そして目が覚めたら

雪乃

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アンナ




(ーー……ナ、…………アンナ、)

だれ。

(あぁよかった…聞こえてるのね…わたしはアンよ。痛いところはない?気分は悪くない?)

アン?だれ…まって、あたし、どうしちゃったの?目が開かない。ここどこなの。




何が起きた?




ーーたしか、今日は、休講になったから店長に早出をお願いして、八時間働いて、バ先からの帰り道にスマホが鳴って、相手は元カレで、だから見るまえに閉じて、

そうしたら真っ白に広がったまぶしいライトと、けたたましいクラクションの音が、して。



ぶつり。



スイッチが切れたみたいに、突然暗闇に落ちた。

















…………うそ、あたし、しんだの、

(ーーっいいえ、いいえ、あなた・・・は大丈夫よ、眠っているだけ。…でも一度鼓動が止まってしまって…そのタイミングがわたしと同時だったから、……信じられないことだけれど、わたしの身体にあなたが入ってしまったみたいなの)

…………うっそ。小説じゃん。転移ってやつ?

(そうね、物語のようだけれど…現実に起こっていることなの。わたしも驚いたわ)

うーわ、…えぐ、…。言葉が通じるってことは日本人…でも小説だとだいたい異世界行ってるから外国って感じ?まじで?
え、じゃあこれからアンの身体を借りて過ごすってことになるの?元に戻るまで。死んでないなら戻れるんだよね?アンも眠ってるんでしょ?

(…)

?アン?

(……わたしはもう戻れないの。……わたしの命は終わってしまったから。)









ーーーーえ、……え……?え、嘘、でしょ……?

(いいえ、ほんとうよ。ほんの少しの差だけれど、わたしはアンナが来る・・のを待てなかったみたい。でも当然かもしれないわわたしは、……それを望まなかったから……ごめんなさい、きっと迷惑をかけてしまうわ……)

そんなの、っ、…なんで…望まなかったって、

(……そうね、誰かの声がずっと聞こえていたような気がするけれど、わたしは、)



返事をしなかった。









なんでってあたしはそればっかりつぶやいて、そうしたらアンは、何があったのか話してくれた。

どんな人生を、送ってきたかを。


もう完結した物語みたいに話すから悲しくて、気づけばあたしは怒りながら大泣きしていて、アンは笑って。

笑いながら泣いていて。





ーー小さなころから好きなひとのために頑張って、負けないって頑張って、ずっとそうしてきた女の子が、最後で。


最後に、心が折れてしまったんだ。


決定的な場面を目にして。
好きなひとの裏切りを見て。


だいすきな家族でさえ、引き留める理由にならないほど。







(……ありがとう、アンナ。わたしのために怒ってくれて、泣いてくれて)

そん、…ッ、ぃ、た…ッ

(……アンナ、アンナ、きいて。
生活で困ることはないと思うけれど、でも、……わたしの記憶がきっとあなたを苦しめてしまう。ごめんなさい……戸惑うことも傷つけられることもきっとたくさんある……ほんとうにごめんなさい……)

…ッ、…!



頭が割れそうに痛くなってどこかへ引っぱられる感覚。大丈夫だって言いたいのに声が出なくて、アンの声まで遠くなってゆく。



(あなたがいつ元の身体に戻れるかはわからない。でもきっと戻、)

……っアン……ッ!



死にそうに痛い。死にかけてるけど。…い…ッ…あーもううっざ…!



…アン…ッ!ったし、は、平気だから…!…っアンは!やり残したことないの!言いたいことないの!王子サマに…!っ、…どうしたかったの!アンは…ッ!



怒鳴ってごめんだけどまじ痛いし、ほんとに時間がないんだってそんな気がするから叫んでたら、アンがちいさく笑ったのがわかった。



(自由に。……子どものころみたいに正直で素直な自分のままでいたかったわ。王都じゃなく領地へ帰って過ごすの。誰にも咎められず、自由に。
……そして、恋をするの……自由に……手をつないで、すきだって伝えて、……伝えて、くれるひとと、……)



ーーねえ貴族って、牢獄みたいな環境に住んでんの?あたしにはぜったい無理。でもアンはずっとそこで頑張ってた。
ーーねえアンに好きのひとことも言わなかったクズ王子。
手をつなぎたくて、たったそれだけもできなかったアンの目の前で他の女と抱き合ってたクズ王子。
アンにばっか我慢させ続けたクズ王子。
牢獄みたいな恋かよ。ぜったい無理だわ。
でもそんなお前のことアンはずっと好きだった。
でももうアンはいなくなる。お前のせいじゃないけどお前のせいだよ。
お前がアンの言葉を奪って心を壊したから最後まで何もないんだよ。
怯えて震えながら後悔しろよクズ。
お前なんかにアンはもったいないから。
アンはこれからお前のいないところで、自由になるんだから。



アン…!あたしがっ、…から…ッ見ててよ…!…ッ、たの、ーー、ッッ、ーー!



最高潮の痛みが襲ってぶつん、と切れてまた真っ暗になる。










ねえきこえた?届いてた?アン。
ぜったい領地へ連れて行くから期待してて。
あんたの代わりになんてなれないけど、さすがに友だちくらいはいいんじゃない?
だってこんな経験することないもん。それくらいは思ってもいいよね?
友だちが傷つけられたら怒るの当たり前だからね。だからコレは当然のあたしの気持ち。




……ね、アンは頑張り屋さんのいい子だから、たぶんぜったい天国行きだよね。
てか異世界にも天国ってあんのかな?そういうのって異世界共通?


ーーねえアン。天国があってさ、おいでって誘われても入口とかでちょっと、待っててくんない?
あたしが帰るとき、迎えにきてくんないかな?だってちょっとやっぱり怖いし。ね、お願い。




友だちのわがままってやつ、きいてくれる?











返事はきこえなかったけどかわいい笑い声が頷いてくれたような気がしたから。

もう泣かないで、またねって、あたしも笑った。
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