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リーネの薬草採取とライキの料理

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ライキとリーネが13歳の春。
"桜駒鳥の薬屋"で使う薬草採取の護衛を依頼されるハント家だったが、その仕事はジュニアスクールを卒業して狩人デビューしたばかりの銀色狼ライキ1人に任されることになった。
「えっ、父さんが俺1人で薬屋の薬草採取の護衛に行くようにって?」
「あぁ。
俺は南の森に出る魔獣の素材を頼まれてるからそっちには行けねーしな。」
と説明する兄ハイド。
「そっか・・・兄貴スゲーな。
成人前でもうハイクラス魔獣の出る南の森に狩りに出るなんて。」
「いやいや、単にお前が狩人デビューして西の森に入るようになったから、2人もそっちにいらねーってことだろ。
それよかお前、チャンスだぜ?
今回の護衛の対象は空駒鳥ちゃんだけだから、西の森で2人きり・・・。
いいところを沢山見せて距離詰めとけ!
んで、次の約束を取りつけろ!」
ハイドはニヤニヤして弟ライキに肘鉄を食らわす。
「えっ!
なっ、なっ、何でそんな事言うんだよ・・・」
「いや、お前の態度見てたら丸わかりだぜ?
気がついてないの空駒鳥ちゃん本人くらいじゃねーの?」
「~~~~~。」
真っ赤になって複雑な顔をするライキ。
「・・・でもまだ狩人になってばかりの俺で大丈夫かな。」
「余裕だろ。
ガキの頃から庭みてーに入ってる西の森だし、出てくる魔獣もお前1人で対処できるだろ?
ただ空駒鳥ちゃんは薬草採取を1人で任されるのは今回が初めてみてーだし、気合いが入りすぎて時間を忘れてのめり込んでしまいそーだな。
そこんところの注意と、万が一時間がかかって腹が減っても、お前が飯を作るのはやめとけ。
理由は分かってるだろ?」
「・・・うん。」
「その2点だけ気をつけりゃ大丈夫だろ。」
「わかった。
それじゃ、行ってくる!」
「おう!がんばれよ!」
「兄貴も!」
ライキはハイドとクロス当てを交わし、桜駒鳥の薬屋へと向かったのだった。

ライキは約束の時間の15分前に桜駒鳥の薬屋を訪れ、薬草採取の準備を済ませて待合席で待機していた彼の想い人である空駒鳥リーネに声をかけた。
「あれっ、今日の護衛ってライキ一人だけなの?」
「うん。
・・・俺だけだと不安?」
「ううん!
もう一人で護衛を任されるだなんて、ライキ凄いなーと思って。」
「・・・リーネこそすげーじゃん。
ひとりで薬草採取任されてて。」
「ううん、おばあちゃん足が痛くて森に入るのが無理になったから、私が任されただけだよ。」
「そっか・・・ばあちゃん大変だな・・・。
でもリーネが薬草のことを知り尽くしてるから任されたんだろ?
やっぱすげーよ。
それに店に置いてるリーネの石鹸とかジャムとかクッキーとかも、俺の母さんがとても上手だっていつも褒めてるよ。」
(うちのお嫁さんに来てくれないかしらって言ってるのは恥ずかしいから内緒にしとこう・・・。)
「えっ、ホントに!?
おばさんに褒めてもらえて嬉しい!!
でもライキのが凄いよ・・・!
西の森のことを知り尽くしてるし、一人で魔獣を狩って来るんだもん。」
「いや、全然俺なんか・・・ってさっきからこんなんばっかだな!」
「うふふ!本当!
でも、ライキとこんなに話すのなんて久しぶりかも!」
「・・・うん。」
(俺はもっと普段からいっぱい話したいけど、ジュニアスクールを卒業したら会う機会も減ったしな。
小さい頃は何も考えずに狩りの見習いに出る途中で薬屋に寄ってはリーネと遊んだりしてたのに、スクールに通ってる間に女子は女子、男子は男子の人間関係が出来て、その延長で用もないのに薬屋に顔出しづらくなったんだよな・・・。)
(よし、頑張っていい所をアピールして、昔みたいに気軽に薬屋に顔出せるくらい距離を縮めるぞ・・・!
そして、次の約束を取り付けてみせる!)
ライキは心密かに燃えるのだった。

