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撃壌之歌
6話
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夜になると見張り役が交代しながら見張りを続けていた。
いくら安全性がある場所で休息をとっているとはいえ、ここは敵が占領する土地であることに変わりはない。
つまり気を抜くことはできないというわけである。
そんな中見張りの一人であったカリムがホネーデ市街のある方角から奇妙な光を見た。
その光は冬の澄んだ空気に助けられ、雲一つない空で輝きを増す星々を切り裂くように一直線に伸びていた。
それはまるで世界の終焉に神が舞い降りてきたようだったとその見張りは言った。
そんな話を朝のミーティングでオルハンは聞かされた。
「そんな話があるわけないだろう。おとぎ話でもないんだから。」
そうあきれ顔でいうオルハンだったが、横で聞いていたアーティフの顔は浮かない顔つきだった。
ーーーーーーーーーーー
「全員、荷物は持ったか?」
オルハンたち一行はホネーデへと足を運んだ。
ホネーデの中心部に近づくにつれ、辺りの空気が次第に重くなるのを肌で感じた。
澄んでいたはずの空気は次第に湿っぽくなり、何とも言えない匂いが辺りに漂うようになった。
しばらく歩き、街の外れにある山道へと足を踏み入れると、先ほどまでの景色とは打って変わり、木々の生い茂る場所になった。
「こんなところに本当にあるのか?」
木々が鬱蒼と生い茂る周囲の様子を見て、ハーディーはオルハンに聞いた。
「西方九大隊の調べではこのあたりのあるという情報です。もう少し頑張って探してみましょう。」
そう言ったオルハンたちはホネーデ地下に張り巡らされているという地下水路の入り口を探していた。
出発前に西方九大隊から下水道の入り口はホネーデの市街地にもたくさんあるが、ホネーデの外れにある山の中にも存在していると聞いていた。
そこで市街地は敵の目もあるため、山の中にある入り口から侵入しようということになったのだ。
「オルハン!あったぞ!」
しばらく捜索を続けていると、ツタに覆われた扉をラードが発見した。
「しかしこれまた古い扉だな。開くのか?」
「わからないですが...やってみますか。」
扉は長年開けられなかったからだろうか、絡まったツタと錆のせいで10人が力を合わせても人1人が通れそうなほどの隙間しか開けることができなかった。
「これでひとまずはいいだろう。さぁ、中に入ろうか。」
そう息を切らしながら言うラードを先頭に全員が中に入った。
地下水路内部は真っ暗であった。
そしてホネーデの地下にはこのような水路が何本も張り巡らされているため、少し進んでは分かれ道、また少し進んでは分かれ道の連続である。
「ねぇオルハン、これって道あってる...?なんかやばい雰囲気するし...」
「大丈夫だ、ハキーマ。心配することはない!何とかなる!」
おびえるハキーマの背中をクトゥブが叩きながら答える。
そんな様子を見たラードはオルハンに聞いた。
「いつもあんな感じなのか?これから敵と戦わないといけない場面もあるだろうが大丈夫か?」
「まぁ今はあんな感じですけど、いざというときはやってくれますよ。なんだかんだで頼もしい二人なんでね。」
ちなみにこの時アーティフはというと、列の最後尾で普段見ることのない石造りの地下水路に見入っていたわけである。
しばらく軽食を取りながら歩いたオルハンたちだったが、市庁舎に近づくにつれて、会話も減っていった。
「よし、ここからは分かれて行動しましょう。くれぐれも気を付けて。」
そのオルハンの言葉で、アーティフやクトゥブ、ハキーマは5人組を引き連れて、市庁舎へと近づいていくことになった。
そしてそんなオルハンたちの行動を密かに見ている者がいたのだが、この時はまだ、オルハンたちは気づいていなかった。
ーーーーーーーーーーー
「ミール様、レスぺナテアの兵士20名が地下水路を使用してこちらに接近してきております。いかがいたしましょう。」
ワインを片手に足を組んで座る。よく伸びた髭が特徴の男ミールと、その前で全身を鎧で覆った者が片膝をついて会話をしていた。
「ほう。そやつらは西方十二大隊の生き残りか?」
「そのようではありますが、率いている者たちが少し違うようです。会話を聴くとリーダー核のものは四名ほど、しかしながら、西方十二大隊とは違う部隊から派遣されている者たちなのか、組織としてのまとまりを欠いているように感じました。」
「西方十二大隊のことだ、あいつらはプライドが高い。その四人に従ったというよりも我々に対する復讐のために仕方なくその四人に従っているのかもしれんな。」
「私もそのように感じております。」
「いずれにせよ、その四人がどれほどの者かわからぬうちは油断できんだろう。対策はお前に任せる。ユハを使ってもいいぞ。先の戦では戦闘に出させてやれんかったからな。退屈しているだろう。」
「承知いたしました。」
その者は軽く頭を下げてからその場を去った。
ミールは去っていく部下を見て、わずかな笑みを含んだ顔で言った。
「今回はどれほど楽しませてくれるのか。期待しておるぞ。」
ミールの前を後にした者はその後、ユハのもとへ向かった。
そしてユハに向かって嬉しそうな声で告げた。
「今、レスぺナテアの兵士がこちらに向かっているそうだ。ユハ、お前も出番があるそうだぞ。」
ユハの咆哮がホネーデ市庁舎に轟いた。
