8 / 8
撃壌之歌
7話
しおりを挟む
「ミール様!いったいどういうことでございますか?!四番隊を戦闘に出すなど、我々の秘密が知られてしまうかもしれないのですよ?!」
声を荒げてミールに詰め寄るのは中央騎兵隊副隊長のエドである。
「まぁまぁそう怒るでない。先の戦では一番隊から三番隊までが戦い、多くの死傷者を出している。そして此度の敵の数はたったの20名。負けるはずのない戦いに負傷した者たちも多くいる一番隊や二番隊、三番隊を出すよりも、まだまだ実戦経験のない四番隊を出すほうが被害も抑えられ、彼らの経験にもなる。」
「それはそうですが...ユハを戦闘に出すのはいかがなものかと...」
「せっかく連れてきたのだ。ずっと檻の中というのもなかなかに苦であろう。」
「しかし、ユハはまだまだ未知の存在。万が一暴走でもしたら...」
「だからこそ、今回の戦で試すのだ。要らぬ心配はよせ。一番隊から三番隊には何があっても手出しせぬよう、伝えておいてくれ。」
「承知いたしました。」
そういったエドだったが、どこか浮かない顔つきだった。
ーーーーーーーーーーー
オルハンたちは地下水路を進んでいた。
すると突然、目の前の暗闇から一人の男が近づいてくるのに気が付いた。
「敵かもしれない。気をつけろ。」
気配に気づいたオルハンたちは剣を抜き、迎撃態勢を取る。
するとその男は、一瞬立ち止まったかと思うと、とてつもないスピードでこちらに突っ込んできた。
目の前に振り下ろされる銀閃を先頭にいたラードが受け止めると、そのまま流れるように敵を蹴り飛ばした。
初撃を止められ、蹴り飛ばされた男はよろよろと立ち上がったのだが、蹴り飛ばされた衝撃で飛んでいってしまった兜の下からはこの世のものではない、異形の顔が露わになった。
「骸骨?!」
男の顔を見たラードたちは少しばかり動揺していたが、オルハンだけは澄ました顔で男を見つめていた。
「オルハン、こいつを知っているのか?」
「はい。先日アーティフから聞いてはいました。しかしまさか実在するとは...こいつらは人間の心臓部分にある本体を攻撃しない限り死ぬことはないと聞きました。狙いはそこだけ、たとえ頭を切り落としたとしても死にませんよ。」
「ほう...なるほど...」
すると暗闇の奥から、ぞろぞろと同じような見た目の骸骨が出てきた。その数は30人ほど。
「まだ出てくんのかよ!」
「お前ら、行け!」
最初に襲い掛かってきた男の一言で、周りの骸骨たちは一斉にオルハンたちに襲い掛かる。
しかし、最初の男とは違い、骸骨たちは鎧を着ていない。
一般市民のような装いのため突き入れた刃は刺さりやすく、動きも愚鈍で、対処法を知っていたオルハンたちにはまるで歯が立たない。
敵は一人二人と倒れていく。
その状況を見た男は退却する判断を下した。
「やはり攻略法を知られては勝てないか。ここは一旦引こう。」
それを見たオルハンがすかさず飛び掛かる。
「させるか!」
しかしオルハンが振るった刃は容易く躱されてしまう。
すると即座に男の反撃が飛ぶ。振り終わりの姿勢で体制が悪いオルハンは辛うじて躱すことこそできたが、頬の皮を1枚斬られてしまう。
「貴様もなかなかにやるようだ。なぜ我々のことを知っていた。」
「こっちの仲間に一人優秀なやつがいるものでね。ただ詳しくは言えないよ。」
「ほう。まぁいい、ここは逃げさせてもらう。」
「それができるとでも?」
そうオルハンが言ったと同時、男の背後に二人の影が現れる。
「なに?!もう全員殺ったのか?!」
二人の影に気づいた男はすぐさま反転し、その刃を受け止めた。
しかし男がオルハンから目を離して出来たその一瞬の隙にスタートを切ったオルハンが再度男に接近する。
オルハンに気付いていた男だったが、3人に囲まれた男には成すすべがなく、オルハンに心の臓を貫かれて露と消えた。
「特徴を知らなければこちらがやられていたかもしれんな。なぜこいつらのことを知っていたんだ?」
衣類だけが転がる辺りを見てラードがオルハンに聞いた。
「実は...」
ーーーーーーーーーーー
〈ホネーデへの出発前〉
「なぁオルハン、朝の会議で言ってた謎の光について少しだけ思い当たる節があるんだ。」
「あぁ、あれか、寝ぼけてでもしたんじゃないのか?」
朝の会議での報告に何か思うところがあったのか、アーティフがオルハンに話しかけた。
