そして目が覚めたら

雪乃

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キャメリア③




今起きたことは、何だったのか。







「ーーッ、!」



呆然としていたキャメリアは騎士に両腕を掴まれた。淑女への気遣いなど微塵も感じさせない乱暴さでそのまま引きずろうとする様は、まるで罪人を扱うかのような仕打ち。

屈辱と痛みに顔を歪めながらも、目は一点へと釘づけになっていた。



今は別人のように打ちひしがれ、ヨシュアに抱きかかえられている人物。



思わず手が出てしまったのは、言われたことの怒りより恐怖からの反射だった。












ーーーーだれなの、あのひとは、




「…て、待って…、見てよ…あれを見て…」



アンルーはキャメリアにしか見えない角度で、キャメリアを見て笑っている。それに誰も気づかない。
キャメリアは震える声で訴える。周囲は誰も耳を貸さない。



「て、…待ってよ…!ヨシュア…ッ!」



今まさに去ろうとする再従兄弟に向かってキャメリアは声を張り上げた。

わかってほしかった。その腕のなかにいる人物の異様さを。
きいてほしかった。ささやいた嘲りの言葉を。



「さっさと連行して牢にでも放り込んでおいてくれ。陛下への報告も頼む。……彼女の治療が終わり次第私もすぐ戻る」

「は。失礼いたします」

「!待ってちょうだい!…ッそのひとはおかしいわ!ヨシュア!きいてそのひとはーーッ」



鋭い一瞥。ヨシュアはそれだけ寄越すと去り際、「…うんざりだ」ひとりごとのように言い、いなくなった。





再従兄弟の背に隠れもう表情の見えなかった誰か・・がやはり、自分を見て笑っているような気がキャメリアにはしていた。















それから三週間ほど、キャメリアは貴族牢とは名ばかりの場所で過ごす。


国王は隣国公爵家から与えられた情報からキャメリアの個人資産ほぼすべてと同等額の慰謝料を要求し、足りない分は公爵家が立て替えることになった。
それには軽症だったが、企みを実行するに邪魔だった護衛の女騎士を階段から突き落とした罪も加算されている。

キャメリアは罪人として王国からの永久追放が決まり、王族縁者の系譜から抹消された。




ーーすべて本人に告げられることのないまま。




キャメリアはアンルーのことを国王、王妃、そしてヨシュアに伝えるよう牢番に訴え続けたが聞き届けられることはなく、罵詈雑言とも言える内容についには猿轡をはめられる事態に陥り漸く大人しくなった日の夜。
手厚い世話こそなかったが久しぶりの湯浴みに気分を持ち直し、夕食に出された葡萄酒を疑うことなく口にした。

不自然なほど強い甘みを感じさせる濃厚な味と、香り。



気づけば眠っていたキャメリアが次に意識を取り戻したとき、目張りされた揺れる馬車のなかにいた。









事態を察したキャメリアはもう、叫ぶことも暴れることもしなかった。
このまま国へ帰るのだろうと漠然と理解したから。待遇に納得などできなかったが、家に帰れるのならそれでいい。こんなところにいるくらいなら、こんな惨めな思いをするくらいなら、と。




ーー誰ひとりとして見送る者がいなかったことも、誰ひとり、牢番以外顔を合わせなかったことも。



何もかもなかったことのように、キャメリアは安堵していた。
















自分はそんなに悪いことをしたのだろうかとキャメリアは考える。
それほどまでに許されないことをしたのだろうか。



たしかに良くないことをした。
それは最初からわかっている。
いちばんまずいのは、伯従父とはいえ国王陛下の命に背いてしまったこと。
でも話せばわかってくれるはずだった。


だってアンルーは頭がおかしくなっていて、自分が行動しなければ誰も気づかなかったのだから。




自分に向けられた見下したようなアンルーの笑顔を思い出し、キャメリアの表情が歪む。







信じられないことだが、キャメリアは自国では公爵家の人間として恥じない振る舞いをしていた。
礼節を弁え、高位貴族として模範となるべく過ごしていたのだ。
このような事態に陥っていることを知ったダーコック公爵家の面々は当初憤った。
だが何かの間違いだと否定するも次々に寄せられる愛娘のあり得ない所業に冷静になるのも早く、届いていた手紙は本人によって都合良く改ざんされたものだと断じることになる。



キャメリアは高位貴族として律した暮らしをしていた分、第二王子婚約者の件もあり精神的にも抑圧されていた作用が、すべて悪いほうへと働いていた。










悪魔・・が乗り移っているのよ!アンルーさまはもう死んでしまったんだわ…ッ』




キャメリアが牢で毎日叫んでいた言葉。







キャメリアその言葉に応えてくれる人間は王国にはおらず。
唯一返事をしてくれたのは父であるエメリッヒ・ダーコック公爵だった。





「それはお前のほうではないかと私たちは思っている。何故なら私たちの娘は、そのような言葉を平気で吐く道理のない人間ではなかったからだ」





痛烈な皮肉とも取れる言葉で。



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