その後2人は西の森に入った。
ライキは魔獣に出くわした際には無駄な戦闘は避け、リーネが危なくないよう的確な方法で追い払い、なるべく安全な道を選びエスコートした。
リーネがライキの仕事ぶりに感心して「凄いね!」「ありがとう!」といちいち褒めるので彼は照れくさかったが、その都度顔の筋肉が緩み締まらなくなるので、ライキは自分の頬を叩いてばかりいた。
「ライキさっきからほっぺたばかり叩いてどうしたの?」
「・・・緩まないように叩いて絞めてる。」
「えーっ?何それ!変なの!」
彼女はあははっと楽しそうに笑う。
それだけでライキは幸せで、また顔の筋肉が緩むのだった。

大分森の中へ進んだ頃。
「あっ、野いちごがある!」
ふと、彼女が足元の野いちごを摘む為に屈んだ。
その際、胸元のブラウスに隙間が出来て控え目な胸がチラリと見えて、ライキは心臓が飛び出すかと思った。
(うわぁぁぁ!!
胸見えた・・・!
先っちょも少し・・・ピンク色だった・・・!!)
突然の刺激に下半身が反応してしまい、
(やばいやばい!
鎮まれ鎮まれ・・!!)
一生懸命意識を逸らそうとしても、先程のビジョンが頭から離れてくれない。
「・・・・・?
どうしたの?ライキ」
野いちごを口に含みながら不思議そうに覗き込んでくるリーネ。
ライキは下半身を見られないように腕で隠しつつ、
「あ・・・ちょっと用足してくるからここで待ってて。」
と言って誤魔化した。
「う、うん。」
用足しと聞いて恥ずかしかったのか、軽く頬を染めて頷くリーネだった。

ライキはリーネに何かあったら気がつける程度の距離にある木陰でまだ熱の篭った顔のまま用を足していた。
(さっきの胸チラ、脳裏に焼きつけとこう・・・。
まぁ、ホントに小便はしたかったんだけど、勃ってるとしにくいな・・・。
早く鎮まってくれ・・・。)
用を足し終えると何とか目立たない程度に鎮まったので、リーネの所に戻った。
「ごめん!おまたせ。」
すると、彼女は恥ずかしそうに頬を染めながらライキの服の袖をひっぱって、もじもじそわそわしながら言った。
「あ、の・・・私も・・・お手洗いに行きたくなって・・・。」
ビクーーーン!!
リーネのその様子にまたしても股間が反応するライキなのだった。
「う、うん・・・。
俺ここにいるから行っておいで・・・。」
股間を悟られないよう背を向けつつ小さく手を振った。
「だ、大丈夫、辺りに魔獣の気配はないから。」
「あ、ありがとう・・・。」
リーネは赤い顔のままで茂みの方へ消えていった。
(リーネのおしっこ・・・)
ごくっと生つばを飲むライキ。
(やばいやばい、深く考えたらまた収まらなくなるぞ!
どうでもいいこと考えよう・・・どうでもいいこと・・・。
角イノシシの睾丸・・・岩鳥のトサカ・・・竜巻うさぎの尻尾・・・…)
そんな普段体験出来ない野外ならではのドキドキもありつつ、楽しい時間はあっという間に流れていった。