「いや、実は読んだことのある戦記に似たような一文があったなぁと思って...」
するとアーティフはその内容について語りだした。
レスぺナテア共和国の前身であるレスぺナテア帝国とブレジニア帝国は過去にも何度かの戦争を経験している。
その中にはブレジニア帝国中央騎兵隊と戦った者の記録も残っていた。
その記録によると、中央騎兵隊は一番隊から三番隊までが所属していると書かれてあった。しかしそれとは別に他にも部隊が存在している疑いがあるとの記録もあった。
発端は、ある日、ブレジニアの城にとあるレスぺナテアの部隊が攻め入ったことである。
その部隊は、ほぼ全員が戦死するという末路を辿ったのだが、たった数人の生き残りがこう証言した。
【中央騎兵隊には悪魔がいる。】
詳しく聞くと、城攻めの前日、ブレジニアの城の内部から奇妙な光を見たそうだ。
その光を隊員たちは不思議に思いながらも、あまり気に留めることもなく、後日城攻めは予定通り決行された。
その部隊は城に攻め入った後、順調に攻め入っていたのだが、突然全身を鎧でまとった男が目の前に立ちはだかった。
その男が合図を出すと、奥から出てきた無数の骸骨が襲い掛かってきたとのことだった。
必死に応戦したのだが、その骸骨たちは首を切り落としても、手足を切り落としても再生するばかりで全く効果がなく、対処のしようがわからないうえに、初めて見る異形のバケモノに足がすくんで動けない隊員も多くおり、瞬く間に部隊は崩壊していった。
当初、報告を受けた軍上層部はこのことをあまり信じてはいなかったが、他にも中央騎兵隊と戦闘を行った部隊から同様の報告が多数上がったことから、中央騎兵隊には公にされていない別の部隊がいる。もしくは得体の知れない謎の技術が発明されているのではないかと秘密裏に調査が行われることになった。
しかし、レスぺナテア帝国が調査を行っても、隠された部隊の詳細や新技術の情報はまったく掴めず、このことから【中央騎兵隊には幻の部隊が存在している。】との噂や、斬っても斬っても死なないバケモノがいることから中央騎兵隊は【不死鳥】との異名を付けられるようになった。
これが第二次レスぺナテア・ブレジニア戦争の時の話である。
「確かに閃光の話だったり、敵が中央騎兵隊であることだったりと今回の戦いとも被るものが多いけど、信じられる話ではないよなぁ。そもそもそんな奴が出てきたとしてどうするんだ?対処のしようもないんだろ?」
アーティフの話を聞いてもオルハンは半信半疑だった。
しかしアーティフは続けた。
「それが対処方法が発見されたんだよ。第三次レスぺナテア・ブレジニア戦争で。」
次に起こった第三次レスぺナテア・ブレジニア戦争では、その骸骨を捕獲した部隊があった。それが現在の西方十二大隊の前身、レスぺナテア帝国中央騎兵隊だった。
レスぺナテア中央騎兵隊とブレジニア帝国中央騎兵隊。この二つの騎兵隊はホネーデ近くの丘陵地であるヌマゼの丘で衝突した。
最初は戦況は膠着状態。両者一歩も引かずの激戦となったが、最後は押し切る形でレスぺナテア側が勝利した。
その際にレスぺナテア側は残されたテントの中に例の骸骨を発見したのだ。
さらにその骸骨を持ち帰ってレスぺナテア帝国軍直属の特殊科学班が詳しく調べて判明したことだが、その骸骨には臓器がなく、人間でいう心臓部分にのみ青白い炎のようなものが浮かんでいるだけだった。
さらには敵兵士とみなされていたその骸骨の付近には、ホネーデの家で暮らす夫婦の写真が落ちていたことから、おそらくは占領した土地の人間を骸骨に変えていたのだろうとも推察された。
このことから、骸骨は心臓部分を突くと殺害が可能なこと、人間を骸骨に変える技術を生みだしていることが判明したのだった。
「ということは、もしその骸骨が出たら斬るんじゃなくて突けばいいってことだな。」
「まぁそういうことになるね。」
「わかった。一応クトゥブやハキーマにも伝えておく。でもなんで今の人間はその噂を知らないんだろうな。」
「その後、理由ははっきりしていないけれど特殊科学班の研究結果は完全に隠蔽されたそうなんだ。捕獲したレスぺナテア帝国中央騎兵隊でさえ真実を教えてはもらえなかったそうで、今ではそういう戦記物に登場するおとぎ話程度でしか知られてないみたいなんだ。」
「ほう...何か裏がありそうだな。」
