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一章
第5話 いつ如何なるときも出産は命がけ
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「うううう……痛い……」
家族3人で昼食を楽しんでいる最中、母親が破水したのだ。
陣痛も時間が経過するに従い、どんどん酷くなっていくようだった。
「おばばを呼んでくるから、お前はまみーの側にいてあげてくれ」
父親がいつになくキリッとした表情をしながらそんなことを言った。
普段は剣を振り回して、3歳児相手に無双し、悦に浸っているくせに、今日はとても頼もしい感じがする。
「わかったよ、お父ちゃん」
そう言いながら父親の方に視線を向けると、バリーン!という音と共に腕を眼前でクロスさせながら、窓ガラスをぶち破り、駆けていく姿が目に映った。
内心相当慌てていたのだろうか、全然頼もしくない姿に少し不安を感じた。
出産の際は、“産婆といえば、この婆!”という村では有名な手練れの老婆、通称おばばを召還することが通例となっている。
老兵をいつまでも酷使するなと文句は垂れるが、腕は確かだ。
最近では、助産師としての経験を積ませるために、何人もの弟子を引き連れて、産婆部隊を結成している。
噂では彼女の指導はとても厳しいらしく、昭和の体罰系体育教師のように竹刀の代わりに鉄の斧を担いでいる。
また、産婆部隊は、足抜けはご法度とされており、過去に何人かその禁忌を犯し、二度と姿を見ることは無くなったという。
生きているのか、死んでいるのか、審議は定かではないが、時たま、おばばの担いでいる鉄斧に赤黒い何かが付着して、テラテラと輝いているのを目撃したという村人の証言もあったり無かったりするらしい。
そういえば、そんな証言をしたりしなかったりした村人は、最近見なくなったような気がする。
まあ、僕は庭から先には出たことが無いので、見かけないのはきっとたまたまだろう。
それに、そんな凶悪な人間が、こんな寂れた村にいるわけがないのだ。
そもそも、新たな命を掬い上げる仕事をしている人が、慎ましく生きている村人の命を農作物のようにポンポン収穫してしまうなんてことは無いのである。
「うううううう!!!あああああああ!うぅ……、産まれるー!!」
そんなことを考えていると、どんどんと母親のテンションがアゲアゲになってきた。
これは、本格的にまずいかもしれない。
僕は有能な人材であるという自負はあるのだが、赤ん坊を取り上げたことは無いのだ。
うーん、いざという時には試してみようかな?
なんかやってみたら案外上手くいくかもしれないし……
「あああああああ!ふぅーっ!ふぅーっ!」
どうしよう……、本当に産まれちゃうかもしれない。
僕は、こういった切羽詰まった状況では体が固まってしまうのだ。
でも僕が動かないと大変なことになる。どうしよう、どうしよう……
僕が慌てふためき、母親の周りをグルグルと回っていると、ガシャン!!ガシャン!!と窓ガラスをぶち破る大きな音が鳴り響く。
音に驚き、振り返ると、5~6人ほどの黒ずくめの人間が窓ガラスから次々と侵入してきたのだ。
な、何奴っ!?
くそ、こんなタイミングで賊の襲撃なんて最悪だ……!!
