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第一部・アンコールワットへの道
18・森本右近太夫vs山田長政(仁左衛門)
しおりを挟む仁左衛門、交渉役をサクチャイ将軍から依頼され、しばし沈思黙考。
「わかりました。しばしお待ちを」と、背後に姿を消した。
同時に、ピョン! と、仁左衛門の頭から、<サラスヴァティ―の力(意思伝達の能力)>の増幅器であるチョンマゲヘビが飛び降りた。
前線には、オリオリオとチャクサイが残った。
・・・なんか、微妙な気まずい空気になった。
チョンマゲヘビがいるので、会話は出来るはずである。
だが、お互いに話題が思いつかない。
お互いが美男美女である。
しかし、その心根は純朴である。
それはもう、「中二病」のような異性への意識の仕方であった。
片や、気風(キップ)のいい美人トラッカー、もう一方は、身分で分け隔てすることなどない庶民に気さくな王の血筋・・・。
同性や子供・老人には気軽に話せる性格だが、異性は苦手としていたのだ、双方とも・・・^^;
「早く、仁左衛門、戻ってこい・・・!」
二人とも、心にあぶら汗を浮かべつつ思う。
そこへ仁左衛門が戻ってきた。
「お待たせしました」
仁左衛門は、白い布を2メートルほどの細い木の枝に旗の様につけていた。
つまり、「降伏(この場合は停戦の)」の意味の<白旗>である。
オリオリオは思った。
現代では、白旗は「休戦」の意味があるけど、この時代でもそうなのか?
しかも、仁左衛門は江戸時代の人である、なんで白旗を掲げるのか・・・、っちゅうか、あの白旗・・・、ふんどしじゃあないか・・・?^^;
旗としたら長すぎる、のぼりみたいじゃん・・・。
・・・旗章学者に拠ると「戦意なき白旗」の歴史は古く、中国の漢、古代ローマの時代の記述まで遡れるという。
切羽詰まった状況で提示される停戦表明として、すぐに調達できる白い布が、旗として最適とされた。
日本においても、日本書紀や風土記に「降伏」の意味の白旗の使用の記述がみられる。
全世界共通の同時多発の白旗の認識らしい。
それは、多くの国で「否定」を意味する言葉の発音に「N」が入っているのと似ているか(「NO」「ニェット」「・・・ぬ」)。
近代の戦時国際法においても、白旗は「戦意なき白旗」と規定されている。
だが、未だ、国際社会の中での文明国たり得ない、この東南アジアにおいて、白旗の意味は通じるのか?
仁左衛門は、白旗を頭上でクルクル回しながら敵陣に向かっていった。
ふんどしみたく長いので、激しく振らないと開かないのだ。
相手に森本右近太夫と言う同郷の者がいるので結果はどうあれ、白旗の意味は通じるだろう。
果たして、仁左衛門は敵軍の中にスムーズに入っていき、敵陣のジャングルに入る前に、こっちを振り向き、「ちょっと待っていてくれ」的に手を振った。
それを見ているオリオリオとサクチャイ、今度は気まずくない。
何故なら、「状況を見守る」と言う目的があるからだ。
二人とも、行動に意味を持つと俄然 生き生きとしてくる。
恋愛下手な奴が、それを恋愛のゲームだとすると、途端にやる気満々なのと似ている。
つまり、二人はまだまだ若く、恋愛にうぶで、その純正の恋愛自体を目的とは思えないタイプだった。
「うまくいきますかね^^」とオリオリオ。
「さあなぁ、難しいだろうが、仁左衛門ならばいけるんじゃないか。俺にはその方法が皆目 見当つかないけど」とサクチャイ将軍。
・・・いちお言っておくと、今後、この作品中、この二人が恋愛関係になることはない、この二人は純粋に異性との二人きりの時間が苦手なのである・・・。
「こうして話すのは久し振りだな」
仁左衛門は、クメール軍雑兵に囲まれ、その中央に立つリーダーに言った。
「そうですね、どうしました? ふんどしの白旗なんかを掲げて。今、どこぞからの大きなお客人(田中一彦とトラック)が現われたので、そちらと同じく、こちらも大変なのだが」と苦笑いの右近太夫。
「だろうね。そのことを話しにきた」
「まさか、引き渡せとは言わないですよね?」
「いやいや」と仁左衛門は首を振った。「こちらに落ちてきた、あなたが暗殺しようとして失敗した姫君(オリオリオ)と、そちらに落ちてきた御人を引き合わせたいと思ってな」
「はぁ、意味が分かりませんが?」
「おぬし、<シーレーン>で、こちらの姫君にちょっかいを出したな、たった今^^; まあ、それは戦争なのでしょうがないが・・・」
右近太夫は被せた。
「それは戦争なので、そういうこともあるでしょう。いや、私が言ってるのは、なんで、そちらの姫君とやらを、こっちに落ちてきた男に引き合わせなくてはならないのか? ってことですよ」
「男・・・、そちらに落ちてきた者は男なんだな」とニヤリと笑う仁左衛門。
仁左衛門はもちろん、オリオリオから聞いて、クメール側に落ちた者が「男」だと知っていた、しかし、一言一言で、敵を追い詰めていくのが彼の「「タフ・ネゴシエイター」としてのやり方だった。
「む、むむっ・・・」とたじろぐ右近太夫、敵に情報を漏らしてしまった。
「二人を対面させておきたいのは、それが双方に良かれだからだよ」
畳みかける仁左衛門、さすがは歴史に知れる山田長政だった。
「ふう・・・、聞きましょう・・・」と観念する右近太夫。
「こっちの姫君と、そちらの男、異世界では顔見知りのようだ。姫君はそちらの男の鉄の乗り物で分かったそうだ。安心召されよ、二人はライバル関係だそうだ。属している組織(会社)が違うらしい。だが、同じ世界から漂流してきた同族意識はある。幸い、こちらの姫君は、混乱なく、我がアユタヤ軍に帰属した。対して、そちらの男はどうか? うまく、ウボン(クメール側)に打ち解けられるのか? こちらの姫君は、それを心配している。敵となるのはしょうがない。でも、その敵になる前に、ウボンに対し混乱し、その男が自らの心身を病むのを恐れている」
「ふ~む」
右近太夫は悩んだ。
現在、アユタヤ軍の幹部が言うところの「そちらの男」は意識を失っていた。
目覚めてからどうなるかは分からなかった。
「森本君(右近太夫)、私は、そちらに塩を送っているんだ」
「塩を送る」とは、「敵が苦しんでいる時に、その苦境を救う」ことを言い、「上杉謙信が、今川・北条の塩止めで苦しんでいる、敵であった武田信玄に塩を送ったという逸話」に由来する。
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