いくら安全性がある場所で休息をとっているとはいえ、ここは敵が占領する土地であることに変わりはない。
つまり気を抜くことはできないというわけである。
そんな中見張りの一人であったカリムがホネーデ市街のある方角から奇妙な光を見た。
その光は冬の澄んだ空気に助けられ、雲一つない空で輝きを増す星々を切り裂くように一直線に伸びていた。
それはまるで世界の終焉に神が舞い降りてきたようだったとその見張りは言った。
そんな話を朝のミーティングでオルハンは聞かされた。
「そんな話があるわけないだろう。おとぎ話でもないんだから。」
そうあきれ顔でいうオルハンだったが、横で聞いていたアーティフの顔は浮かない顔つきだった。
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「全員、荷物は持ったか?」
オルハンたち一行はホネーデへと足を運んだ。
ホネーデの中心部に近づくにつれ、辺りの空気が次第に重くなるのを肌で感じた。
澄んでいたはずの空気は次第に湿っぽくなり、何とも言えない匂いが辺りに漂うようになった。
しばらく歩き、街の外れにある山道へと足を踏み入れると、先ほどまでの景色とは打って変わり、木々の生い茂る場所になった。
「こんなところに本当にあるのか?」
木々が鬱蒼と生い茂る周囲の様子を見て、ハーディーはオルハンに聞いた。
「西方九大隊の調べではこのあたりのあるという情報です。もう少し頑張って探してみましょう。」
そう言ったオルハンたちはホネーデ地下に張り巡らされているという地下水路の入り口を探していた。
出発前に西方九大隊から下水道の入り口はホネーデの市街地にもたくさんあるが、ホネーデの外れにある山の中にも存在していると聞いていた。
そこで市街地は敵の目もあるため、山の中にある入り口から侵入しようということになったのだ。
「オルハン!あったぞ!」
しばらく捜索を続けていると、ツタに覆われた扉をラードが発見した。
「しかしこれまた古い扉だな。開くのか?」
「わからないですが...やってみますか。」
扉は長年開けられなかったからだろうか、絡まったツタと錆のせいで10人が力を合わせても人1人が通れそうなほどの隙間しか開けることができなかった。
「これでひとまずはいいだろう。さぁ、中に入ろうか。」
そう息を切らしながら言うラードを先頭に全員が中に入った。
地下水路内部は真っ暗であった。
そしてホネーデの地下にはこのような水路が何本も張り巡らされているため、少し進んでは分かれ道、また少し進んでは分かれ道の連続である。
「ねぇオルハン、これって道あってる...?なんかやばい雰囲気するし...」
「大丈夫だ、ハキーマ。心配することはない!何とかなる!」
おびえるハキーマの背中をクトゥブが叩きながら答える。
そんな様子を見たラードはオルハンに聞いた。
「いつもあんな感じなのか?これから敵と戦わないといけない場面もあるだろうが大丈夫か?」
「まぁ今はあんな感じですけど、いざというときはやってくれますよ。なんだかんだで頼もしい二人なんでね。」
ちなみにこの時アーティフはというと、列の最後尾で普段見ることのない石造りの地下水路に見入っていたわけである。
しばらく軽食を取りながら歩いたオルハンたちだったが、市庁舎に近づくにつれて、会話も減っていった。
「よし、ここからは分かれて行動しましょう。くれぐれも気を付けて。」
そのオルハンの言葉で、アーティフやクトゥブ、ハキーマは5人組を引き連れて、市庁舎へと近づいていくことになった。
そしてそんなオルハンたちの行動を密かに見ている者がいたのだが、この時はまだ、オルハンたちは気づいていなかった。
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「ミール様、レスぺナテアの兵士20名が地下水路を使用してこちらに接近してきております。いかがいたしましょう。」
ワインを片手に足を組んで座る。よく伸びた髭が特徴の男ミールと、その前で全身を鎧で覆った者が片膝をついて会話をしていた。
「ほう。そやつらは西方十二大隊の生き残りか?」
「そのようではありますが、率いている者たちが少し違うようです。会話を聴くとリーダー核のものは四名ほど、しかしながら、西方十二大隊とは違う部隊から派遣されている者たちなのか、組織としてのまとまりを欠いているように感じました。」
「西方十二大隊のことだ、あいつらはプライドが高い。その四人に従ったというよりも我々に対する復讐のために仕方なくその四人に従っているのかもしれんな。」
「私もそのように感じております。」
「いずれにせよ、その四人がどれほどの者かわからぬうちは油断できんだろう。対策はお前に任せる。ユハを使ってもいいぞ。先の戦では戦闘に出させてやれんかったからな。退屈しているだろう。」
「承知いたしました。」
その者は軽く頭を下げてからその場を去った。
ミールは去っていく部下を見て、わずかな笑みを含んだ顔で言った。
「今回はどれほど楽しませてくれるのか。期待しておるぞ。」
ミールの前を後にした者はその後、ユハのもとへ向かった。
そしてユハに向かって嬉しそうな声で告げた。
「今、レスぺナテアの兵士がこちらに向かっているそうだ。ユハ、お前も出番があるそうだぞ。」
ユハの咆哮がホネーデ市庁舎に轟いた。
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