」
「問題だらけです」
「君は私の同僚ではないか!それにニコラも安心するだろう!」
「知りません」
「で、では看護師!看護師として君に来てもらいたい!何か起きた時に備え待機してもらいたい。どうだろう」
しつこいな…そもそも催しってなんだよ!
「子爵家の夜会でしたら下位貴族が中心ですよね?ニコラが不安だって言うなら従兄の同僚セルジオを貸してあげます。えーと、男爵家の息子でニコラと面識ある人です」
神経衰弱の勉強会でね☆
「だが…」
「それに看護師待機するほどデカい夜会ですか?子爵家ですよね?」
おっと!ちょっと失礼だったか…失敬。
「集まり自体は小さなものだが…ここだけの話…実はお忍びでパンクラツィオ様がお見えになる」
「え」
「帰国直後の催しだ。彼も長居は出来ないだろう。だがニコラが初めて夜会を主催することは夏頃には決まっていてね、アマーディオはパンクラツィオを奮起させるつもりでその事を知らせていたのだよ。おかげで最後の報告には「祝いに寄るための衣装を新調しておくように」と書かれていたとか」
マジか…
フラヴィオの話では、どうやら僕の授けた生存フラグは無事役目を果たしたようで、パンクラツィオは心臓に命中していたはずの弓矢から例のロケットペンダントで九死に一生を得たらしい。
当然僕の目論見通り、アマーディオに届いた手紙には「これは愛の力、ニコラの起こした愛の奇跡だ」とテンション高めに書かれていたらしい。…男って単純だよね。
そんな運命の相手、ニコラの初主催パーティー…そりゃ駆けつけるだろう。たとえ10分でも。
パンクラツィオが来るのか…気になるっちゃ気になる。
「分りました。長期外遊帰りのご子息様ですもんね。過労で倒れてもいけませんし…看護師としてなら同席しましょう」
「あ、ありがとうエヴァ!当日は私が馬車で迎えに行く。いいね」
「え?別にいらないです。運動代わりに歩いて行きますから」
「これは正式な依頼だ。依頼主が迎えに行くのは当然だろう」
「いや歩いt」
「いいや!これは礼儀だ!!待っていてくれたまえ!!!」
「あ、ハイ」
この圧よ…
さすが生真面目キャラ。設定にブレ無し!
去っていく後ろ姿から聞こえる鼻歌が謎だけど。
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