そしてハイドの予想通り、リーネは森の奥の薬草の宝庫に夢中になり、どんどん薬草を摘んでいた。
「リーネ、もう充分じゃないか?
もうばあちゃんのリストにあったぶんは採取出来たんだろう?
あまり奥に行くと、いくら西の森でも危険な魔獣が出るし、帰りも遅くなるから。」
「うん、でももう少しだけお願い!
この薬草私も良く使うから沢山採っておきたいの!
あっ、あそこにも珍しい素材がある!」
ライキはそれから何度も声をかけたが、リーネは止まらなかった。
しかし、空模様が怪しく風が出てきたこともあり、いよいよまずいと感じたライキは薬草採取中のリーネの手を止めて、目を見てハッキリと伝えた。
「リーネ、俺でよければまた付き合うから今度にしよう。」
「でも・・・今回はお店に必要な薬草採取だったからおばあちゃんが報酬を支払ってくれるけど・・・
私の個人的な薬草採取で護衛の報酬を支払う余裕なんて、私にはまだないもの・・・」
「いいよ報酬なんて。
リーネと一緒にいられるのなら俺は・・・」
赤くなり、後半は小声になるライキ。
「そんな訳にはいかないよ。」
そうリーネが言った時、ポツポツと雨が降ってきた。
「雨・・・!大変!
濡らしたら使えない材料もあるのに!」
「リーネ、こっち!
洞窟があるから。」
ライキはリーネの薬草籠が濡れないよう自分のマントを被せると、手を繋いで洞窟へと走った。

ザーッ・・・激しい雨音が聞こえる洞窟の中。
ライキは持ってきた道具で火を起こすと、木陰にあった無事な枯れ枝を拾って火に焚べた。
少し濡れた枝も後で使えるよう火の近くに置いて乾かしておく。
「リーネも少し濡れただろ?
もっと火の近くにおいでよ。
服も乾くし温まるよ?」
「うん・・・ありがとう。」
「薬草は?大丈夫そう?」
「ライキがすぐにマントをかけてくれたから大丈夫だったよ。」
「そうか、良かった・・・。」
パチパチパチ・・・焚き火の音と沈黙。
「ごめんね、ライキ・・・私がライキの言う通りに切りあげておけば、雨が降る前に帰れたのに・・・。」
「ううん、俺も強く言わなかったから・・・。」
(薬草採取に夢中になるリーネが可愛いかったし、少しでも長く一緒に居たかったから雨が降りそうだとわかっていたのに強く伝えられなかった・・・。
しかも、二人で雨宿りをしているこの状況をラッキーだと思ってる俺は、護衛失格だな・・・。)
「どうしよう・・・。
雨、止みそうもないね・・・。」
「大丈夫だよ。
この雨雲だと1時間くらい待てば止むと思う。
日が暮れる前には家まで送り届けるよ。」
「・・・ありがとう・・・。
ライキ、頼りになるね・・・。」
「そんなことないよ・・・。」
その時、ぐうううう・・・と、リーネのお腹から空腹のサインが聴こえる。
「・・・・・。」
リーネの方を見ると、音が恥ずかしかったのかお腹を押さえて真っ赤になっている。
それを見てライキは思った。
(腹の音で赤くなってるリーネ、可愛い・・・。)
「・・・腹減った?」
「・・・ごめんなさい・・・少し・・・。」
今度はライキの方からぐううううと音がする。
「俺もだ(笑)」
「うふふふ!本当!」
そこで2人は笑い合い、和やかなムードが戻った。
「携帯食料を持ってくればよかったな・・・。
簡単な調理道具ならあるにはあるけど・・・。」
ライキは小さなウエストポーチから鍋を取り出した。
「えっ!ポーチからお鍋・・・?
もしかしてこのポーチ、亜空間に繋る魔石が付いているの!?」
「え?あ、うん。
この鞄は狩人になったとき父さんに貰ったんだ。
ポーチに入る大きさの小物なら、容量制限付きだけどある程度収納できるから、水筒や鍋、ロープや矢、予備のナイフとか色んな道具を入れてある。
でもボウガン程の大きさは無理なんだ。
だからいつも担いでるだろ?
大物の多い南の森に入る父さんと兄貴は、ほぼ制限なしで亜空間にアイテムを収納出来るアイテムボックスの魔石を持ってるけどな。」
「そうなんだ・・・凄いね!
うちも素材を劣化せずに保存するために容量制限の少ないアイテムボックスなら持ってるけど、そんな大容量なのは持ってないなぁ。
大容量のアイテムボックスって凄く珍しくてとても高価なんでしょ?」
「うん。
確かにレアだし俺の知る限り最も高価な魔石だけど、俺の家は狩人で魔石の仕入元だろ?
だから手に入ったアイテムボックスを売らずに持っておくことも出来るし、手元に無ければ狩人仲間から回してもらったりも出来るから。」
「そっか、なるほど・・・」
ぐうううう・・・会話しながらふたりの腹の音が重なり、また笑い合う。
「やっぱりお腹すいたね。
何か食べないと駄目かな・・・。」
「・・・うん、そうだな・・・。
リーネって料理する?」
「??
うん、小さい頃からおばあちゃんのお手伝いをしてるから、一通り出来るけど・・・。」
「じゃあさ、俺鳥か何か狩るから料理はリーネに頼んでいい?」
「えっ!
でも私、野外でお料理したことないし自信がないよ・・・!
ライキって何でも出来るし、狩人だから野外でのお料理も手慣れてるんじゃない?
ライキが作った方がいいよきっと!」
リーネが手を左右に振りながら言う。
「・・・いや、俺の料理は・・・。」
「・・・??」
凄い期待の眼差しで見てくるリーネにそれ以上何も言えなくなってしまうライキなのだった。
(リーネにかっこ悪いところを見せたくないし・・・。
シンプルに焼く、煮るだけなら大丈夫かな・・・。
狩りで長引く時たまに自分で料理して食ってるけど、すげー不味いけど特に腹は壊さないし!
味付けさえ気をつければ行けるはず!
よし!)
「・・・一応作ってみるけど、あんまり期待はするなよ・・・?」
「またまたぁ、そんな謙遜しなくてもいいのに・・・!」
とリーネが笑う。
「・・・いや、マジで・・・。
無理だと思ったら食べなくていいから・・・」

