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朝は来る
しおりを挟むたかが恋。されど恋。
この世の終わりだと打ちひしがれて泣き濡らしても、夜明けは来て朝は来る。
……散々泣いたからなのか、むしろ心なしかスッキリしているような気すらする。
「……顔はとてつもなく不細工だけれど」
「ぷっ」
「クルト!お嬢様こちらを、」
「ありがとうベル」
受け取ったホカホカの蒸しタオルを押し当てる。
じんじんじわじわして違う意味で潤んでくるわ。
…クルト、まだ笑っているのね…なんて奴かしら。
それにしても今日が休日で助かったわ。
もし登校日だったらと思うと恐ろしい。
あの性悪の反応が目に浮かぶもの。
……ロビン、
…ロビンは…きっとアタフタして、どうしたらいいかわからないでしょうね。
わたしはロビンの前で、涙を見せたことはないもの。
涙は武器になる。だから価値もある。
簡単に見せてはいけないと教わってきた。
けれど今ならわかる。
弱さを見せるのとはべつなんだってこと。
仮にも将来を誓い合った相手には弱さを見せたってよかったんだってこと。
だって平気なフリをしていた結果、わたしはこんな状態になっているんだもの。
ただまっすぐ伸びる一本の道を歩んでいけばいいんだと思っていた。
綺麗に整えられていた道だったから、不意の障害物に戸惑って対処の方法がわからなかった。
そしてきっと方法を間違えた。
そして自分がいかに甘えていたのかを知った。
正解なんてわからない。ただわかるのは、
「ーー…手紙を書きたいの。」
まったく恋というものは、ままならない。
「二人とも昨日から迷惑かけたわね。クルト、鍛練に行っていいわ。今日は部屋にずっといるから。
ベル、あとで紅茶だけ持ってきてくれるかしら。…ありがとう」
まだニヤニヤしてるクルト(ほんとうになんて奴)と、しょんぼりベルを退出させて机に向かう。
お気に入りの便箋を取り出し、ペンを取る。
…どちらにしても、今はひとりでいたい。
こちらも助かったというべきか、近日にエスコートが必要な茶会も、夜会もない。
その旨を記し、登下校も遠慮したいこと、しばらくひとりで考えたいこと、
少しのあいだ距離を、置きたいこと。
たったそれだけを綴るのに時間を要した。
ベルが持ってきてくれた紅茶はとっくに冷めて、少しの痛みと喉を通り過ぎる。
香りはいつもとおなじ。
"未来を見つめる"
大丈夫。
朝は来るんだから。
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