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プロローグ

『混沌の世界にて』

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 なんか意識がフワフワとしている‥。 しかも暖かくて心地よい…。

 「ここはどこだ…。わたしは誰だ…。」

 死んだはずの俺の意識が少しずつ蘇る中、なぜか俺は知る人ぞ知る『厨二病』発言をしていた。

 『ここは魂のみが行き来出来る【刻ノ間ときのま】です。』 と透き通った綺麗な声が聞こえてきた。

 「貴方は誰なんだ…。俺は死んだのか…。」

 俺は発言しながらも『声』のする方へ意識を向けるが、まだ視界がぼやけていてよく見えない…。

 『私は【女神めがみディーネ】。 死んでしまった貴方の魂を導く為にお迎えに上がりました。』

 やはり俺は死んだらしい。 あのナイフで複数回刺された傷だもんな…。 流石に助かるわけがない…。

 それにしても【女神めがみ】‥か…。地球の日本社会に生きてきてそんな非科学的存在に遭遇するとは思わなかったが…、しかしこれも現実なのだろう…。

 「これから俺はどうなるんだ? 天国に行くのか?それとも地獄送りか?」

 酷い人生を送りあんな死に方したのに【地獄行き】なんて事にはなりたくない…。

 『その件につきましてお話が有りますので貴方の【魂】が【体】として定着するまでしばらくお待ち下さい。』

 んっ? 取り合えず待てばいいのか? そういえば少しずつ体の感覚が有るような気がする…。

 【女神、めがみディーネ】の言う通りしばらくの間待っていると、視界が有る程度見える様になり体も今までの人間の体になっていった。

 ウネウネしながら戻っていく体の感覚がスライムみたいでなんか気持ち悪い…。

 そして視界が鮮明になると目の前には幻想的な風景が有った。

 宇宙のような広大な暗闇の中に幾つもの丸い光が集まっており、まるで【銀河ぎんが】みたいな風景だったがあくまでも「みたいな」モノで直感的に『違う』と感じた。

 その幻想的な風景の中、目の前に杖を持つ【絶世の美女】が佇んでいた。 「いや、なさった!」「いや、降臨した!」

 背は高く誰もが見惚れる程の綺麗な顔立ちをしており、頭には空色のティアラをし綺麗な装飾品を散りばめた緑色のドレープに身を包み、地面に届きそうなほど長いブロンズ色の髪をなびかせている。 まさに【絶世の美女】であった。

 こんな異常な興奮を人生で初めて覚えたぞ…。 もう死んでるんだけどね。(笑)

 そもそも死ぬ前の俺はそんな性格では無かったハズだったのだが???

 性格が崩壊するの程の【絶世の美女】の降臨により、笑顔で暴走しようとしている俺の前で女神めがみ様が一言、『貴方が命を懸けて守ろうとした少女はお亡くなりになりました。』と発言した。

 女神めがみ様の爆弾発言に俺は笑顔が引きつり興奮が一気に冷める中、女神めがみ様に聞き直した。

 「俺が命を懸けて助けたあの娘が死んだと?」

 女神めがみ様は小さく頷くと、『貴方が気を失った後、必死に逃げていた少女に「あの男」が追いつき、少女を犯すことなくナイフで胸を刺されお亡くなりになりました。』

 聞いた瞬間、心の中にあった何かがガラガラと音を立てながら崩れ去った…。

 俺がやった事は何だったんだ…? 何の為に死んだのだ…? 今までの人生もずっとそうだったが、何をしても報われず損をする…。 そんな人生ばかりだったのに、挙句の果てに人ひとりも守れずに無駄死にしただと…?

 『助けてあげられず、ごめんなさい…。』

 女神めがみ様の一言で俺はもう耐えきれなかった。

 「うわあああああああああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー」

 年甲斐も無く泣き叫んだ。 泣いたのは何十年振りだろうか…。 とっくの昔に泣く事を忘れていたハズの俺は壊れたように泣いた。 涙でぐちゃぐちゃになりろくに前も見えない。 それでも泣いた、泣き続けた。
 

 ――――――――――――


 どれ位の時間が経ったのだろうか…。 泣き疲れて落ち着いてきた頃に女神めがみ様が発言した。

 『私は今まで無数の人間の【人生】を見てきましたが、これほど悲惨な人生だった人間は貴方で4人目です。』

 続けて女神めがみ様が言った。

 『貴方にはもう一度人生をやり直し、次こそ幸せになって欲しいです。 その為に貴方を【異世界】に転生させようと思いますが如何いかがでしょうか。』

 女神めがみ様が『これほど哀れで可哀そうな人間は貴方が4人目』と言ったが実際俺より酷い人生だった人は沢山いるハズ… イヤいるハズなのだ…。

 「俺よりもっと悲惨な人が居るハズです…」

 俺はチャンスを不意にするような発言をする…。

 『確かに貴方より酷い家庭環境や悲惨な死を遂げた方はいっぱいいます。 ですが貴方にはあまりにも足りてない物が存在していたのです。』

 俺に足りてない物? そんなもの存在するのか? 俺は思考を巡らせながらも理解できないでいる。

 『それは【運】です。 貴方は今までの人生で【運が無い】と感じた事は有りませんでしたか?』

 確かに思い当たる節は腐るほどあった。 でもそれはほとんどが些細な事ばかりだ…。
 親ガチャ等の生活環境の運等不運と思ったことはあったが、私生活の運の無さは別に気にしていなかった。

