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カステーラ王国からの船
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夏の間を自領で過ごす事の多い当主たちだが、大貴族ほど山野の多い広大な領地を与えられている。
これは狩猟を楽しむためでもあるのだが…得てしてそういった領は王都から離れているものだ。
通常であれば議会の無い季節である。彼らは急な招集に慌て、急ぎ王都へと馬車を飛ばした。
パンクラツィオ帰還の報から一週程が過ぎただろうか…一人、また一人と登城する議員貴族たち。
「皆よく聞くがいい。これはサルディーニャの威信をかけた重大な事象である」
険しい顔の王、その傍らに立つ宰相によって明かされる事の次第。
もちろんそれは〝巻き込まれた気の毒な訪客” としての体裁を整えたものだ。
「『黄金の剣』長期演習を兼ね遠方まで外遊へと出かけた公爵家嫡男パンクラツィオは、この機会を好機ととらえ「二度は来られぬかもしれぬ」とサルディーニャ王族を代表し初顔合わせとなるアスタリア王家を往訪することにした。が、不幸にもアスタリア国は一年以上続く内乱の最中であった」
アスタリアは閉鎖された国。ここサルディーニャの貴族がその情報を持たぬは何も不思議ではない。
「彼らは数週間の滞在で暇を告げる予定であったが、アスタリアの王代理、第一王子ファブリチオは「今動くは危険、安全が確保されるまで王宮にてしばし待たれよ」と彼らを引き留め、それによって不本意ながら長期滞在するに至った」
サルディーニャの名のもと水を向ければ、あの偏屈で融通の利かぬファブリチオのことだ。大国の介入を嫌がり何とか局面が落ち着くまで、と足止めを考えるのは容易に想像がつく。上手いものだ…
「滞在中の不幸な行き違いにより、彼ら『黄金の剣』騎士団は、第一王子派からは第二王子に、第二王子派からは第一王子に加担している、と誤解を受けあまつさえ剣を向けられる状況へと陥ってしまった」
これはカステーラ側から与えられた例の策によるものだろう。そして状況は最終局面を迎える…
「彼らは王族である〝パンクラツィオ公爵令息” の御身を護るため仕方なく剣をふるい…そのパンクラツィオ公爵令息は仕方なくアスタリアの第一王子第二王子を、大国サルディーニャの王族を狙った大逆の罪で捕縛することを決定した」
「おおおっ!」
「結果…第一王子は自害を選び、第二王子は捕えられ連行されている最中である!」
湧き上がる歓声。なんとよく練られた筋書きであるか。
「これより臨時議会を開始する。大臣職の議員は第一議事室へ、それ以外の議員はアマーディオ王太子指揮のもと凱旋式の準備に尽力せよ!」
次兄カッシオを乗せた船はあと二週ほどで予定通り帰港するという。
だが若輩の私に議会の内容を知ることは当然出来ない。
なんとかしてそれを知ることは出来ないか…そんな思案をめぐらす私にアマーディオ殿下の呼び出しがかかったのはほんの二日前、水曜のことだ。
呼ばれていたのはエミリオ殿、マリオ殿、そして私。
勉強会のメンバーと言っても、殿下の信頼、それにははっきりとした格差がある。
エミリオ殿、マリオ殿、そして公爵令息パンクラツィオ殿、彼らが殿下の側近と言われる顔ぶれである。その一端に名を連ねられたことはどれほど幸運なことだろうか。
「父と宰相から許可を頂いた。今日から君たちも今回の議会に同席してほしい」
「それは本当ですか殿下!」
「光栄ではありますが…私たち若輩者を何故?」
「ある人から進言があってね。君たちは事の発端からの「事情を知る」者たちだ。であれば最後まで当事者でいてこそ「次代を担う君たちにとって真に生きた学びになるだろう」とね」
「なんとありがたい進言…それを誰が申されたか伺っても?」
「ふふ、実はエヴァに言われたのだよ」
「おお…」
「エヴァ嬢が…」
イヴ…!またもや彼が!
ああ…彼はどうしてこういつも…彼には私の心が見えるというのか!
