そして目が覚めたら

雪乃

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キャメリア②




何故、と聞かれれば。




卑しい言葉と考えが浮かぶ。




ヨシュアには打ち明けて、アンルーには黙っていたのは何故か。







そんな自分が嫌だと思っていた。
でもどうにもできない。
キャメリアは部屋でだけで済んでいた癇癪をヨシュアの前でも起こすようになっていた。





ーーあの日もそうだった。

ヨシュアがうんざりしているのがわかった。
そんな態度を取られることが嫌だった。
自分のせいだとわかっているけど、どうにもならないことをわかってほしかった。

キャメリアは泣きながらヨシュアに掴みかかるように抱きつく。
再従兄弟なんだから慰めてほしいと思った。
引き剥がそうとしたヨシュアはキャメリアがまた喚き出す寸前だと気づくと、こんなところでそうされてはたまらないと面倒を増やさないためにそうした。




ただ、それだけのことだったのにーー。







もう勘弁してくれ。


ヨシュアの声に怒りで顔を上げたキャメリアの目にアンルーが映った。

呆然と立ち尽くし、顔色を失くしたアンルーがやがて踵を返し走り出す。
キャメリアの様子を見てその視線を追ったヨシュアが息を呑み、アンルーの名前を叫んだ。
キャメリアを半ば突き飛ばすようにしてその後を追う。


逢瀬のために王妃の庭ここを選んだわけじゃない。
しつこいキャメリアに手を焼いていたヨシュアが敢えてひとの出入りが少ない場所を選んだだけ。
ヨシュアに直接そう言われたからキャメリアは知っている。でもアンルーは知らない。



アンルーは何も、知らない。






そのときのことも含めてキャメリアが何を思っていたか、とても口にできない。

卑しく、浅ましく、醜い考えを抱いていたことを。









走り去ったアンルーとヨシュアを追いかけて、

そこで、

血塗れで倒れているアンルーを見て、

そのそばで泣き叫んでいたヨシュアを見たとき。




それらすべては消し飛び、代わりに後悔・・が押し寄せる。




ひとが大勢集まり、皆キャメリアをいない者のように扱う。ぶつかられ倒れても、ドレスを踏まれても。邪魔だと怒鳴られても、誰もキャメリアを気にしない。

キャメリアは動くことができず追いやられた隅のほうで怯えていた。

どうしよう。なんてことを。どうしよう。どうしたらいいの。

何故、こんなことにーー。



皮肉にも祈りを捧げるように両手を組んで、ぶるぶると震えるキャメリアは気づかない。






ふと、視線を感じた。




救いなどないのに、何も見ていなかったキャメリアは気づかない。



縋るように見上げて、息が止まった。







フェル・パトリ子爵令息。
アンルーの護衛騎士。


そしてキャメリアの、恋焦がれるひと。



その人物から向けられた視線にキャメリアは恐怖で息ができなくなった。
生きてきて、今まで、誰にも、第二王子にさえ、向けられたことのない視線。



ーーその視線を憎悪と受け取ったキャメリアは恐怖のあまり失神したが、フェルが向けていたのは明確な殺意である。


気づかないまま、放置されていたキャメリアが運ばれて行ったのはずいぶんあとのことになる。






















「……実に、くだらぬ。お前たちの話は、それとしか言いようがない」

「…」



ヨシュアの聴取が終わり伯爵夫妻は早々に退出した。
次いでキャメリアを呼び出す予定も伝えていたが夫妻の返答は、「一度でじゅうぶんでございます」二度は勘弁したいと暗に告げていた。
元々ヨシュアの話すら聞く気はないと言っていたのだ。頭を下げたまま動かないヨシュアも近衛を使い自室へ戻し、国王は別室に待機させていた従姪を呼び入れた。



「この国に来た理由があったはずだがーーとうに元気になっていたようだな。他国の王族の婚約を壊すほどに回復するとは、……祖国の家族もさぞお前の帰りを待ち侘びていることだろう」



震えながら顔を赤くしていたキャメリアが、続く言葉に期待するような素振りを見せたことに国王と王妃は呆れた。



「何を期待しているのか知らないがーー」



入室したキャメリアは深々と礼をし謝罪を述べた。



「逃げることは許さない。残りの期間、この国で過ごせ。」



そして図々しくも、帰国して罰を受けたいと言ってのけたのだった。



「ーーそんな、… 伯従父おじさま、」

「陛下と呼びなさい。非公式な謁見だとしても歓談の場ではないのよ。隣国の顔を立てること、コートナー伯爵家の恩情だということを理解しなさい」

「…っ、失礼いたしました…国王陛下、王妃陛下…」



王妃の冷たい声色にキャメリアは身を竦ませるが、冷たいのは声だけではなかった。

国王も王妃も、恐ろしく醒めた表情をしている。



「離宮の滞在は取消し。住まいは学生寮に移す。コートナー伯爵令嬢への接近禁止。
煩う・・ことがないよう女騎士を護衛につけるゆえ安心して勉学に励め。以上だ」

「お、お待ちください陛下…っわたくしがしてしまったことは心からお詫びいたします…っですがこのまま学園に戻れば衆目にさらされ、」

「それが何だ。慣れているだろう。お前とヨシュアが好んでしていたことではないか。今と変わらぬ」

「ッ、…ち、父は、…父が、公爵家が何と言うか、」

「すべて従うとのことだ。当然だろう」

「ーー」

「お前はずいぶん歪曲した内容を伝えていたようだな」

「そ、れは、」

「ひとつ問いたいのだが。」



謝罪も後悔も反省もすべて自分のため。
いち早く自己保身に走ったキャメリア。

教育、子育てというものはやはり一筋縄ではいかないのだと国王は嘆息した。



「お前は何故、それが通ると思った。傲慢にもこちらの諫言は聞き流していたというのに、何故、こちらがそうすると思ったのだ」



うつむくキャメリアからの返事はなかった。
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