 「確かに思い当たる節は有りますが、生活に支障はなかったので特に気にしていませんでした。」

 自分の素直に思った言葉だ。

 女神めがみ様は発言する。 『貴方はそれが当たり前だと感じてしまっていますが本来であればあり得ない運です。 貴方が慣れてしまい、気づいていないだけです。 その運で今まで生きてきた事自体が凄い事でもあるのです。』

 なら運が良いんじゃないの?って突っ込みを入れたくなる。

 『では何故今まで貴方が生きていられたかを説明しますね。』

 俺の心境を知っているのか、女神めがみ様が真面目に話し出す。

 『貴方には幾つもの人間界でいう【生霊いきりょう】が憑りついていました。 その【生霊いきりょう】は本来恨みを持つ者に飛んで憑りつき運と生命力を奪い最終的には命を落としますが、元々貴方の運が悪すぎている事が原因で運が奪えず、逆に生命力を与えてしまったという事です。だから運が悪く病気になったり事故に遭ったりするが、死なないで済んでいた。そのせいで死ぬよりもずっと苦しい思いをしてきたのです。』

 『要するに、 【生きながら死んでいた】のです!』

 ええぇーーー、女神めがみ様は霊媒師か何かでしょうか? いきなり日本の陰陽チックな発言しちゃってますヨー(汗) ─と心の中で突っ込んでいた。

 異世界の女神めがみ様に前世の非科学的要素を盛り込まれて軽くまた興奮してしまう。 それにしてもマイナス×マイナス=プラスの数学的理論が運に作用するとはまた科学的なのか非科学的なのかよく解らん…。

 「えっと女神めがみ様が言う【生きながら死んでいた】が本当だったとして何故俺は死んだのですか? それと女神めがみ様は俺の【生霊いきりょう】を見て何もしてくれなかったのでしょうか?」

 慣れてきたので少し意地悪をしてみた。

 『運のせいで、貴方の本来の寿命は数年前に亡くなっていたハズでした。それが【生霊】のせいで死期が不確定となり、私にも分からなかったのです。 またその【生霊】ですが対処出来ないか幾つか試してみましたが私の力ではどうする事もできませんでした。 何もしてあげられず本当にごめんなさい‥。』

 成程、女神めがみ様も何もしていない訳ではなかったみたいだ。 それにしても【生霊いきりょう】は女神めがみ様でも対処出来ないとは初耳だし興味がわいた。

 『なので先ほど説明した通り、貴方にはもう一度人生をやり直し、幸せになって欲しいです。 異世界で良ければですがよかったら転生てんせいしてみませんか。』

 俺は心に決めた。

 一度失ったハズの俺の命がもう一度【転生てんせい】し蘇る事が出来るチャンスが貰えたのだ。
 その機会が目の前に有るのにも関わらず、逃したら亡くなってしまったあの娘に申し訳ない。
 そして転生したら守れなかったあの娘の分も含め必死に生きよう。

 「分かりました、俺を転生てんせいさせて下さい。」

 女神めがみ様はにっこりと微笑むと、『転生てんせい先は魔法や剣、魔物が存在するファンタジーな世界です。 転生てんせいの際に転生者のみ特別に与えられる【EXスキル(エクストラ)】を貴方に授けますが、その授ける【EXスキル】は最上位スキルである【女神の加護】を貴方に与えましょう。また【転生てんせい】として前世の記憶を受け継いで転生されます。 他に貴方の希望は何か有りますか?できる範囲で力をお貸しします。』

 今まで辛い人生送って来たんだ、少しぐらい贅沢してもいいだろう‥。

 「分かりました、良かったら今までの人生で無かった【運】を可能な限り良くしていただけると有難いです。」

 『分かりました。 貴方のステータスの【運】の数値を最大値である【999】にしておきました。』

 最大値が100じゃないんかい!と内心突っ込みながらも、その運が次の人生においてどう活躍するのか年甲斐も無く内心ドキドキした。

 「本当に有難う御座います。 因みになのですが、襲ってきた暴漢はその後はどうなりましたか。」

 すると女神めがみ様が、何も無い空間に所持していた杖を掲げ『マキリオピア近遠の窓帷』と唱えると、日本でいう「プロジェクター」みたいな感じで映像が映し出された。

 どうやら映像の内容は、日本で報道されているニュース番組のようだ。

 「昨日夕方、東京都の世田谷区に住む無職:宮下翔(ミヤシタカケル)】(31歳)と都内私立高校に通う【早川美沙(ハヤカワミサ)】(17歳)が遺体で発見されました。警視庁の話によると事件当時、亡くなった宮下翔から『少女が襲われている』と110番通報が入り、警察官が駆け付けた頃には両名とも既に意識は無く、救急搬送されるも世田谷区の病院で亡くなった模様です。 事件の犯人については指名手配されていた連続婦女暴行事件の『佐藤真一(サトウシンイチ)』(37歳)容疑者で現場近辺を捜査していた警官に発見され捕らえられましたが、犯人が隠し持っていた劇薬を使用しその場で死亡が確認されました。被害者両名の死因は複数個所をナイフで刺された事による失血死が原因で、警察官は現場の状態と宮下翔の110番通報による情報から、宮下翔は少女をかばい死亡したと見られている。」

 そうか…犯人は死んだのか…。 ざまぁみろだぜ‥。 これで少しは報われたのかなぁ…。

 「女神めがみ様、本当に有難う御座いました。 これで思い残す事なく旅立てます。」

 『それは良かったです。では転生させます、来世は幸せに生きて下さいね。私は【貴方たち】を何時でも見守っています。』

 そして俺は光に包まれると意識を失った。
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