ライキは洞窟の入口から近くの木に止まっていた火炎鳥をボウガンで撃ち落とす。
リーネはお見事!とパチパチと手を叩く。
照れながら近くにある食べられそうな木の実や野草を取るとさっと洞窟に戻り、鳥は丸ごと木の枝に刺すと火で炙った。
「えっ・・・鳥、羽を毟らないで焼くの!?」
リーネが驚いて声を上げる。
「・・・?
うん。火が通れば勝手に羽根が落ちて楽なんだ。」
「・・・そ、そう・・・豪快だね・・・」
更に木の実と野草をザクザク切っていくライキ。
(あっ・・・食材を切るの手際良くて私より上手・・・。)
とリーネが感心していると、
ライキは背後を走っていたネズミのような小さな生き物をさっと素手で捕まえて、雨水を溜めた鍋に潰して入れた!
「!!?」
目を白くして驚くリーネ。
「ん?
どうかした?」
「・・・ええと、さっきのネズミ?
手で潰して入れるのって、狩人の人にはよくある調理法なの?」
「・・・どうなんだろ?
前に父さんもやってたからそうなのかもな?
あ、でも兄貴はやらないか。
木の実と野草だけより味わいが出るかなって思うけど、変かな?」
「えぇと、出汁として使うために沸騰したお湯に入れるのではなく?
水から潰した状態で入れて・・・血生臭くならないかな・・・。
内蔵も、取り除かなくて大丈夫?」
「うん、俺いつもこうやってるけど・・・?
あのネズミ草食だし内蔵も使って問題ないだろうし。
水から入れても沸かせば一緒じゃないかな?」
「そ、そっか・・・?」
(ん゛んー?
大分違うと思うけど・・・!)
と引きつった笑顔でたらたらと汗をかくリーネ。
「ご、ゴメンね・・・。
作って貰っておきながら、余計な口出しをして・・・。」
「ううん、もう少しで出来るから待ってて!」
ライキは笑顔でそう言うとまた料理に戻った。
リーネは出来上がりに強い不安を感じつつ、後は黙って見守ることにした。
ライキの調理法にツッコミどころは山ほどあったが、リーネはすべて心の中に留めておいた。
(灰汁があんなに出てる・・・。
取らなくていいのかな・・・。)
(あーーっ!
お塩は・・・もう充分じゃないかな!?)
(ひゃーーー!
そこにお酢を入れるの!?
しかも量が半端ない!!)
(・・・何だろうあの謎の青いプルプルしたの・・・調味料・・・?
見たことがない・・・。
食べて大丈夫なものなのかな・・・。)
(きゃーーー鶏!!
墨になってるー!!
確かに羽根は跡形もなくなったけど・・・!!!)
「リーネ、お待たせ!出来たぞ!」

