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ルーシー⑩
しおりを挟む『あー仕事行きたくねえ…休もっかな』
『だめです』
『なんで?俺といたくねえの?』
『、…仕事は仕事です』
『ヤダ。さみーから一日くっついて過ごす。…逃ーげんな、って、こら』
『っ、』
『離れんな。…あと五分、だけ』
『、……じゃあ五分、だけ、』
『やっぱ十分。』
『もう、……ユラさん、?』
『……俺がいた町すげえ寒くて。嫌いなんだ、冬は。べつに孤児院の奴らと仲悪ぃわけじゃなかったけど、寒いじゃん。だからかなー』
『…誕生日、何がほしいですか…?』
『ルーシー。くれる?俺ルーシーだけいたらいーの。他なぁんもいらない』
『っ、…わたしはもうユラさんのものだよ…』
『そんなカワイーこと言われたら余計行きたくなくなるんだけど』
『!、本気で、『俺も本気で言ってる。離れたくない。』
『…ユラ、さ、』
『俺の家族になって。…愛してる、ルーシー』
久々に見た夢に胸が苦しくなった。
もう夢は見ないと思ってたのに。
でもその痛みがちいさくなっている気がするのは、想い出に変わってきているからだろうか。
いつかもっとやさしい気持ちで、思い出すことができるのかもしれない。
「おはようございます、ルーシーお嬢様」
「おはようございます、リツさん」
「吹雪は止みましたが今日は一段と寒いですね」
「そうですね…念のためお休みもらっておいてよかったです。…道が見えない…」
窓からは一面の白。降り積もってわたしの膝くらいまでありそう。
…この雪をどうにかすることで今日一日は終わるな…。
敷地内にある叔父さんの家に住んでるリツさんは、ほぼ毎朝挨拶をしにきてくれる。
クソ真面目だよ。という叔父さんの評価は当たっている、と思う。…言いかたはひどいけど。
「…そろそろお嬢様、って呼びかた止めませんか…?わたしお嬢様じゃないので」
「ではリツ、と呼んでくださいますか?」
「…それは無理です。」
「なら俺も無理です。」
笑顔でばっさりなリツさん。
……けっこう笑うようになってきたよね、このひと。
わたしが初めて名前を呼んだときも、すっごくうれしそうに笑ってた。
声出るようになったんですねって。
そんなに心配してくれていたのかと、申し訳なく思ったっけ。
みんなに心配かけたのだから当たり前だけど。
わたしがここに帰ってきてから三ヶ月ほど経っている。
声は一ヶ月くらいで出るようになった。
やっぱり精神的なものだったらしく、食欲もそのころには戻っていた。
のんびりしなさいという家族の言葉に甘えて、しばらくは何もせずほんとうにそのまま過ごして。
働き始めたのはごく最近だ。また食堂で。
料理は好きだし、他に取り柄なんかないからわたしにはそれが合ってる。
おいしいごはんを、つくってあげたい。
そう思ってからは、楽しくてしょうがなかった、な。
「……ルーシーお嬢様?どうかなさいましたか?」
「、いえ、何でもないです。…寒いからかな、ぼうっとしちゃって」
「……それは大変です。毛布と紅茶を、「大丈夫です。リツさんお仕事は?叔父さんが戻ってからですか?」
「…はい。今日は道路整備に励みます」
観察するような視線が窓の外に移って内心ほっとする。
わたしはリツさんのその目が、少し苦手だ。
「…わたしもお手伝いしますね」
寒いのが嫌いなひとは、意外と多くて。
でもわたしは、
冬の夜空のうつくしさを知ったら、嫌いだなんてとても言えない。
ーーそれを言ったら、
じゃあ俺も今から好きになる。
って。
それから、何と言っていただろう。
「…」
気まぐれに夢を見ては、ひとつずつ、忘れてゆく。
このさみしさも、忘れられればいいのに。
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