13 / 30
フェル
気づかれていたのかと、眼が見れなかった。
フェルは、颯爽と去っていった彼女を、追いかけることができなかった。
二男として産まれたフェルは早い時期から将来は騎士になると決めていた。
めんどうなことが嫌いなため従っていただけで、座学はつまらないと思っていたし、元々黙って机に向かうのは性に合わないと感じていた。
男子らしく筆より剣のほうに興味を待っていたことも理由としてあるが、明確にそう望むようになったきっかけは父親の友人の伯爵家に連れて行かれて、騎士たちの訓練を見学させてもらったとき。
フェルがなりたいと思ったのは王立騎士団の騎士ではなく、コートナー伯爵家の騎士。
そこで初めて出会った少女の騎士に、なりたいと思った。
わずか八歳の息子にそう告げられたフェルの父親、パトリ子爵家当主のウォーレンは悩んだ。
パトリ子爵家は領地を持たず代々文官を務めてきた家系。
爵位を継げない二男は自身で身を立てる必要があり、それをすでに見据えていたことは誇らしい。
だが争いごとを厭う控えめで大人しい性格の二男には、おなじ文官としての道を進んでほしいと思っていた。
平坦でも堅実で、食い扶持に困ることもないのだ。
騎士となれば、命の危険がある。
そんな環境で生きていけるのかと不安があった。
騎士になるためには騎士学校に通う必要がある。
貴族学園の入学年齢より早い十歳からの入学。
ウォーレンは二年のあいだ気持ちが変わる可能性もあると思い、考えはわかったとだけ息子に伝えた。
その間何度も話し合ったが、二男の気持ちが変わることはなかった。
家族でも話し合い、最終的には子の人生だと、意思を尊重することに決めた。
騎士学校には六年間通うことになるが入学条件のひとつに、伯爵家以上の後見人が必要である、と含まれていた。
ウォーレンはまた悩むことになる。
費用の捻出はできたが、後見人を誰に頼むか。
すでに思い当たる人物はひとりいる。
だが、果たしてこのような頼みごとをしていいものか。
互いに信頼は持ち得ているが、これはその範疇を超えているのではないか。
騎士学校はその内容だけでなく規律も非常に厳しい。
二男が何か問題を起こすなどとは心配もしていないが、過信もよくない。
万が一何かあれば、責任を負わせてしまうことになる。
ウォーレンは悩んだ末、その人物に会いにいくことにした。
学生時代からの友人、ヘイデン・コートナーに。
フェルはアンルーに初めて会ったときから、親愛以上の情は持ち合わせていなかった。
年月が経つにつれ敬愛も含まれてきたが、それ以外はなかった。
アンルーもよく懐いてくれたし、男兄弟のなかで育ったせいか、勝手に妹のように思っていた。
だから守りたいと思った。
アンルーが王太子の婚約者となってから、その立場は徐々によくないものへと変わってゆく。
幼少期はまだよかった。だが学園に入学してから嫉妬や妬みによる噂が広まり、隣国から王太子の再従姉妹がやってきてからはさらに悪化した。
アンルーは笑わなくなった。笑顔は見せるが作りものの笑顔。
以前のように屈託なく笑うまぶしいほどの笑顔は消えていた。
当然フェルの立場も変わる。護衛騎士、主従関係に。
以前のように気軽に会話をしたり、笑い合うことはできない。
いくら妹のようだと思っていても、じっさいは違うのだから。
それでもフェルは立場を越え、説得をしようとした。
アンルーは大丈夫と告げるだけだった。
限界だとわかるのに、何もできない。
家族でさえ、泣きながら婚約解消を拒むアンルーに無理強いはできなかった。
ーー何度、切り捨ててやろうと思ったかしれない。
アンルーの愛情に胡座をかいている王太子。
気持ちの悪い視線を投げて寄越す再従姉妹。
どうなっても、そうしてやればよかった。
アンルーが嫌だと泣き喚いても、そうしてほしかった。
自ら流す血のなかで動かないアンルーを見たとき、フェルはそれだけを思っていた。
あなたにおすすめの小説
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?