─ライキ風火炎鶏の丸焼き(墨)と、即席ネズミと木の実と野草のスープ ─
そこには地獄絵図が広がっていた。

ライキは額にかいた汗を腕で拭いながら安堵のため息をついた。
(よし!
いつもより上手くできた気がする!
シンプルにしようと思ったのにリーネがめちゃ見てるから気合いが入りすぎて色々手をかけすぎてしまったけどな。
でも食べやすいよう調味料もいろいろ使ったし、仕上げにスライムも入れたから大丈夫なハズ!)
リーネは出来上がった料理を前にして、見たことが無いくらい血の気が引いて青ざめていたが、ライキが期待と不安が入り交じった複雑な眼差しで見てくるので、食べないわけにいかないなと意を決して口にした。
「い、いただきます・・・!
・・・パクッ・・・うぐっ・・・・」
(・・・すごく有り得ない味がするけど、人が好意で作ってくれたものを吐き出す訳にはいかない・・・!
何としても飲み込まなくちゃ!)
コックン・・・。
リーネはそのまま泡を吹いて意識を失った。

ライキは倒れたリーネを担いで桜駒鳥の薬屋まで連れ帰った後、マールに事情を話し、謝った。
マールは「あれま!」と驚いていたが、
「気にしなくていいよ。
夢中になりすぎて時間を忘れ、お前さんに料理を任せたこの子も悪いんじゃから。
幸い毒の類には慣れてる子だし、薬で毒素を全部出せば明日には治るから。」
とライキが気に病まないようにかヒャッヒャッヒャッと笑い飛ばした。
ライキは自分の所為でリーネが酷い目に遭ったから報酬はいらないと言ったが、頼んだ薬草は手に入ったのだからと強引にマールが渡してくるので、一旦それを受取ってから父に確認を取ることにした。
「それにしてもお前さんは大丈夫なのかい?
同じものを食べたんじゃろ?」
「うん。
食ったけど実は俺腹って壊したことがなくて・・・。
父さんと兄貴も俺の料理食べても不味いってだけで、腹は特に壊さなかったから気が付かなったけど、普通の人には俺の料理は毒だったんだな・・・。
本当にごめん・・・!」
「いやいや、もう謝らんでもええからに!」
バシッ!とライキの腹を叩くマール。
「しかしハント家の男は腹も強いんかいの!(笑)
こりゃ新しい毒を試す時はお前さん達に頼もうかねぇ・・・ひゃっひゃっひゃっ!」
「・・・ハハハ。」
(俺は毒を盛られても仕方ないけど、父さんと兄貴はやめてあげて・・・。)
と冷や汗をかくライキなのだった。