こうしてオルハンはブレジニア帝国中央騎兵隊の秘密を知ったのだった。
声を荒げてミールに詰め寄るのは中央騎兵隊副隊長のエドである。
「まぁまぁそう怒るでない。先の戦では一番隊から三番隊までが戦い、多くの死傷者を出している。そして此度の敵の数はたったの20名。負けるはずのない戦いに負傷した者たちも多くいる一番隊や二番隊、三番隊を出すよりも、まだまだ実戦経験のない四番隊を出すほうが被害も抑えられ、彼らの経験にもなる。」
「それはそうですが...ユハを戦闘に出すのはいかがなものかと...」
「せっかく連れてきたのだ。ずっと檻の中というのもなかなかに苦であろう。」
「しかし、ユハはまだまだ未知の存在。万が一暴走でもしたら...」
「だからこそ、今回の戦で試すのだ。要らぬ心配はよせ。一番隊から三番隊には何があっても手出しせぬよう、伝えておいてくれ。」
「承知いたしました。」
そういったエドだったが、どこか浮かない顔つきだった。
ーーーーーーーーーーー
オルハンたちは地下水路を進んでいた。
すると突然、目の前の暗闇から一人の男が近づいてくるのに気が付いた。
「敵かもしれない。気をつけろ。」
気配に気づいたオルハンたちは剣を抜き、迎撃態勢を取る。
するとその男は、一瞬立ち止まったかと思うと、とてつもないスピードでこちらに突っ込んできた。
目の前に振り下ろされる銀閃を先頭にいたラードが受け止めると、そのまま流れるように敵を蹴り飛ばした。
初撃を止められ、蹴り飛ばされた男はよろよろと立ち上がったのだが、蹴り飛ばされた衝撃で飛んでいってしまった兜の下からはこの世のものではない、異形の顔が露わになった。
「骸骨?!」
男の顔を見たラードたちは少しばかり動揺していたが、オルハンだけは澄ました顔で男を見つめていた。
「オルハン、こいつを知っているのか?」
「はい。先日アーティフから聞いてはいました。しかしまさか実在するとは...こいつらは人間の心臓部分にある本体を攻撃しない限り死ぬことはないと聞きました。狙いはそこだけ、たとえ頭を切り落としたとしても死にませんよ。」
「ほう...なるほど...」
すると暗闇の奥から、ぞろぞろと同じような見た目の骸骨が出てきた。その数は30人ほど。
「まだ出てくんのかよ!」
「お前ら、行け!」
最初に襲い掛かってきた男の一言で、周りの骸骨たちは一斉にオルハンたちに襲い掛かる。
しかし、最初の男とは違い、骸骨たちは鎧を着ていない。
一般市民のような装いのため突き入れた刃は刺さりやすく、動きも愚鈍で、対処法を知っていたオルハンたちにはまるで歯が立たない。
敵は一人二人と倒れていく。
その状況を見た男は退却する判断を下した。
「やはり攻略法を知られては勝てないか。ここは一旦引こう。」
それを見たオルハンがすかさず飛び掛かる。
「させるか!」
しかしオルハンが振るった刃は容易く躱されてしまう。
すると即座に男の反撃が飛ぶ。振り終わりの姿勢で体制が悪いオルハンは辛うじて躱すことこそできたが、頬の皮を1枚斬られてしまう。
「貴様もなかなかにやるようだ。なぜ我々のことを知っていた。」
「こっちの仲間に一人優秀なやつがいるものでね。ただ詳しくは言えないよ。」
「ほう。まぁいい、ここは逃げさせてもらう。」
「それができるとでも?」
そうオルハンが言ったと同時、男の背後に二人の影が現れる。
「なに?!もう全員殺ったのか?!」
二人の影に気づいた男はすぐさま反転し、その刃を受け止めた。
しかし男がオルハンから目を離して出来たその一瞬の隙にスタートを切ったオルハンが再度男に接近する。
オルハンに気付いていた男だったが、3人に囲まれた男には成すすべがなく、オルハンに心の臓を貫かれて露と消えた。
「特徴を知らなければこちらがやられていたかもしれんな。なぜこいつらのことを知っていたんだ?」
衣類だけが転がる辺りを見てラードがオルハンに聞いた。
「実は...」
ーーーーーーーーーーー
〈ホネーデへの出発前〉
「なぁオルハン、朝の会議で言ってた謎の光について少しだけ思い当たる節があるんだ。」
「あぁ、あれか、寝ぼけてでもしたんじゃないのか?」
朝の会議での報告に何か思うところがあったのか、アーティフがオルハンに話しかけた。
「いや、実は読んだことのある戦記に似たような一文があったなぁと思って...」
するとアーティフはその内容について語りだした。