どうしよう、どうしよう……
僕は無垢な3歳児でしかないので、複数人の大人に取り囲まれれば、クチャっと踏みつぶされておしまいなのだ。
そんな感じで複数の大人たちにオロオロとしていると、一番ガタイが良く、巨大な斧を背負った黒ずくめが、声を張り上げる。
「ありったけのタオルをよこしな!!」
しわがれた声で周りの黒ずくめに指示を出したと同時に、1人の黒ずくめが持参してきた唐草模様の風呂敷を広げると、中から大量のバスタオルが姿を現した。
どうやら、おばばの産婆部隊が現着したのだ。
しかし、これは僕の父親にも言えることだが、この村の人間は家の出入口が窓だとでも思っているのだろうか。
仮にそうだったとしてもガラスを割って入ってくる必要はないはずである。
確かに一刻を争う状況とはいえ、人んちの窓ガラスを躊躇なくぶち割るというのはどういう了見なのだろうか。
「おらぁ!とっととタオル敷いちまいなぁ!!」
「はいぃぃぃ!!」
雷が落ちたかと思うほどの大声で指示を出すおばば。
黒ずくめたちは悲鳴のような、あるいは絶叫のような返事をして、慎重に母親の体の下にタオル敷き始めた。
そんなに大きい声を出したら母親の体、ひいてはこれから産まれてくる赤ん坊の体に響くだろうと思うのだが、そんなこともお構いなしなのか、怒号が飛び交っている。
お産は破水やら出血やら、場合によってはうんちやおしっこなど、あらゆる体液が出てくるので、防水や吸水対策をして、なるべく清潔に保つ必要があるらしいので、今は産婆部隊が総出でタオルを敷き詰めている。
出産はどこの世界、いつの時代も命がけなのだ。
「フーッ!フーッ!」
「まだいきむんじゃあないよ!タイミングってもんがあるからね!辛かったら深呼吸でもしときな!ヒッヒッフーってな!」
僕は、おばばが母親に寄り添って、指示を出している姿や忙しなく動く産婆部隊の姿を眺めていたのだが、ふと後ろを振り返ると、いつの間にか父親が立っていた。
なんだかポーっとした間抜けな表情をしたり、急にハッとして、汗をダラダラ流しながらアワアワしたりしている。
それを興味深く感じて観察し始めたのだが、じーっと見ている僕の視線に気が付いたのか、父親はちょっとだけばつの悪そうな顔を見せ、大人の余裕を見せつけているつもりなのか、若干引き攣った笑みを浮かべた後、腕を組み、キリッとした表情をした。
「あんたら、いつまでそこに突っ立ってるつもりだい!?邪魔だからとっとと出ていきな!」
忙しく変化する父親の表情を鑑賞していると、鼓膜が貫かれたかと思うほどの鋭い怒声が僕たちを襲った。
おばばに怒鳴りつけられて、腕を組んで格好をつけていた父親の体がビクンッ震えたのが、とても情けなく見えた。
僕は、どことなく小さくなった父親の背中を見ながら、部屋を後にしたのだった。
家族3人で昼食を楽しんでいる最中、母親が破水したのだ。
陣痛も時間が経過するに従い、どんどん酷くなっていくようだった。
「おばばを呼んでくるから、お前はまみーの側にいてあげてくれ」
父親がいつになくキリッとした表情をしながらそんなことを言った。
普段は剣を振り回して、3歳児相手に無双し、悦に浸っているくせに、今日はとても頼もしい感じがする。
「わかったよ、お父ちゃん」
そう言いながら父親の方に視線を向けると、バリーン!という音と共に腕を眼前でクロスさせながら、窓ガラスをぶち破り、駆けていく姿が目に映った。
内心相当慌てていたのだろうか、全然頼もしくない姿に少し不安を感じた。
出産の際は、“産婆といえば、この婆!”という村では有名な手練れの老婆、通称おばばを召還することが通例となっている。
老兵をいつまでも酷使するなと文句は垂れるが、腕は確かだ。
最近では、助産師としての経験を積ませるために、何人もの弟子を引き連れて、産婆部隊を結成している。
噂では彼女の指導はとても厳しいらしく、昭和の体罰系体育教師のように竹刀の代わりに鉄の斧を担いでいる。
また、産婆部隊は、足抜けはご法度とされており、過去に何人かその禁忌を犯し、二度と姿を見ることは無くなったという。
生きているのか、死んでいるのか、審議は定かではないが、時たま、おばばの担いでいる鉄斧に赤黒い何かが付着して、テラテラと輝いているのを目撃したという村人の証言もあったり無かったりするらしい。
そういえば、そんな証言をしたりしなかったりした村人は、最近見なくなったような気がする。
まあ、僕は庭から先には出たことが無いので、見かけないのはきっとたまたまだろう。
それに、そんな凶悪な人間が、こんな寂れた村にいるわけがないのだ。
そもそも、新たな命を掬い上げる仕事をしている人が、慎ましく生きている村人の命を農作物のようにポンポン収穫してしまうなんてことは無いのである。
「うううううう!!!あああああああ!うぅ……、産まれるー!!」
そんなことを考えていると、どんどんと母親のテンションがアゲアゲになってきた。
これは、本格的にまずいかもしれない。
僕は有能な人材であるという自負はあるのだが、赤ん坊を取り上げたことは無いのだ。
うーん、いざという時には試してみようかな?
