そして目が覚めたら

雪乃

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キャメリア




キャメリアは隣国の公爵家で産まれた。
第二王子と婚約中であるが、良好な関係とはいえなかった。
第二王子はキャメリアへの好意を素直に伝えることができずそっけない態度を取り続け、当人含め周囲に大きな誤解を与えた。
それならばと両家より婚約解消について具体的な話が持ち上がると慌てて態度を改め真摯に謝罪もしたが、今度はキャメリアがそれを素直に受け取ることができない。
見かねた公爵夫妻は娘の気分転換になればと縁者のいるこの国への留学を勧め、改めて第二王子に反省を促す意味も込めて王家もそれを了承した。


第二王子はキャメリアへの深い悔恨に苛まれながらやり直しを願い、キャメリアは覆る気配のない婚約を理解してせめて信頼を取り戻せたらと望んだ。



そう思っていたのに、キャメリアはこの国に来て恋に落ちてしまった。


ただの憧れを、恋と呼ぶなら。








何年か振りに会う再従兄弟たち。
環境が変わったことはキャメリアにいい影響を与えた。

抱いていた第二王子への好意は擦り切れる寸前で、長く傷ついた感情の行き場は見当たらない。
だが新しい場所で過ごすことによって、その傷は少しずつ癒えていった。


キャメリアが滞在するのは王宮に隔てられて隣接している客人用の離宮。
招かれヨシュアに紹介されたアンルーと初めて会ったときも、
ヨシュアはかわいいと言っていたけれど、どちらかといえば綺麗という言葉が似合うような、とにかく素敵な令嬢なのは間違いないと思った。




そうして過ごし、これから通うことになる学園でキャメリアはフェルというアンルーの護衛騎士に出会った。
今まで見たことがなかったのは、城にいるときの警護は近衛騎士に一任されることが決まっているため。
アンルーが滞在する部屋にフェルは控えていたのだが、次期王太子妃となるアンルーの部屋は王宮内に設けられており、そもそもキャメリアは許可がなければ王宮に入ることはできないため、すれ違うことすらなかった。


ヨシュアに促され馬車を降りたキャメリアは、出迎えるアンルーのうしろに控えるフェルに気づいた。紹介され挨拶を交わす。
無表情で淡々と短い言葉を話すだけの姿はいつかの第二王子と重なった。
容姿も似ていたことから、初対面でありながら苦手意識すら持った。




それだけだった。


それがいつから変わったのか。
はっきりとはキャメリア自身も憶えていない。


自分にも護衛騎士はいるのになぜそんなことを思うようになったのか。






学園ではヨシュアとアンルーと行動をともにすることが多かった。
それがいつから思惑を抱き、不自然に変わったか。
クラスはべつで友人と呼べる存在もできていたのに、姿を探すようになり、見つめるようになったのは。


話しかければ応えてくれるし、無視されることもない。嫌そうに顔を背けられることも、目を逸らされることもない。
ため息を吐かれ、無言で去られることもない。

フェルが無愛想なのは当たり前だった。護衛なのだから、立場を弁えているだけ。
言葉数も少ないわけではない。必要なことを必要なひとだけに伝えているだけ。
フェルが大事にしているのはアンルーだけ。



キャメリアにはすべてがまぶしく、誠実に映った。





ヨシュアとアンルーの仲は良い。
ヨシュアの気持ちは知っているし、アンルーも見ていればお互い思い合っているのがわかる。
ヨシュアが大事に思うのもアンルーだけ。





キャメリアにはないもの。
それがうらやましかった。

自分もこんな風に、過ごしたかった。



アンルーにはヨシュアだけでなく、フェルまでいる。


うらやましい。ずるい。

自分はひとりなのに。

自分は見ているだけなのに。



そんな感情が、いつしかキャメリアの心に渦巻いていた。








ただ見てるだけ。口に出すつもりもない。
ヨシュアにはふたりに割り込んでいることをいい加減注意されたときに打ち明けた。
最初は断られたが何度もしつこく泣きついて頼んだ。
そばにいたいだけなのだと。
見ていたいだけだから、それ以上のことはしないからと。
アンルーに説明すると言われても、黙っていてほしいと頼めば最後は渋々折れてくれた。


思い合っているという自信がヨシュアに余裕を感じさせたのかもしれない。





噂が耳に入るけれど、互いに問題ないと思っていた。

ヨシュアは気にする必要はないと告げているから大丈夫だと思っていたし、
キャメリアは見ているだけだから大丈夫だと思っていた。






叶わないかもしれない、あったかもしれない第二王子との恋の身代わりにさせているだけにすぎない、恋愛ごっこ。


最悪の事態を引き起こすまで、愚かなキャメリアはその真実に気づかなかった。
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