そして目が覚めたら

雪乃

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ヨシュア④




『お前にアンルーを責める資格などない。』



ヨシュアが片手で引き絞るよう胸ぐらを掴むと、キャメリアはひゅっと息を呑み顔色が蒼白に変わる。
護衛がヨシュアを引き離そうとするが、ヨシュアはさらに力を込めキャメリアに近づく。



『……馬鹿が勘違いするなよ。お前の言う通り俺のせいだ。お前のせいなんだよ。なのに責められると思っているのか?ここにいる誰がアンルーを責められるって言うんだ?』



こんなに醜い姿をさらしている自分たちだけの罪だ。


ヨシュアはその感情のまま動こうとした。



『ッ、ぅ゛…ッ』

『殿下!どうかそれ以上は、…無駄・・な騒ぎになればまたお心を痛めてしまうでしょう』






誰がと、最後まで言われなくてもわかる。
頭に思い浮かべるひとを想い、ヨシュアは目を閉じた。



『…ッゲホ…ッ、ーー!』



キャメリアは床に蹲る。ヨシュアは周囲に向かい頭を下げた。
ざわめきのなかで姿勢を戻すと、視線を巡らせながら声を発する。



『皆も知っているだろうが、私の婚約者だったアンルー・コートナー伯爵令嬢が事故に遭った。
……容態については恐らくだが、まだ予断を許さない状況が続いているだろうと思う。
同時に私たちの婚約は解消となっている。
口さがない噂が広まっていたが事実無根であり、コートナー伯爵令嬢に落ち度は一切ない。
私の愚かさが招いた結果でありすべての原因は私にあるーーそしてこのキャメリア・ダーコックも無罪ではない。』



この、と爵位すら呼ばれなかったキャメリアは抗議したくとも呼吸をするだけで精一杯だった。
胸を押さえ、視線は強くヨシュアを非難している。



『今後、名誉を貶めるような発言や行為が発覚した場合厳しい処罰が下ることになる。
これは特定の人物に限ったことではないが、詳しくはのちに学園側から全生徒へ周知がされるだろう。
……私は慢心し、やるべきことを怠った。
後悔は遅きに失したが、ーーこれからはくれぐれも言動等には気をつけてほしい。
以上だ、騒がせてすまない。静聴感謝する』



ヨシュアは廊下にいたキャメリアの護衛を呼ばせ退出させる。また騒ぎ始めたからだ。
痛い痛いと叫ぶキャメリアは、恨みがましくヨシュアを睨みつけたまま医務室へと連れて行かれた。




教室内は静まり返っていた。


調査したところ生徒のなかには罪悪感を感じている者が多く、身に覚えのない者も少ない。
だからこそ過去ではなく、問われるのは今後の在り方だと言った。

ならばと思わせ、従わせるため。


偉そうに言ったが原因は自分にある。
だから大人しくしているだけでいいと教えてやったのだ。




アンルーが学園に戻ってきたとき、少しでもーー。





そうしてヨシュアは城と学園を往復する毎日をくり返す。

キャメリアは相変わらずの態度でその度退出を命じられ別室で教師に説教を受ける、といったことをくり返していた。
自由に過ごせると勘違いしていたのだろう。
説教されるくらいなら教室に残るほうがましだと考えたのか、次は弱々しく振る舞うことに決めたようだった。
当然効果がない周囲の反応に不満そうな姿を見て、何故こうなってまでそれが通じると思えるのか。



キャメリアは改心することはないのだと、ヨシュアは確信を深めた。










ヨシュアはアンルーのことは何も、容態についても知らされていなかった。
両親にきいても、誰にきいても教えてくれない。
きっと目を覚ますと信じて祈るしかできなかった。


教会へ祈りには行けなかった。
アンルーの家族が祈るであろう場所へは行けなかった。
自分が行けばその祈りを穢してしまう気がして、行けなかった。



だから夜だけ、月の影に隠れてヨシュアはひとり祈る。









ある日。


ヨシュアが園庭のベンチに座っていたとき、話し声がきこえた。

アンルーとふたりでよく過ごしていたここは大きなナラの木に囲まれた学園でも奥まったところにあり、生徒会の人間しか知らない場所。

この場所には一度もキャメリアを連れて来たことはない。


今やヨシュアにとってアンルーとの思い出の場所は、学園内でここひとつだけだった。




そのような場所できこえる生徒の声に護衛は警戒する。






『ーー…よかった…じゃあ一先ずは安心できるってことよね…』

『そうだと思う。天気がいい日には外でお茶をしてるってお返事にあったから…あぁほんとうによかった…!早く元気な姿を見たいわ…!
アンルー様のお邸のお庭はとても素敵だし、きっと、』

『もう少し声を抑えたほうがいいわ、誰かにきかれたらってこんな場所まで来たのよ。
…殿下のお話があってから雰囲気はたしかに変わった気もするけど、ね…?』

『そうね…ごめんなさい。あなたにもよろしくとあったからすぐ伝えたかったんだけど、やっぱり教室じゃ話しづらかったし…ねえ、帰りに邸に寄れる?直接読んでほしいわ』



女生徒たちはそれからも少し会話をしたあと、校舎のほうへ戻って行ったようだった。






ヨシュアは音がきこえなくなり、気配がなくなるのを待ってから校門へと向かう。



『殿下…!許可できません!陛下のご命令をお忘れですか…!』

『報告してくれてかまわない』

『っ殿下…!』

『…だから駄目なんだろうな…』



話をきかない。己の欲を優先する身勝手さ。

ヨシュアも変われない。





ヨシュアはアンルーに会いたいという思いを、抑えられなかった。
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