婚約者が死んだ

雪乃

文字の大きさ
2 / 3

グラーシュ伯爵家




「……セラ……ッ!」



セラ・グラーシュは王城広間の踊り場で泣き崩れていた。
もう姿の見えない婚約者へ手を伸ばそうとあわや階段に手がかかりそうになったとき、兄であるリーヤが現れ既のところで抱き止め事なきを得た。



「っどうした…!何があった!?」



妹は顔を上げず俯いたまま、全身を震わせながらか細い声で言った。



「婚約解消したいって、……シオンさま、……どうして……?」



支えているリーヤの腕に、ぱたぱたと雫が落ちた。












リーヤは妹と、自身の友人でもある婚約者のシオン・シェパードを探していた。
仲の良いふたりには珍しく、不穏な空気が漂っていたからだった。
シオンが妹を迎えにきて夜会会場へと向かうまでは異変など感じなかったーーただ少し、いつもより両親や自分と長く会話をしているなとは思った。
そして丁寧に長く頭を下げている、と。


緊張しているのだと思った。
今日は成人を祝うため開かれる夜会だから。
シオン同様リーヤも婚約者をエスコートし、会場に足を踏み入れるときにはそうだったから。



シオンの様子がおかしいと気づいたのは開会してすぐだった。
ファーストダンスが終わったあと、シオンは妹ではないべつの令嬢の手を取ったのだ。


あり得ないことだった。そんなことは今までなかった。
妹を溺愛していることで有名なシオンだが、家柄と見目から秋波を送られることも多かった。
ただあしらいつつも毅然と断りを入れていた男だったのだーー今日の今日まで。


ざわめくなかで妹は信じられないといった表情で立ち尽くしていたが、次の曲が始まり自然とその輪から弾かれるように壁際へと移動する。



『…リーヤ、』

『…あとで声をかけるよ、いい?』

『今行ってあげて』

『ダンスの途中で?…きみをほうってはいけない。それこそ紳士とは言えないよ』



離れようとする婚約者を引き寄せながら、リーヤは憤りを感じる内心を隠し微笑んだ。


曲が終わり、妹の姿を横目に婚約者を休ませるため座らせてから飲み物を取りにゆく。



様子を窺えば何人かの友人が妹のそばにいた。
なのにシオンは近寄ろうともせず女たちに囲まれている。
リーヤはそれを許している男たちにも、何よりシオンに怒りを感じていた。



よりにもよって何故、この日・・・にー。








『リーヤ』

『殿下』

『あれは何だ、シオンはどうしたのだ。今さら羽目を外すタイプでもないだろうに』

『…私にもわかりませんが、あとで話してみるつもりです』

『そうか。…おい、セラ嬢が退出するぞ』



その声にリーヤは出口を見た。
友人たちに付き添われながら扉を出る妹の背中を追うか迷ったが、王弟がやってくる姿が見える。
父の友人でもある人物に挨拶をしないわけにもいかず、リーヤは足を止めた。






そして話の長い王弟の相手をしながら気づけば、シオンの姿まで会場から消えていたのだった。





妹の友人たちも戻ってきていない。
婚約者に断りを入れ、リーヤは妹を探すため静かな廊下を急いだ。















 
「……本気で何を考えてるんだあいつは……」



リーヤは妹を抱きしめながら、シオンが去ったあとのホールを睨みつけていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載しております。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

いや、無理。 (本編完結)

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。 一旦完結にしましたが、他者視点を随時更新の間連載中に戻します。 もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、 「わかってくれるだろう?ミーナ」 と手を差し伸べた。 だから私はこう答えた。 「いや、無理」 と。

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

妹の方が大切なら私は不要ですね!

うさこ
恋愛
人の身体を『直す』特殊なスキルを持つ私。 毒親のせいで私の余命はあと僅か。 自暴自棄になった私が出会ったのは、荒っぽい元婚約者。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。