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青空
〈7〉
しおりを挟む「君もそうだろ。だから来てくれたんだろ?」
「あたしは…」
小さい頃から、ここが好きだった。
大好きなお祖父ちゃん、お祖母ちゃんと過ごした日々。
圭介が連れていってくれた色々な場所。
想い出は尽きない。
「だからさ、明日またおいでよ。デートしよ」
「…やっぱり、そういうつもりじゃん」
「あはは」
彼が楽しそうに笑った。
お節介な人だ。
でも、さっきより自分も笑えている気がした。
「うち、すぐそばだから」
彼は慣れた手付きでハンドルを握ると、バイクを押して歩道を歩き始めた。
「いいよ、自分でやる」
「疲れただろ。俺は今日は午後休みだったし、パワー有り余ってる」
半袖から覗く腕は日に焼けて逞しそうだ。
任せようかと思ったが、彼の違和感に気づいた。
「足、どうしたの」
「あ、ヤバ。もうバレた」
いたずらっ子みたいな笑顔になる。
「古傷だから痛くはないんだ」
「でも…」
「すぐだから平気」
言葉の通り、彼は軽くびっこを引きながらすいすいとバイクを押していく。
夕焼けはいつの間にか宵闇に溶けていった。
代わりに一番星がきらりと光っていた。
「あ。ねえ」
彼が不意に立ち止まって、私を振り返った。
「名前、何だっけ」
「…夏月。夏の月」
「なつき。なっちゃんか」
友達も圭介も呼び捨てだった。
彼の呼び方は、他の人の「夏ちゃん」とは少し違って聞こえて、とても新鮮だった。
「なっちゃんさ、こいつのすっげえ秘密、知りたくない?」
バイクを指差して、彼が笑いながら尋ねる。
「秘密って、何」
「明日来たら教えてあげる」
「またそれ?」
私は呆れた声を出した。
でも、何だか憎めない。
ちゃらんぽらんにも見えるけど、優しい人なのは確かだと思った。
「どっちにしろ来るよ。バイク持って帰らなきゃ」
「やったー。なっちゃんとデートだ」
彼が歓声を上げる。
「人の話聞いてる? 用があるのはバイクだけだよ」
「お昼くらい、いいだろ。俺の行きつけの店、旨いんだ。食い倒れツアーしようよ」
この時、彼がなぜこんなに浮かれていたのか、私はだいぶ経ってから知ることになる。勝手にプランをたて始める彼に呆れながら、いつの間にか私もつられて笑っていた。
「手を出したらソッコー帰るからね」
「はいはい」
「子ども扱いしないでよ。ムカツク」
「子どもだろ。手が出せないんじゃ」
ねえ 圭介
泣き虫なあたしに 呆れてるかな
だって 笑顔が増えたら
圭介が消えてしまいそうで 怖いんだ
星が瞬き始めた。
さっきあんなに泣いたのが嘘みたい。
笑ったらいけない気がしてた臆病な私に、彼は自然に笑顔をくれた。自分の力だけじゃどうにもならなかった扉を、彼がそっと開けてくれた気がした。
今は 手を借りてもいいのかな…
何だか嬉しそうな彼の姿に、私も笑顔になった。
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