「大臣たちは帰宅もままならぬほど連日議論を重ねている。当然君たちも泊まり込みになるだろうが…構わないね」
「ええもちろん」
「一言一句逃さないようこの耳に収めましょう」
「では私は瞬きもせぬよう全てを瞳に焼きつけましょう」
これはイヴがくれた貴重な機会、なんとか二週後に到着するカステーラの使者と話す機会を得たい、そのためにはどうすべきか…その時私はそれを考えていた。
これは狩猟を楽しむためでもあるのだが…得てしてそういった領は王都から離れているものだ。
通常であれば議会の無い季節である。彼らは急な招集に慌て、急ぎ王都へと馬車を飛ばした。
パンクラツィオ帰還の報から一週程が過ぎただろうか…一人、また一人と登城する議員貴族たち。
「皆よく聞くがいい。これはサルディーニャの威信をかけた重大な事象である」
険しい顔の王、その傍らに立つ宰相によって明かされる事の次第。
もちろんそれは〝巻き込まれた気の毒な訪客” としての体裁を整えたものだ。
「『黄金の剣』長期演習を兼ね遠方まで外遊へと出かけた公爵家嫡男パンクラツィオは、この機会を好機ととらえ「二度は来られぬかもしれぬ」とサルディーニャ王族を代表し初顔合わせとなるアスタリア王家を往訪することにした。が、不幸にもアスタリア国は一年以上続く内乱の最中であった」
アスタリアは閉鎖された国。ここサルディーニャの貴族がその情報を持たぬは何も不思議ではない。
「彼らは数週間の滞在で暇を告げる予定であったが、アスタリアの王代理、第一王子ファブリチオは「今動くは危険、安全が確保されるまで王宮にてしばし待たれよ」と彼らを引き留め、それによって不本意ながら長期滞在するに至った」
サルディーニャの名のもと水を向ければ、あの偏屈で融通の利かぬファブリチオのことだ。大国の介入を嫌がり何とか局面が落ち着くまで、と足止めを考えるのは容易に想像がつく。上手いものだ…
「滞在中の不幸な行き違いにより、彼ら『黄金の剣』騎士団は、第一王子派からは第二王子に、第二王子派からは第一王子に加担している、と誤解を受けあまつさえ剣を向けられる状況へと陥ってしまった」
これはカステーラ側から与えられた例の策によるものだろう。そして状況は最終局面を迎える…
「彼らは王族である〝パンクラツィオ公爵令息” の御身を護るため仕方なく剣をふるい…そのパンクラツィオ公爵令息は仕方なくアスタリアの第一王子第二王子を、大国サルディーニャの王族を狙った大逆の罪で捕縛することを決定した」
「おおおっ!」
「結果…第一王子は自害を選び、第二王子は捕えられ連行されている最中である!」
湧き上がる歓声。なんとよく練られた筋書きであるか。
「これより臨時議会を開始する。大臣職の議員は第一議事室へ、それ以外の議員はアマーディオ王太子指揮のもと凱旋式の準備に尽力せよ!」
次兄カッシオを乗せた船はあと二週ほどで予定通り帰港するという。
だが若輩の私に議会の内容を知ることは当然出来ない。
なんとかしてそれを知ることは出来ないか…そんな思案をめぐらす私にアマーディオ殿下の呼び出しがかかったのはほんの二日前、水曜のことだ。
呼ばれていたのはエミリオ殿、マリオ殿、そして私。
勉強会のメンバーと言っても、殿下の信頼、それにははっきりとした格差がある。
エミリオ殿、マリオ殿、そして公爵令息パンクラツィオ殿、彼らが殿下の側近と言われる顔ぶれである。その一端に名を連ねられたことはどれほど幸運なことだろうか。
「父と宰相から許可を頂いた。今日から君たちも今回の議会に同席してほしい」
「それは本当ですか殿下!」
「光栄ではありますが…私たち若輩者を何故?」
「ある人から進言があってね。君たちは事の発端からの「事情を知る」者たちだ。であれば最後まで当事者でいてこそ「次代を担う君たちにとって真に生きた学びになるだろう」とね」
「なんとありがたい進言…それを誰が申されたか伺っても?」
「ふふ、実はエヴァに言われたのだよ」
「おお…」
「エヴァ嬢が…」
イヴ…!またもや彼が!
ああ…彼はどうしてこういつも…彼には私の心が見えるというのか!
「大臣たちは帰宅もままならぬほど連日議論を重ねている。当然君たちも泊まり込みになるだろうが…構わないね」
「ええもちろん」
「一言一句逃さないようこの耳に収めましょう」
「では私は瞬きもせぬよう全てを瞳に焼きつけましょう」
これはイヴがくれた貴重な機会、なんとか二週後に到着するカステーラの使者と話す機会を得たい、そのためにはどうすべきか…その時私はそれを考えていた。
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