その後家に戻ったライキは、父の帰りが遅くなるようなので、ひとまず兄のハイドに今日の出来事の報告をした。
「はあっ!?
自分の料理をあの子に食わせたってか!?
お前の場合胃袋でハートを掴むどころかトラウマを植え付けかねないからやめとけって言ったのに・・・。
あちゃー・・・。」
ハイドはそう言って頭を抱えた。
(こりゃあ相手がマゾでもない限り許してくれないんじゃねーか?
ヒルデなら回し蹴り食らわされた上しばらくエロいことお預けされて、それでも何だかんだで許してくれるだろーけど・・・。
あの子はどーかな・・・。
許してくれるといいけど・・・)
と弟の恋の行方を心配し、ため息をつくハイドだった。

リーネは毒素が抜けるまで丸1日は寝込んでいたが、マールの薬があったため比較的早くに回復した。
そして目覚めてから思うのだった。
(今までライキのこと、完璧すぎて何処か近寄り難い男の子だと勝手に思ってた。
小さい頃から狩りで西の森に入っていたライキは良くうちに顔を出してくれたし、一緒に遊んだりもしてた幼馴染なのに・・・。
ジュニアスクールに入ったら、女子は女子、男子は男子の人間関係が出来ていって、段々と疎遠になって・・・。
それでもライキは優しいから、機会があるごとに私に話しかけてくれてたけど、ライキは女の子に人気があったから、他の子に睨まれたりするのが怖くて、用もないのにこちらから話しかけるのは遠慮したりしてた・・・。
卒業してからもその延長で、ライキを見かけても昔みたいに気軽におしゃべりが出来なくなっちゃってた。
昨日は久しぶりに沢山おしゃべりが出来てとても楽しかったけど、あまりに完璧に護衛をこなしてくれたから、やっぱり遠い存在なのかなって少し寂しく思ったけど・・・。
そこでまさかのあの料理・・・!
あんな凄い欠点があっただなんて・・・!
何だかとても親近感が湧いちゃった!
ライキのことをもっと知って、仲良くなりたいなぁ・・・。
そんなふうに思えた男の子ってはじめて!
だから、きっとあの地獄の様な料理も腹痛も、無駄じゃなかったんだわ・・・!
あの料理を食べたいとは二度と思わないけど!)
と思い微笑むのだった。

その翌日、リーネに嫌われたかとハラハラしながら花を持って見舞いに行ったライキだったが、とてもフレンドリーに対応されて目が点になり、帰宅後ハイドに、
「リーネ元気になってたけど、なんかすげーキラキラの笑顔で今度料理教えてあげるねって言われたんだけど・・・。」
と報告した。
「・・・ほ、ほぉ・・・?
よかったな、あの子そっちか(笑)」
「そっち?
・・・何?」
「いや・・・まぁ、良かったじゃねーか!
これをきっかけにどんどん距離を詰めてけよ!」
ハイドは自分の心配が杞憂に終わり、心底ホッとしたのだった。

更に後日──。
ライキがハイドに今日の出来事を嬉しそうに話していた。
「今日リーネに料理を教えてもらいに行ったら、
”ライキにも努力してもどうにも出来ない事ってあるんだね・・・”
って自分の胸を見ながら言って、
”えへへ・・・お仲間だね!!”
・・・って手を握って励まされたよ。」
「そ、そうか・・・。」
(やっぱりこいつの飯だけは、リーネでもどーしようもなかったか・・・。)
ハイドは苦笑いをした。
「でもその後リーネが作った飯をご馳走になったんだけど、すげー美味くてびっくりした。
めちゃ褒めたらまた食わせてくれるって!
やった!」
「ハハッ、そうか、そりゃ良かったな!」
兄弟は笑い合いクロス当てを交わすのだった。

それから狩りの合間に薬屋に寄っては雑談を交わしたり、たまに薬草採取に付き合う報酬としてリーネのご飯を食べさせてもらう仲に発展したのだった。
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