コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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クロッシング イヴとイブ

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カクン!

あ、あっぶな!

あ、あれ?落ちたと思ったのに落ちてない…というか、何かおかしい…何この違和感…

「イブ、大丈夫か?」
「あ、うん」

だ、誰だこれ?…っていうか…現代服⁉

「もーなにしてんのイブりん、早く!」

リンリンさん⁉

「あ、うん」

えー!えー!えー!よ、よくわからないけど、どうやら僕は現世に戻って来てしまったらしい!
まあ二度目ともなれば驚きはしないが、どこだここ?

よく見れば僕はイヴァーノの衣装を着ている。
微妙に見覚えの無い衣装…このボタンのつけかたは…お母さん作か!

「イヴァーノ様でも階段からコケることあるんですねー」

どっ!

状況把握も出来ないままどこかの舞台に立ち手渡されたのは一本のマイク。

えっ?マイク?えっ?えっ?こ、ここはイブじゃなくイヴァーノだよね?

「だ、だまれ!安っぽい階段が足に合わなかっただけだ!」

どっ!

「さすがはイヴァーノセレクションのイブりん、品質に厳しい!」

パッとバックスクリーンに映し出される何かの動画…これは…インスタライブか!
スクリーンの中では僕じゃない僕、つまりこっちに来たイヴァーノがイヴァーノのまま新作ラテの飲み比べをしている!

イヴァーノ!お前こんなことやってんのか!

「では歌ってもらいましょう!曲はこのコスプレサミット、オープニングアクトに相応しい…私の太陽オー・ソレ・ミオ!チーム『どきナイ』パフォーマンスお願いします!」

うっ!これコスサミ(本物)なのか!それも本選じゃないか!どういう事ー⁉

今のMCで分かった状況。どうやらイヴがバズって…それでコスサミのオープニングアクトに選ばれて…三人は僕を置いてヘッドマイクつけて中央に居るから…

僕はここでイヴァーノになってればいいんだな!

胸元にはイヴァーノのシンボルであるゴージャスな扇。アレクサ様というお手本を得て今の僕は本物の扇さばきを手に入れている!

バッ!パタパタパタ…

正解だったようだ。
心配そうにこっちを見た三人はホッとした顔で踊り出した。
バックスクリーンに映るのは同じ動きをするアニメーションの『ドキナイ』キャラ。ニコラにアマーディオにヴィットーレ。これはきっと噂されてた配信アニメなんだろう。

ここでやれなきゃ男がすたる!そうでしょ!だってこれは夢にまで見たコスプレサミット本選なんだから!


あっ!アマーディオ…じゃない!紫龍さん歌詞間違えた!

ツカツカツカ…パシッ!

どっ!

う、ウケてる…

ツカツカツカ

「マイクを貸せ!」

MCのマイクを奪い取りイヴァーノになりきって一言!

「庶民よ踊るがいい!」

うおぉぉぉ!

ウケた…

ああイヴァーノありがとう!僕の代わりに僕の夢を叶えてくれて!言いようのない熱狂。本選のステージに僕を立たせてくれて!
アスタリアのコスサミだってメチャクチャ感動したけど、でもこれは…

レイヤーなら誰もが夢見る栄光の舞台なんだから!!!


次のターゲットロックオン!目指すはニコラ、カノンさんだ!

ツカツカツカ パシッパシッ ええい!この僕を差し置いて真ん中に立つな!そこをお退き!

どっ!

ああ気持ちいい…

はっ!

目が合ったのはリンリンさん。あの事故の時も僕の隣に居た、僕の最も信頼すべき相棒!
…リンリンさんのヴィットーレ…クス…チョイスがパンキーじゃないのはきっとイヴァーノが嫌がったんだろう。

そっかイヴァーノ。満喫してんじゃん…

ドキ!観客の中に見知った顔。あれは見間違えじゃない。僕の家族だ!愛すべき僕の家族!!!


腕を組んで仁王立ちしてパフォーマンスの終わりを待てば…

「みなさん!チーム『どきナイ』に大きな拍手をー!」

パチパチパチ…

鳴りやまない拍手。
数段降りたらそこは下界。ここからは魅せる側じゃなく見る側になる。

今からこのステージでは世界中の猛者たちによる真のパフォーマンスが始まるのだろう。
わずか数分のステージ。オープニングアクトな出番だけど、それでもきっと死ぬまで忘れられない記念のステージ。

ツン

「紫龍さん、カノンさん、先行ってて」
「はーい」

「リンリンさん…」
「もしかして本物のイブりんよね?」
「うんそう。よくわかんないけど戻っちゃって」
「う…」クスン「良かった会えて」
「僕も会えて嬉しかったリンリンさん。だけど僕帰らなきゃ」
「えっ?帰るつもりなの!せっかく戻れたのに?」

