そして目が覚めたら

雪乃

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フェル




気づかれていたのかと、眼が見れなかった。


フェルは、颯爽と去っていった彼女・・を、追いかけることができなかった。















二男として産まれたフェルは早い時期から将来は騎士になると決めていた。


めんどうなことが嫌いなため従っていただけで、座学はつまらないと思っていたし、元々黙って机に向かうのは性に合わないと感じていた。
男子らしく筆より剣のほうに興味を待っていたことも理由としてあるが、明確にそう望むようになったきっかけは父親の友人の伯爵家に連れて行かれて、騎士たちの訓練を見学させてもらったとき。



フェルがなりたいと思ったのは王立騎士団の騎士ではなく、コートナー伯爵家の騎士。



そこで初めて出会った少女の騎士に、なりたいと思った。












わずか八歳の息子にそう告げられたフェルの父親、パトリ子爵家当主のウォーレンは悩んだ。


パトリ子爵家は領地を持たず代々文官を務めてきた家系。
爵位を継げない二男は自身で身を立てる必要があり、それをすでに見据えていたことは誇らしい。
だが争いごとを厭う控えめで大人しい性格の二男には、おなじ文官としての道を進んでほしいと思っていた。
平坦でも堅実で、食い扶持に困ることもないのだ。


騎士となれば、命の危険がある。
そんな環境で生きていけるのかと不安があった。
騎士になるためには騎士学校に通う必要がある。
貴族学園の入学年齢より早い十歳からの入学。


ウォーレンは二年のあいだ気持ちが変わる可能性もあると思い、考えはわかったとだけ息子に伝えた。






その間何度も話し合ったが、二男の気持ちが変わることはなかった。
家族でも話し合い、最終的には子の人生だと、意思を尊重することに決めた。


騎士学校には六年間通うことになるが入学条件のひとつに、伯爵家以上の後見人が必要である、と含まれていた。


ウォーレンはまた悩むことになる。


費用の捻出はできたが、後見人を誰に頼むか。


すでに思い当たる人物はひとりいる。

だが、果たしてこのような頼みごとをしていいものか。
互いに信頼は持ち得ているが、これはその範疇を超えているのではないか。


騎士学校はその内容だけでなく規律も非常に厳しい。
二男が何か問題を起こすなどとは心配もしていないが、過信もよくない。


万が一何かあれば、責任を負わせてしまうことになる。





ウォーレンは悩んだ末、その人物に会いにいくことにした。



学生時代からの友人、ヘイデン・コートナーに。













フェルはアンルーに初めて会ったときから、親愛以上の情は持ち合わせていなかった。
年月が経つにつれ敬愛も含まれてきたが、それ以外はなかった。


アンルーもよく懐いてくれたし、男兄弟のなかで育ったせいか、勝手に妹のように思っていた。


だから守りたいと思った。



アンルーが王太子の婚約者となってから、その立場は徐々によくないものへと変わってゆく。

幼少期はまだよかった。だが学園に入学してから嫉妬や妬みによる噂が広まり、隣国から王太子の再従姉妹がやってきてからはさらに悪化した。


アンルーは笑わなくなった。笑顔は見せるが作りものの笑顔。
以前のように屈託なく笑うまぶしいほどの笑顔は消えていた。



当然フェルの立場も変わる。護衛騎士、主従関係に。
以前のように気軽に会話をしたり、笑い合うことはできない。

いくら妹のようだと思っていても、じっさいは違うのだから。


それでもフェルは立場を越え、説得をしようとした。


アンルーは大丈夫と告げるだけだった。

限界だとわかるのに、何もできない。


家族でさえ、泣きながら婚約解消を拒むアンルーに無理強いはできなかった。





ーー何度、切り捨ててやろうと思ったかしれない。


アンルーの愛情に胡座をかいている王太子。
気持ちの悪い視線を投げて寄越す再従姉妹。








どうなっても、そうしてやればよかった。
アンルーが嫌だと泣き喚いても、そうしてほしかった。







自ら流す血のなかで動かないアンルーを見たとき、フェルはそれだけを思っていた。



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