26 / 30
アンナ⑩
「お嬢様、そろそろお戻りになりませんか?風も出てきましたよ」
「これを飲んだら戻るわ」
「……わかりました。ではブランケットを」
「ありがとう」
何か言いたそうにして帰ってゆくロージーに手を振る。
治安もいいし、姿は見えないけどトリスさんも近くにいるから大丈夫だよって言っても毎回そんな表情で心配してくれる優しいロージー。
ごめんだけど、ほんとはここではひとりでいたい。
高層ビルなんてあるわけないぐるーっと360°パノラマで遠くまで見渡せる。遮るものもない。
ここは雪が降らない。それが残念だなって思った。
ーーアンのすきだった場所。
アンのお父さんがやっと許可を出してくれて念願の領地に来ることができたあたしは、着いた途端ちょっと泣きそうになってしまった。
じっさいその日の夜は、泣けてきてどうしようもなかった。
アンの思いか、おばあちゃんちみたいな風景と景色を見たからかーーたぶんどっちもだけど。
思い返せば。
『ねえさま、…うぅ…早く帰ってきてくださいね…』
宥めるみたいにあたしに撫でられるままのキリエはふつうに離れちゃう淋しさで泣いてたんだと思うけど、アンのお父さんとお母さんはちがった。
『気をつけて行っておいで。自分のしたいように過ごしなさい。いちばん大事なのはその気持ちだ』
『そうよ、あなたのしたいようにしていいのよ。愛しているわ』
悲壮感。もう二度と会えないみたいな、覚悟してるみたいな表情で立ってた。
思い過ごしじゃなく思い当たることありすぎるから、深読みしなくたってわかっちゃったよ。
『……行ってきます』
それしか言えなかった。胃がキリキリしたし、
決定的なことを言ったら、終わっちゃう気がして。
「…」
って、……終わるってなんだろ。
終わるしかないのに。それ以外何が?
なぁーんかバレてる気がするし。終わりしかないのに。
『…………すまない』
クズ王子だって泣きそうだったな。
『そう思うなら下ろしていただけませんか。歩けます』
『…』
『殿下』
それでもあたしは性格が悪いから、クズ王子なんかに痛む心は持ってない。
『……何か、ききたいことはありますか』
抱える腕の力がぐっと強くなったけど目は合わなかった。
『…………すまない…………』
答えになってねぇよって、思っただけ。
あのブスは牢屋に入れられたらしく。そのうち自分の国へ戻るらしい。
毒々しいお花畑の頭でいつか、気づくかな。
むりかもしんないけど誰かわからせてやってほしいなー。
そしてその花が枯れるまで知らないところで、死ぬまで後悔して生きてけばいい。
ブランケットにくるまってごろんと横になる。
伸ばした手の先、空はまだ仄かに明るい。
ーーねえ、アン。
どうやったらあたしは戻れるの?前触れとかある?
ぱっと散っていなくなるのかな。ただ消える?
もうアンは戻れなくて、元に戻ることはできない。
何もかも、なかったことにはできない。
死んだひとは帰ってこない。
悲しむひとも傷つくひとも苦しむひとも多いと思うけど。
それなら今、あたしは消えたっていいんだけどな。
「…………アン、」
目を瞑ってるから、このまま連れてってよ。
ぱたりと、少女の腕が落ちる。
それを見てフェルは一気に駆け出した。
あなたにおすすめの小説
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
そしてヒロインは売れ残った
しがついつか
恋愛
マーズ王国の住民は、貴賤に関係なく15歳になる歳から3年間、王立学園に通うこととなっている。
校舎は別れているものの、貴族と平民の若者が一か所に集う場所だ。
そのため時々、貴族に対してとんでもないことをやらかす平民が出てきてしまうのであった。
リーリエが入学した年がまさにそれだった。
入学早々、平民の女子生徒が男子生徒に次々とアプローチをかけていったのだ。
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。