ここは大好きな人がいっぱい居る大好きな日本で…ずっとここに居たい、それは本心。でも…

「実はあっちに夫と子供(フェルたん)が居て」テレ…
「ええっ!!!」
「だからあっちに帰りたい。どうすればいいんだろう…」

ポン

「お、お父さん!お母さん!お姉!青葉!」

「すぐわかったわよ。伊吹だって」
「お母さん…」
「話は聞いたよ伊吹。向こうに家族が居るんだね」
「お父さん…」
「イブちゃん、俺付いてこーか?」
「よしなさい青葉」
「それより夫ってことは伊吹受けよね?夫ってどんな人!イケメン?イケメンなの!」

相変わらず腐ってんなお姉。

カサ…あ、これ…
胸元のロケットペンダントには写真が一枚。アスタリアから帰った後、ロデじいも入れて四人で撮った写真。

「お母さん、これあげる」
「…今の家族?」
「うん」
「なんか変な感じね。ほんとにイヴァーノなんだ」
「うん」
「どうよそっちは」
「いろいろあるけど…この顔でラッキー」
「ぷっ、…楽しくやってんのね?」
「うん」
「幸せなのね?」
「うん」
「…ならいい。どこにいたって繋がってるから好きなところに行きなさい」
「伊吹、僕たちは離れてたって家族だよ」
「う、うん」ウル…

ああ…僕の家族は最強だ!


ゴシゴシ「やっぱり帰りたい。帰らなきゃ」

「結婚してちゃね」
「お姉は?」バシ「イテ」
「うるさいわね」

「お姉…」
「なによ」
「イヴァーノをよろしく…」グス
「任せなさい、出来の悪い弟だけど」

「お父さんどうしたら帰れる?…どうにかして!」

イヴァーノ・モードの世界進出はまさにこれからで、デビューしたてのBKDには僕の力が必要で、ルイルイとカタリーナ様の婚礼衣装だって作らなきゃならないし…それに…

フラヴィオ!フラヴィオには僕が居なくちゃ!あの家族を養えるのは僕しか居ないんだから!


「大丈夫だ、お父さんに任せなさい。リンリンちゃん、そこのコンビニでイヴァーノの顔をA3サイズで二枚プリントしてきてくれるかい?」
「承知!」
「それから青葉、大木君を呼んできてくれるかい」

「オーキさーん!」

呼んだ先に居るのはさっき心配そうに僕を見ていた、年の頃二十四、五のカメラマンっぽい青年。彼は家族が置きっぱにした荷物の番を(ヒドイな)しているようだ。

コソ「伊吹、あの人イヴァーノの恋人」
「えっ⁉」

マジか⁉ なんか普通の真面目そうな人で…意外なんだけど。

「あれらの写真を分析して気付いたことがあるんだよ。あの写真…大きく拡大した伊吹の左右にはイヴァーノの紙袋を持った男性が写っていた」

あれは…企業ブースの会場限定グッズを買うための待機列で…あの列は…まさに『ドキナイ』の運営企業!配信アニメ化を記念して、あの日あの場所では『ドキナイ』の限定公式グッズが売られていた!
あの紙袋は確か…表にニコラとアマーディオが、そして裏面にイヴァーノの顔がアップで描かれていた。

「彼らは袋がつぶれないよう両手を高く上げ丁度ほんの一瞬、偶然イヴァーノの絵が伊吹の顔を左右から挟み込んでいたんだよ。それらから導き出される結論は…僕が思うに合わせ鏡のような状態になったんじゃないかな?そう考える」

合わせ鏡、それは死者を呼ぶとも悪魔を呼ぶとも言われる異界の入口。

お父さんは続けて言う。
この現象はきっと、あの場で魂が抜けかけた僕の「死にたくない!」と思う強い気持と、同じ服装同じ顔をしたイヴァーノの「消えて無くなりたい!」という強い感情がリンクした結果だろうって。

「向こうに戻りたいと強く願う気持ちが伊吹とイヴァーノ両方にあれば…きっと異界への道は開くさ」

「伊吹、イヴァーノならきっと大丈夫。あの子大木さんにベタ惚れだから。こっちに帰りたいって今頃ベソかいてるわよ」

へぇ?

「けれどそれだけじゃもちろん駄目だ。もう一つのファクター、それが写真、フィルムに姿を焼き付けることだ。魂を器に焼き付けて、それで初めて定着作業は完了する。最後の鍵は恐らく〝写真を撮る”行為だ」
「写真…」
「伊吹とイヴァーノ君の入れ替わりは奇跡のような偶然の積み重ねによる産物なんだよ」

「お父さん呼びましたか?」

お父さん呼び…家族公認か。やるなイヴァーノ。



「大木君、記念写真を一枚頼めるかな?」





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