16 / 23
ディスタンス
しおりを挟む……どうしましょう……真っ白に燃え尽きてしまったような悲壮な背中が見えるわ……。
『…』
気づいていないのね…ノックの返事もないはずだわ。安定のクルトのニヤニヤ顔を一瞥しながら進み、ソファーへ腰を下ろす。その軋みでロビンはぼんやりと顔を上げた。
艶のある琥珀色の髪は掻き乱れて、沈んだ瞳が胡乱げにわたしを映す。
名前を呼ぼうとしたのか開きかかったくちびるは、でも、そのままゆっくり閉じて、
『…父がごめんなさい…』
痛々しい微笑で弱々しく首を振ると、そのまま顔を俯かせた。
ーー…なんてこと、
気まずいわ。居た堪れないわ。
お父様が魔王の様相だったものだから、こちらが悪役な気がしてならない。
胸が、痛いわ。
『、…少し話せたらと思ったのだけどまたにするわねどうぞゆっくり休んで、『解消したくない。』
早口になってるわたしはすでに立ち上がっていた。
忙しない動作と落ちつかない心に。
少なからず自分が動揺していることを自覚していた。
『閣下が言ったことは正しい。俺がしたことはきみを傷つけたことだけ。それだけだ。……間違ってるってわかってる。その通りだ。言えるはずない、自信もない、たしかなことは何も、…っ、…でもきみが好きだ、』
パリス。
こうなってから、ほんとうに色々な表情を見せてくれる。
ほんとうに、そう思う。
できるならわたしが、ぜんぶ引き出してみたかった。
ーーなんて、傲慢よね。
『この客間どう?模様替えしたのよ。
ここはわたししか使わないから、お母様が好きにしなさいって言ってくれたの。大変だったけれど楽しかったわ。
あなたの好みを取り入れて、あなたが過ごしやすいようにと考える時間は楽しかった。
…早く、あなたにも見てほしくて……二ヶ月経って、それが叶った』
ソファーの背もたれを撫でる。
たくさん悩んだわ。
カーテン、壁紙、家具、敷物。茶器だって新調した。今、テーブルの上にあるそれよ。
あなたの好きな作家の作品なの、気づいているかしら。
『…やっと使うことができて嬉しい…ロビン、わたしね…二ヶ月も、なのか二ヶ月しか、と思うべきなのか。
…正直わからないの。でもあなたと一緒よ、あなたがすき』
『…っ』
『……けれど自信がないのも一緒なの。あなたが不安なようにわたしも不安なの。
…どうしたらそれを拭えるのか、…わたしにはわからないの』
可愛げもないから、素直に信じることもできないの。
『……解消しましょう』
苦しそうに琥珀が歪んで、いやだ、とロビンはつぶやいた。
そんな顔をさせるしかできなくて、
おなじ想いを抱いているはずなのに、
遠くなってしまったわたしたちが、悲しかった。
「ーー…それに夫人が待ったをかけたのね」
「…そうよ。お父様だっておかしいのよ、あれだけ魔王だったのにお母様のひとことであっさり意見を変えたのよ?
わたしだって悩んで迷って決めたのよ?それなのに事業のことまで持ち出して"一月だけ待ちなさい"ってなんなのよわたしはもう散々待ったのよ…!」
「ふふふ。落ちついて、パリス。でも良かったのではなくて?そのあいだに色々片がつくじゃない」
「そ、れは、……たしかにあなたの話を聞いてそう思ったことは否めないわ……」
「でしょう?パティエール子息だってきっと死に物狂いで行動するはずよ。気持ちが追いつかないこともあると思うわ。でも離れて見えることもまたきっとあるわよ」
そうなのだろうか。
離れているあいだにわたしが見たのは、自信も何もかもなくしてしまった自分の姿だけなのに。
すきだと思う気持ちだけでは、
取り戻すことができないということに、気づいただけなのに。
「……不安は消えないわ」
ぽとりと一滴落とすように零すと、コーラルがそっとわたしの手を握った。
「人を好きになるって、無意識に相手に心を預けているのよね。信じてしまっているのよ、それに値するって。
だから根本が揺らいでしまうと重なる気持ちも崩れてしまう…とても辛いことだわ。
パリスの不安はなくなることがないかもしれない。でも小さくすることはできるかもしれないわ。…あなたたち次第よ」
「…」
「大丈夫よ。どうしてもいやで、だめで、逃げたくなったら、
ーーわたしが隣国に攫っていってあげるわ」
キラリと瞳の奥を光らせた友人が頼もしくもあり、やっぱり恐ろしくもあった。
21
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる