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二章
第27話 相手を怒らせるデバフ
しおりを挟む部屋を出た後、僕たちはアジト内を歩き回っていた。
武器を探すのも重要ではあるが、脱出までの経路も確保しておかないといけない。
しかし、アジトは迷路のようになっており、出口までたどり着けないでいた。
そんなわけで、こそこそと隠れ潜みながら、あてもなく歩いていた。
すると、曲がり角に差し掛かったところで、進行方向から足音が聞こえてきた。
「まずい……人が来たみたいだ……」
「どうしよう……」
「そこの木箱の裏に隠れよう……!」
僕たちは迫りくる足音から逃れるために通路に置いてあった木箱の裏に隠れた。
マジックミラーを使えば良いと思うが、全ての魔法は発動時に魔力の揺らぎが発生する。
足音を聞く限り、あと数秒でここに辿り着く程度の距離だ。
そのぐらいの距離であれば、ある程度魔法を使用できる者であれば、その揺らぎを感知できてしまうのだ。
相手のことがわからない以上、魔法を使うことができない。
盗賊という愚かそうな存在であっても僕は油断しないのだ。
ちなみに同じ理由で先ほどの部屋でも魔法が使用できなかった。
もっと魔法に精通していれば、発動時の魔力の揺らぎを隠蔽できるのだが、僕にはまだそんな技術はない。
今後妹たちを監視、もとい見守るためには必須の技能であるため、絶対に習得しようとは思っている。
そのため、今回も木箱の裏に隠れるというアナログな方法を取っているのである。
コツコツと固い靴底が地面を叩く音の合間にペタペタと裸足で歩いているような音が近づいてくる。
程なくして曲がり角からその足音の人物が姿を現した。
長身の盗賊と、その隣には鉄の鎖で繋がれた薄着の女性が歩いている。
おそらく、僕たちと同じように捕らえられた人なのだろう。
だが、僕たちに助ける余裕はないので、じっと息を潜めて通り過ぎるのを待つ。
時間がすごくゆっくりと進んでいるように感じる。
早く通り過ぎてほしいのだが、彼らの歩みが妙に緩慢であるかのように感じてしまう。
楽しい時間は短く感じるけど、苦痛に耐える時間は長く感じるみたいなやつだ。
ドキドキしながら通り過ぎるのを待つ。
そして、木箱の横に差し掛かった。
その瞬間――――
「お母さん!!」
アネットがそう言うが早いか僕は動き出していた。
脳が判断するより早く体が反応していたのだ。
なんだか周りの景色がゆっくりに見える。
ふふふ……遂に僕の真の力が発動したのかな……?
この能力をタイム・スロー・ザ・タイムと名付けよう。
タイムで閉じるのがポイントだ。
「……なんだ!?ぶへっ!!」
盗賊が慌てふためく中、僕は一か八か手に持っていた魔道具に魔力を流した。
更に、中に込められた魔法が何かわからないので、念の為盗賊の頭をその杖でぶん殴る。
しかし、盗賊は僕の動きに咄嗟に反応し、頭を庇うように腕でガードした。
すると、殴りつけられた衝撃で、盗賊の腕に付いていたバングルの宝石が壊れ、同時に杖も真っ二つに折れてしまった。ちくしょう!
攻撃を防がれ、盗賊はまだ倒れていない。
突然の奇襲に盗賊が狼狽えている間に次の一手を打たないといけない。
「くそっ!倒れないか……! アネット一旦撤退しよう!」
「待って!お母さんが……!」
「アネット!私のことはいいから逃げなさい!」
「でも……!」
アネットと母親が押し問答をしている。
くそう……
早くしないと盗賊が体勢を立て直してしまう。
こうなったら僕の覚醒した能力タイム・スロー・ザ・タイムをもう一度使って何とかするしかない!
おら!発動しろ!この!どうやったら発動するんだ!
……考えたくはないが、もしかすると火事場の馬鹿力的なやつだったのだろうか。
そんな気がしてきた。
どうしようどうしよう!
あわあわとこの状況を逃れる手を考える。
ここで捕まってしまえば、またあの牢屋にぶち込まれてしまう。
下手したら殺されるかもしれない。
どうにかしてこの盗賊を何とかしないと……
と、ふと違和感に気付く。
あれ?盗賊の反応がないな。
恐る恐る盗賊の様子を確認する。
「…………」
「あのー、どうしたの?」
「ニア!危ないよ!」
アネットが盗賊に話しかける僕を見て、慌てたように声をかけてくる。
盗賊は直立不動で立っており、その瞳は感情を無くしたように深淵に染まっていた。
「おーい!僕たち逃げちゃうけど良いかな……?」
もう一度声をかけてみる。
「もちろんです」
すると、盗賊はそんな言葉を口にした。
「え?どうなってるの?」
アネットもその盗賊の様子に困惑している。
「えーと……逃げてもいいってこと?」
「はい、それをあなたが望むのであれば」
思わぬ展開に唖然とする僕たち。
でも逃げてもいいって言っているのであれば、逃げさせてもらうことにしよう。
盗賊の中にも良い人がいるのかもしれない。
もしかしたら、脅されて従っているとかね。
ともかくこの盗賊の気が変わらない内にここを離れた方がいいな。
「アネットのお母さん……でいいんですよね? 僕はニアといいます」
「ええ、娘を助けてくれてありがとう。 私はコレットよ」
「とりあえず盗賊の人が逃げていいと言っているので逃げましょうか」
「え、ええ……そうね……」
コレットは盗賊の豹変ぶりに何か言いたそうな表情をしていたが、余計なことは言わない方が良いと思ったのか、早くこの場から離れた方がいいと判断したのかはわからないが、僕に同意してくれた。
「じゃあアネット、コレットさん行きましょうか」
「私はどうしたら良いでしょうか?」
この場を立ち去ろうとすると盗賊が声をかけてくる。
どういうことなんだろう。
心を入れ替えて僕たちの手助けをしてくれるつもりなのだろうか。
今日の僕は運が悪いので、こんなに僕にとって都合の良いことが起きるとは思えないのだけど……
盗賊から逃れることができた上に手助けをしてくれるなどそんなことあるのだろうか。
一応確認してみようか。確認するだけならタダだ。
とはいえ、気が変わって襲われる可能性もあるのではないだろうか。
相手から声をかけて来ているのに急に怒り出されても困るのだが、今までの経験からして、そういった理不尽な状況も否定しきれない。
僕はどうやら相手を怒らせてしまうデバフが掛けられているようなのだ。
まあ、なるべく相手を刺激しないように聞いてみよう。
「えーと、僕たちの手伝いをしてくれるの?」
「もちろんです」
……ほう、なかなか見どころのある盗賊じゃないか。
盗賊にしておくのが勿体ないほどだな。
そういうことであれば、存分に協力してもらうことにしよう。
「君は結構強いの?」
「はい、この盗賊団の中では五指に入るぐらいでしょうか」
「おお!すごいね!」
「ありがとうございます」
この盗賊は、なんだか感情の起伏がないが、僕が褒めると心なしか誇らしげな表情をしているように感じた。
僕が飛び掛かった瞬間は驚いたりしていたような気がしたが、今はその相貌にあまり感情の色が見えない。
とにかく何故だかはよくわからないが、かなり強い盗賊を味方にできてしまった。
となればやることは決まった!
まずは子どもたちを助けに行こう。
あの牢屋を見張っていたいやらしい顔の盗賊より、この長身の盗賊は確実に強いだろう。
さすがにあんなにいやらしい顔の奴が、五本の指に入っていることはないはずだ。
だが、夢は大きくだ。
僕は格好を付けてこう言い放った。
「――僕たちは今からこのアジトを制圧する!」
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