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二章
第30話 生粋のイエスマン
しおりを挟む「このアジトを制圧しようと思うんだよね」
「え!? そんなの無理だよ!!」
「……な、何を言い出して…………」
僕が恰好を付けながらそんなことを言うと、アネットは驚いて声を上げ、アネットの母親のコレットは囚われのこの状況で気が触れたのではないかと疑うような表情をしていた。
だが、これだけは言わせてほしい。
僕は決して気が触れているとかやけっぱちになっているとかそんなことはないのだ。
先ほど盗賊との戦闘で、僕と対峙していたその盗賊が何故か改心したようなのだ。
多分僕の圧倒的な強さに屈服したのだろう。
特にやっつけたという気はしなかったのだが、意外と良いところに当たったのかもしれない。
それか、あの効果のわからなかった魔道具のおかげで僕の力が上がっていたとか、そんなとこだろう。
しかし、僕たちの壮絶な戦闘によって魔道具も折れてしまったので、結局どんな効果があったのかわからずじまいだ。
魔道具が折れてしまったことは残念ではあるが、その結果、この盗賊団で五指に入る強さの盗賊を味方に付けることができたのは、怪我の功名と言える。
あの魔道具を持っているよりもこの盗賊が力になってくれる方が脱出の助けになるのは間違いないのだ。
でも一応、直せばまた使えるかもしれないので、杖は持っていこうと思う。
備えをしておいて悪いことはないはずだ。
僕と凄絶な戦闘を繰り広げた例の盗賊は、ジンという名前の男であり、その実力は盗賊団で五本の指に入るほどだという。
しかし、困ったことにとても無口で、こちらが話しかけなければ言葉を発することはなく、僕の言ったことを全肯定してしまうなど自分の考えをあまり持っておらず、意志薄弱なところがある。
一時的にではあるが、この僕を追い詰めたのだから、もっと自信を持っていいのに……
ちなみにこのアジトの構造はジン君に聞いて把握している。
現在地は地下二階であり、ボスや幹部、各部隊長クラスの盗賊がいる僕たちにとってはとても危険なエリアであるとのことだった。
「まあまあ、僕の気が触れたとかそんなんじゃないよ。 だって考えてもみてよ。このジン君はとっても強いんだよ?ね?ジン君?」
「はい」
「じゃあ君はこの盗賊団でどのくらい強いの?」
「はい、私はこの盗賊団で五本の指に入る実力があります」
「君だったらアジトの占領は簡単だよね?」
「もちろんです」
彼は生粋のイエスマンであり、聞かれたことには全て「はい」か「イエス」で答えるのだ。
「盗賊のアジトを占領なんて危険すぎるわ……! こんなの正気じゃないわよ! 助けてくれたのは感謝をしているけど、今の私はあなたたちの保護者よ! そんな考えには同意できないわ……!」
僕がこの盗賊団を占拠する完璧なプランを懇切丁寧に理路整然と説明してあげたのに、僕のことを狂人か何かを見るような目で見てくる。
「お、お母さん……でも、ニアは約束を守ってくれたよ……? 私を牢屋から出してお母さんに会わせてくれた…… 少しだけ信じてみてもいいんじゃないかな……?」
「ア、アネット……あなたとまた会えたことは奇跡だと思ってるわよ? 感謝もしきれないほどにしている……でも……」
「ま、まあ、そうだよね…… ニア、とりあえずアジトを占拠するのは置いといて他の子どもたちも助けに行く?」
「うーん……そうしようか」
僕は一ミリも納得はしていなかったが、とりあえず納得するフリをしておく。
そんな僕の様子を見てコレットが小さく息を吐く。
まあ、確かによく考えたら占拠する理由も意味もないんだけど、あれだけ高らかに宣言したのに、それを簡単に覆すのは、なんだか恥ずかしかったのだ。
僕は考えるより先に口に出してしまうタイプなのだ。
とにかく考えるまでもなく、今は子どもたちを助けるのが先決であると言えるだろう。もちろんアネットに言われるまでもなく分かっていたことだ。本当だ。
僕は状況に合わせて柔軟に対応することができる男なのだから。
「それじゃあ、急いで牢屋に戻ろう! ……ジン君先導してくれるかな?敵が出てきたら倒してね」
「御意」
相変わらず口数が少ない男である。
でも仕事のできる男感が漂っていてかっこいいかもしれない。
僕も今度真似してみよう。
そんなことを考えていると、当然目の前の扉が開いた。
「んあ?なんだ?……ジンか。そいつらどうし――」
その瞬間、ズパンと何か弾力のある物を断ち切ったような音が鳴ったかと思うと、ジン君が剣を振り抜いた姿勢で静止していた。
「きゃあ!!」
「いったい何が…!!」
アネットは急な展開に小さく悲鳴を上げ、コレットは動揺した様子を見せながら、娘を庇うように抱き寄せる。
すると、扉から出てきた盗賊の首がずり落ちた。
「ひっ…!!」
一瞬の間を開けて、ジン君以外の全員が息を呑む。
コレットは咄嗟にアネットを自身の方に向かせて顔を覆うように抱きしめる。
アネットは母親の体にしがみつき震えている。
声を上げずに堪えたのだろう。
偉いぞ僕のアネット……ふふふ……どうせなら僕に抱き着いてみない……?
