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ルーシー⑪
しおりを挟む「ルーシーお嬢様、少し休憩なさってください」
「だいっ、……じょうぶじゃないです…ごめんなさい休憩…」
「はい。…掴まってくださいますか?」
「ありがとうございます…」
くすりと微笑むリツさんの腕を借りて玄関まえまで戻り、へたりと階段に座り込む。
大丈夫ですか?部屋に戻っては?何度も言われたけど首を振って、また作業に戻るリツさんを見送る。
……疲れた。思えば三年振りの作業だった。
敷地は無駄に広いし、家のみんな総出でやっと馬車がすれ違っても平気な道幅ができた。庭にはちょっとした雪山。
これから私道…そのあと町の様子も見てこなきゃ。
…叔父さん早く帰ってきて…帰って、…これるかなぁ…。
三日まえとなり町まで商談に出かけた叔父さんは勘が鋭い。「もし吹雪いたらリツの男手必要になるから置いてく」そう言ったとおりに、その夜から天気は悪くなった。
「ルーシーお疲れさま!」
「グレタ、…わぁミルク酒?ありがと~」
ホットミルクにブランデーの香り。
ブランデーの量が多ければ強いお酒になってしまうけど、数滴なら身体も心もあたためるのにちょうどいい。寒冷地では欠かせない飲み物だ。
「今ミンスさんが昼食用意してるからもう少し待ってね!…ところでさぁ、ルーシー」
「ん~…?」
「リツさんってかっこいいよね。…あたしけっこう好きなタイプなんだけど」
「そうなんだ?いいんじゃない?」
「…」
「…?グレタ?」
ぽかんとしている。どうしたんだろう。
メイドをしているグレタとは学校で知り合った。
卒業間近に、元々うちにいたエーベさんが出産で休職するから代わりを探しているって話をしたら、手をあげてくれた友人。
きょうだいも多いから家事は得意だし、お給料もいい!って乗り気で。
今は復帰したエーベさんとふたりで働いてくれている。
「……ルーシーは平気なの?あたしが、リツさんを好きになっても」
「ーー」
びっくりした。
言いにくそうに何を言うのかと思ったら。
見当違いすぎて。
わたしが、
「…わたし、関係ある…?」
リツさんに好意があると思われてるなんて。
「あれ、…勘違い…?」
「うん。逆にびっくりしたよ」
「え。…じゃあ、ルーシーにとってのリツさんて、…なに?」
「叔父さんの部下。」
「……それだけ?」
「……お父さんの、部下?」
グレタはがくりと項垂れた。なんで?
脈なしかぁなんて言ってる。それはグレタのがんばり次第だと思うけど。
「…よくわかんないけど、がんばってグレタ。
わたしはリツさんのことそんな風に見てないし、…また恋をするとかそういうの、今は考えられないから…」
「…まだ好きなの?」
「……わかんない。でも、……会いたくはない、かな」
しあわせでいてほしいと思う。
心から思ってる。
でも、
どうかわたしの知らないところで、そうあってほしい。
まだわたしには勇気がない。
だからひとりで、祈るの。
そのとき、私道のほうが騒がしくなってるのに気づく。
グレタと顔を見合わせて立ち上がり、父を呼ぶように頼んでからそちらへ向かう。
リツさんとみんながいるところへ行くと、私道は半分くらいまで開けていて、その先からかき分けるように歩いてくる集団が見えた。
「…ルーシーお嬢様、どうか中へ、」
リツさんの気遣わしげな声。
身体が動かない。
この辺りでは見ることもない、制服。
近衛騎士団は白。第一騎士団は碧。
そして市中・市外担当の第二騎士団は黒。
ーー黒い塊が、向かってくる。
遠目ではわからない。
顔までは、わからない。
「ーールーシー中に戻りなさい。リツ、」
「はい。」
「……おと、「何かあったのかもしれない。大丈夫。何にせよお前がここにいる必要はない」
護衛のひとたちとやってきた父が厳しい表情でわたしを促す。
ふらふらとしている身体が宙に浮いて、わたしはその場から離れた。
その姿を射るように見つめる塊のなかの視線に、気づかないまま。
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