愛を乞う獣【完】

雪乃

文字の大きさ
4 / 46

ユラ

しおりを挟む



「いーから黙って腰振れよ」

「あッ、ちょ、あぁんッ」


獣人の発情期は種によっても個体によっても違う。季節も関係するし、不安定なままの奴もいる。
狼獣人の俺は、今まさにそれ。しかも春先だから毎月のようにやってくる。
かと言って見境なしに突っ込むケモノでもない。
薬も飲んでるし、それでも治らないときだけ獣人街の娼館で発散している。
特定の恋人でもいればべつだが、獣人にとってただの性欲処理に意味はない。
ヒトだってそうだろうと思う。

たまに勘違い女がフェロモンぶっかけようとしてくるが、反応はしない。
けど運命の番なら、そうはいかないんだろうな。
抗えない純粋な種としての本能。
どうでもいいと嘯きながら、俺を含め結局獣人はそれを求めてる。
自分の存在意義を示すモノだから。
でも必ず出会えるわけでもないから、それこそ運命、に委ねるしかない。

出会えなくても、べつにかまわないと思っていた。






ーールーシーに出会ったのはその日、娼館からの帰り道だった。




狐どもに絡まれてるヒト族の女を気まぐれに助けた。
たまたま目についた。理由はそれだけ。



「…あり、がとう、ございます、」



小動物みたいにオドオドしてて、イライラする。

田舎臭え女だと思った。
化粧っ気のない素顔に、適当にくくったような飴色の髪。
汚ねえモンなんか、映したことないみたいに透き通った紫の瞳。


普段なら耳も尻尾も隠せるけど、今がっついてきたばかりの俺はそれができない。



怖がってんのに、逸らさないのなんでだろ。



「……獣人見んの初めて?」

「…は、ぃ」

「…」



ハナが利くからなのか、この女から匂うのは。

狩猟本能。狩の基本。
奪われる前に、奪う。

俺以外に食われる前に、俺が喰い尽くす。



「ーー送ってってやる。」

「え、でもーー「いーから、行くぞ」



そう言って掴んだ手は小さすぎて、剣ダコのある俺の手のなかにやわらかく簡単に収まる。

平然を装うのが大変だった。






なんで獣人街こんなとこにいたのか聞けば、働くはずの食堂の場所を間違えたんだと恥ずかしそうに言った。
いくつも店舗をかまえている店だからと。
危なっかしい女だ。
こんな女がここをうろついてたら間違いなく襲われる。


「昼間だからまだマシなだけで危ないのは変わんねえからな。もう来んなよ、ぜったい」

「…はい、気をつけます。わたし、一週間前に田舎から来たばかりなんですけど、」


やっぱな。危なすぎる。


「しっかりしなきゃだめですよね…大きな街は田舎とは違うから…」

「だな」

「…気をつけます。」

「おう。…………あーほら、見える?角に看板あんだろ?お前の店は、」


下に視線を移せば、触れるくらいの距離に女がいて、俺の指のさきを追っていた。

息が止まる。

ぶわ、っと、匂いが強くなる。

ヒト族の女はこんなに匂いがするんだろうか。
フェロモンとは違う。


なんだ、これは。





「ーーあそこだから。……離れろよ」

「、あ、ごめんなさい」


警戒心がなさすぎる。

って自分の油断も女のせいにしてるのがだせえ。


「……じゃーな」


このままここにいたら、もっとだせえ自分になりそうだ。


「…っあの、ほんとに、ありがとうございました…」


いーけど。
名前は?とか、お礼にお店でご馳走します、とかねえのかな。ねえか。ねえな、だせえな、俺。



……あー、くっそ。





「俺ユラ、ての。アンタ名前は?」

「あ、名乗りもしないでごめんなさい!ルーシーって言います、……あの、助けてもらったお礼に今度、「行く。」


ぱちぱち紫が宝石みたいに瞬いた。
だからもう一度行くよって言ってやったらそれがキラキラ弾けて、まぶしさに目を眇めたんだ。


俺は、

そのとき見た笑顔は今だって忘れてない。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

処理中です...