いきなり起きた惨劇に現実逃避を始める僕の頭。
確かに倒してとは言ったけど、こんなスプラッター誰も望んではいないだろう。
どこの世界に出合い頭に首を切り落とす奴がいるんだ。
いや、前向きに考えよう。
僕たちはまだ生きているんだ。これで良かったんだ。
その惨劇を引き起こしたジン君はというと、なんだか褒めて欲しそうに僕の方を見ている。
うーん…… まあ僕のお願いは聞いてくれたんだし、とりあえず褒めてあげようかな。
でも今後こんなグロテスクな光景は絶対に見たくないので、気を付けるように言い含めておくべきだな。
「ジン君ご苦労様。君のおかげで僕たちはまだ生きている。ありがとう。 でも次は首を切り落とすのは止めてほしいかなって思うんだ。 僕たち、人が解体されている姿をあんまり見たことがないからびっくりしちゃってさ……?」
「……っ! 全力で命令を遂行します……!」
僕に褒められて、ジン君は気分が高揚しているように見える。
やる気があるのは良いことだが、全力を出したらもっと酷いことになるのではないのかと、内心戦々恐々とするが、一先ずは分かってくれたと信じようと思う。
だけど、この死体は……どうしよう。
このまま置いておこうかとも思ったのだが、これが発見されたときに騒ぎになってしまうと脱出する際の足枷になってしまうのではないだろうか。
せめて牢屋に捕らえられている子どもたちを救出するまでは、隠密行動をしたいところではある。
そう思った僕はおもむろに切り落とされた首を拾い上げる。
光を失った瞳が何かを訴えているように感じる。
う、うぅ、おええええええええぇぇ!!
き、気持ち悪い……
喉までせり上がってきた胃の内容物を押し戻そうと必死に嚥下する。
出来るだけ見ないようにしながら、壁にもたれかかるように座っている体に慎重に頭を乗せる。
よし、もう見たくないし、とりあえずこれでいいや……
血はドクドクと流れてはいるが、遠目に見れば疲れて寝ているようにも見えるから大丈夫だろう。
なんで僕はこんなことをしたんだろうか。
本当にやめておけば良かった。
コレットは何も言わずに、気味が悪い物を見るような目で僕の行動を見ている。
「こ、これは偽装工作だよ。 僕たちが脱出するときに騒ぎが起きたら困るでしょ?ね?」
「そ、そう……だったら死体を隠す方がいいんじゃないかしら……?」
「い、今牢屋では僕の友だちが必死に盗賊を止めているはずなんだ! 早くいかないと!」
「……え、ええ。そうね、早く行きましょう」
捲し立てるように弁明する僕に、何か言いたそうにしていたコレットだが、子どもたちを助けることに考えを切り替えたようだった。
確かに言われてみれば、死体を隠すという考えもあったかもしれないが、僕は考えるより先に行動するタイプなのだ。
それに首を戻した方が早いだろう。軽いんだから。
「じゃあジン君、牢屋までお願いするよ。 盗賊を見てもいきなり首はダメだよ?」
「御意……!」
ジン君のやる気に満ちた様子がなんだか不安だが、とにかくトーマスたちを助けに行かないといけない。
それなりに時間が経過してしまったため、既にトーマスはその儚い人生に幕を閉じてしまっているかもしれないが、せめて死体だけでも弔ってあげないとね。
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