なんかやってみたら案外上手くいくかもしれないし……
「あああああああ!ふぅーっ!ふぅーっ!」
どうしよう……、本当に産まれちゃうかもしれない。
僕は、こういった切羽詰まった状況では体が固まってしまうのだ。
でも僕が動かないと大変なことになる。どうしよう、どうしよう……
僕が慌てふためき、母親の周りをグルグルと回っていると、ガシャン!!ガシャン!!と窓ガラスをぶち破る大きな音が鳴り響く。
音に驚き、振り返ると、5~6人ほどの黒ずくめの人間が窓ガラスから次々と侵入してきたのだ。
な、何奴っ!?
くそ、こんなタイミングで賊の襲撃なんて最悪だ……!!
どうしよう、どうしよう……
僕は無垢な3歳児でしかないので、複数人の大人に取り囲まれれば、クチャっと踏みつぶされておしまいなのだ。
そんな感じで複数の大人たちにオロオロとしていると、一番ガタイが良く、巨大な斧を背負った黒ずくめが、声を張り上げる。
「ありったけのタオルをよこしな!!」
しわがれた声で周りの黒ずくめに指示を出したと同時に、1人の黒ずくめが持参してきた唐草模様の風呂敷を広げると、中から大量のバスタオルが姿を現した。
どうやら、おばばの産婆部隊が現着したのだ。
しかし、これは僕の父親にも言えることだが、この村の人間は家の出入口が窓だとでも思っているのだろうか。
仮にそうだったとしてもガラスを割って入ってくる必要はないはずである。
確かに一刻を争う状況とはいえ、人んちの窓ガラスを躊躇なくぶち割るというのはどういう了見なのだろうか。
「おらぁ!とっととタオル敷いちまいなぁ!!」
「はいぃぃぃ!!」
雷が落ちたかと思うほどの大声で指示を出すおばば。
黒ずくめたちは悲鳴のような、あるいは絶叫のような返事をして、慎重に母親の体の下にタオル敷き始めた。
そんなに大きい声を出したら母親の体、ひいてはこれから産まれてくる赤ん坊の体に響くだろうと思うのだが、そんなこともお構いなしなのか、怒号が飛び交っている。
お産は破水やら出血やら、場合によってはうんちやおしっこなど、あらゆる体液が出てくるので、防水や吸水対策をして、なるべく清潔に保つ必要があるらしいので、今は産婆部隊が総出でタオルを敷き詰めている。
出産はどこの世界、いつの時代も命がけなのだ。
「フーッ!フーッ!」
「まだいきむんじゃあないよ!タイミングってもんがあるからね!辛かったら深呼吸でもしときな!ヒッヒッフーってな!」
僕は、おばばが母親に寄り添って、指示を出している姿や忙しなく動く産婆部隊の姿を眺めていたのだが、ふと後ろを振り返ると、いつの間にか父親が立っていた。
なんだかポーっとした間抜けな表情をしたり、急にハッとして、汗をダラダラ流しながらアワアワしたりしている。
それを興味深く感じて観察し始めたのだが、じーっと見ている僕の視線に気が付いたのか、父親はちょっとだけばつの悪そうな顔を見せ、大人の余裕を見せつけているつもりなのか、若干引き攣った笑みを浮かべた後、腕を組み、キリッとした表情をした。
「あんたら、いつまでそこに突っ立ってるつもりだい!?邪魔だからとっとと出ていきな!」
忙しく変化する父親の表情を鑑賞していると、鼓膜が貫かれたかと思うほどの鋭い怒声が僕たちを襲った。
おばばに怒鳴りつけられて、腕を組んで格好をつけていた父親の体がビクンッ震えたのが、とても情けなく見えた。
僕は、どことなく小さくなった父親の背中を見ながら、部屋を後にしたのだった。
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