薄明に身を焦がす

雪乃

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ただの処理、運動、粘膜の接触。
それに少しの快感が混じって、目を閉じていればすぐ終わるんだから悪くない。


好きな女を思い浮かべるのは、虚しさしか残らないことに気づいてすぐ止めた。










「眠いの?ルカ」

「…べつに」

「もう一回する?」

「しない。帰る」

「…なぁに、好きだよねーあたしの髪」





「好きだよ」



だから選んだんだろ。



「ふふ、誰と比べてんだか、…ーーね、あたしたちってさ、アレだよね"傷の舐め合い"。かわいそー」

「…」

「……でもいいよね。寂しいんだもん」

「好きな奴つくれば?」

「無理ーあたしが愛してんのは彼だけだから」







建てつけの悪いドアの音を立てて開ければ生温い風が吹く。太陽が沈みかかっていた。



「死んだ奴は戻ってこねえよ」

「わかってる!それでも好きなの!」

「あっそ。」



名残惜しさは微塵もない関係。
お互い都合良く、利用するだけ。



濡れてる髪が、風とまとわりつく。



「…」



生きてても死んでても。
忘れられない奴は誰にでもいる。



想い出にするには鮮明すぎて、いつまでも忘れられない。



だから惨めだと知りながら浸って、現実から目を逸らす。


自分のほうがかわいそうだ。
自分のほうがマシだと。



「……だる、」



うんざりしながらまた俺は、耳障りなドアの音を聞くんだろうと思った。














獣人とヒトとの関係は、以前よりずっと良くなっているらしい。
薬は改善されて効果もずっと高いし、獣人の数は把握されてるから薬が行き渡らないなんてことはなくなった。
どっかの貴族だったか誰だかが頑張った結果だと、父親に聞いた。


発情期だからと見境なく誰かを襲うなんて事件もないし、

運命の番だからと、認知できない相手に一方的な暴力を振るう奴もいない。



それでも居住区がべつになっているのはお互いのためだ。

安心できる棲家はお互いに必要だから。



万が一、という言葉は決して侮ってはいけないってこと、みんな知ってる。











だから無防備に踏み入るのはだめなんだ。





「…………、なんか用か」




三ヶ月に一度。たった数日。



飢えた獣の巣に、飛び込んでくるなんて真似は。
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