レスぺナテア共和国の前身であるレスぺナテア帝国とブレジニア帝国は過去にも何度かの戦争を経験している。
その中にはブレジニア帝国中央騎兵隊と戦った者の記録も残っていた。
その記録によると、中央騎兵隊は一番隊から三番隊までが所属していると書かれてあった。しかしそれとは別に他にも部隊が存在している疑いがあるとの記録もあった。
発端は、ある日、ブレジニアの城にとあるレスぺナテアの部隊が攻め入ったことである。
その部隊は、ほぼ全員が戦死するという末路を辿ったのだが、たった数人の生き残りがこう証言した。
【中央騎兵隊には悪魔がいる。】
詳しく聞くと、城攻めの前日、ブレジニアの城の内部から奇妙な光を見たそうだ。
その光を隊員たちは不思議に思いながらも、あまり気に留めることもなく、後日城攻めは予定通り決行された。
その部隊は城に攻め入った後、順調に攻め入っていたのだが、突然全身を鎧でまとった男が目の前に立ちはだかった。
その男が合図を出すと、奥から出てきた無数の骸骨が襲い掛かってきたとのことだった。
必死に応戦したのだが、その骸骨たちは首を切り落としても、手足を切り落としても再生するばかりで全く効果がなく、対処のしようがわからないうえに、初めて見る異形のバケモノに足がすくんで動けない隊員も多くおり、瞬く間に部隊は崩壊していった。
当初、報告を受けた軍上層部はこのことをあまり信じてはいなかったが、他にも中央騎兵隊と戦闘を行った部隊から同様の報告が多数上がったことから、中央騎兵隊には公にされていない別の部隊がいる。もしくは得体の知れない謎の技術が発明されているのではないかと秘密裏に調査が行われることになった。
しかし、レスぺナテア帝国が調査を行っても、隠された部隊の詳細や新技術の情報はまったく掴めず、このことから【中央騎兵隊には幻の部隊が存在している。】との噂や、斬っても斬っても死なないバケモノがいることから中央騎兵隊は【不死鳥】との異名を付けられるようになった。
これが第二次レスぺナテア・ブレジニア戦争の時の話である。
「確かに閃光の話だったり、敵が中央騎兵隊であることだったりと今回の戦いとも被るものが多いけど、信じられる話ではないよなぁ。そもそもそんな奴が出てきたとしてどうするんだ?対処のしようもないんだろ?」
アーティフの話を聞いてもオルハンは半信半疑だった。
しかしアーティフは続けた。
「それが対処方法が発見されたんだよ。第三次レスぺナテア・ブレジニア戦争で。」
次に起こった第三次レスぺナテア・ブレジニア戦争では、その骸骨を捕獲した部隊があった。それが現在の西方十二大隊の前身、レスぺナテア帝国中央騎兵隊だった。
レスぺナテア中央騎兵隊とブレジニア帝国中央騎兵隊。この二つの騎兵隊はホネーデ近くの丘陵地であるヌマゼの丘で衝突した。
最初は戦況は膠着状態。両者一歩も引かずの激戦となったが、最後は押し切る形でレスぺナテア側が勝利した。
その際にレスぺナテア側は残されたテントの中に例の骸骨を発見したのだ。
さらにその骸骨を持ち帰ってレスぺナテア帝国軍直属の特殊科学班が詳しく調べて判明したことだが、その骸骨には臓器がなく、人間でいう心臓部分にのみ青白い炎のようなものが浮かんでいるだけだった。
さらには敵兵士とみなされていたその骸骨の付近には、ホネーデの家で暮らす夫婦の写真が落ちていたことから、おそらくは占領した土地の人間を骸骨に変えていたのだろうとも推察された。
このことから、骸骨は心臓部分を突くと殺害が可能なこと、人間を骸骨に変える技術を生みだしていることが判明したのだった。
「ということは、もしその骸骨が出たら斬るんじゃなくて突けばいいってことだな。」
「まぁそういうことになるね。」
「わかった。一応クトゥブやハキーマにも伝えておく。でもなんで今の人間はその噂を知らないんだろうな。」
「その後、理由ははっきりしていないけれど特殊科学班の研究結果は完全に隠蔽されたそうなんだ。捕獲したレスぺナテア帝国中央騎兵隊でさえ真実を教えてはもらえなかったそうで、今ではそういう戦記物に登場するおとぎ話程度でしか知られてないみたいなんだ。」
「ほう...何か裏がありそうだな。」
こうしてオルハンはブレジニア帝国中央騎兵隊の秘密を知ったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる