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四章
第50話 復讐のための下ごしらえ
しおりを挟む試験前日、日が落ちてから僕は再びダンジョンに来ていた。
時刻は18時過ぎぐらいだろうか。ちょうど人が少なくなる時間帯だ。
とはいえ、夜でもダンジョンに訪れる人はいる。
ダンジョンに入れば昼だろうが夜だろうが関係ないからなのだろうか。
僕にはわからないが、多分そういうことなのだ。
僕がここに来た理由は、明日の試験でアーサーを亡き者にするための仕込みをするためである。
……亡き者とは言うが、本当は人を殺害する勇気などないので、フランちゃんの前で情けない姿を晒せばいいなと思っている。
そして、颯爽と現れた僕が、間一髪のところでフランちゃんを救うのだ。
そうすれば、アーサーにかけられた洗脳も解けるはずだ。
なので、僕はティーナに買わせた物資をリュックいっぱいに詰めて来ていた。
まあ言ってしまえば爆弾だ。
死んでしまうのではないかという心配はちょっとはあるが、爆弾ぐらいだったらアーサーならしぶとく生き残るだろう。
死んでしまったのだとしたら、普段の鍛錬を怠ったアーサーが悪いのだ。
僕の作戦としては爆発による落石により上手くフランちゃんとアーサーを分断するのだ。
そして孤立したフランちゃんを僕が颯爽と助けるのである。
そんなに上手くいくのかと疑問に思うかもしれないが、とりあえず山ほど仕掛けておけばそんな状況も作りやすいだろう。
作戦なんてものは、どれだけ綿密に計画したとしても結局それを実行するのは人間なのだから、予定通りに進むことなど滅多にないのである。
多少ファジーな方が上手くいくと僕は思うのだ。
そのために僕は今ダンジョンに来ているのだ。
しかし、ゲートを通過できるのは冒険者証を持つ者か、パーティを組んだ学園の生徒だけだ。
僕は学園の生徒ではあるが、今は一人で来ているので、通常の方法で入場することはできない。
どうしようかと頭を悩ませていると、冒険者の集団が現れた。
スキンヘッドの筋骨隆々なおじさんと平凡な見た目な男、気の強そうな露出が多めの女の三人パーティだった。
「なんで夜にダンジョンなんてこないといけねぇんだよ……?」
「だから何度も言っているじゃないか。 ギルマスからの依頼だって……」
スキンヘッドの男の疑問に、平凡な見た目の男が呆れたように答える。
「それにしたって夜に来る必要なんてあるのかよ……?」
「……お前、本当に依頼の内容聞いていたのか……? 夜の時間帯に調査対象の発見報告があったからだよ……」
どうやらスキンヘッドの男はその見た目通り、知能が低いみたいだ。
「ちょっと! あんまり大きな声で依頼内容喋らないでよね! 他の人に聞かれるでしょ!?」
「なんだよ……。 別にいいじゃねぇかよ…… こんな時間に人なんてほとんどいねぇんだからよ?」
「他に人がいないから、あんたたちのでかい声が響くのよ!」
「まあまあ、二人とも落ち着けって…… さっさと済ませるぞ」
その会話を聞いて、冒険者も色々大変なんだなぁとボーっと考えていると、その冒険者たちがゲートに向かっていく。
そこで、僕は天啓が下りてきた。
――僕もこの人たちについていけばいいのではないだろうか。
彼らが通過するときにピッタリと後ろについていけば、一緒に通れるのではないだろうか。
前世ではお金がないときに、知らないおじさんの後ろに張り付くようにして、よく駅の改札を通ったものだ。懐かしいなぁ……。
スキンヘッドのオヤジが一番後ろなので、彼についていけばいいだろう。
幸い知能が低そうなので、怪しまれたとしてもごまかせるだろう。
スキンヘッドオヤジがゲートに冒険者証をかざそうとするのを見て、すかさず後ろに並ぶ。
「……ん? なんだ、お前……?」
ちっ……!勘の良い奴だ。
僕が背後に立ったのを気配で察知したのだろう。
「お気になさらず……」
相手は間抜けそうな見た目をしているので、ごまかせるだろう。
手で先に進むことを促す。
「お前、冒険者か……?にしては小せぇなりをしてやがるが……」
「お気になさらず……」
「まあ、いいか。 素性を詮索するのはマナー違反だしな」
勝手に自分で納得すると、前に向き直り、再び冒険者証をかざす。
よし、上手くいったぞ。
おっさんの後ろに張り付き、汗臭い体臭を感じながら、ゲートを通過する。
「……ん?」
ゲートを通過した後、スキンヘッドオヤジが振り返り、訝しげな視線をこちらに向ける。
「………………」
スキンヘッドオヤジと目が合う。
ドキッ……。バレたか……?
何故こんなおっさんと見つめ合わなければならないのか。
とりあえず何か言った方がいいだろうか……。
「お気になさらず……」
僕が声をかけると、先に入場していた気の強そうな女のヒステリックな声が聞こえてきた。
「何やってるのよ! 早くして! 夜更かしはお肌に悪いんだから!」
「……わぁってるよ!今行くから待ってやがれ!」
声をかけられたスキンヘッドオヤジは、腑に落ちないといった表情をしながら立ち去って行った。
やっぱり間抜けそうなオヤジは間抜けなオヤジだった。
僕の見立ては間違っていなかったようだ。
*
冒険者たちと離れた後、爆発の魔法石を仕掛けて歩いていると、前に歩く人影を見つけた。
なんだか見覚えのある人影だなぁ。
ローブで全身を覆っているので、分からないのだが、何となく小柄な体型が先日ダンジョンで迷ったときに助けてくれた冒険者の姿が重なる。
その人物は、周りをキョロキョロと警戒して怪しい動きをしている。
ダンジョンなのだから警戒するのは当たり前なのだが、前に会ったときも怪しいことをしていたので、その印象が残っているからだろうか、とても怪しく見える。
もしかしてだけど、僕と目的が一緒なのではないだろうか。
試験前日に怪しい動きをしているのは、誰かに復讐をするためとか。
僕と同じぐらいの年齢だし、学園の生徒だとしても不思議ではない。
目的が一緒なら協力し合えるかもしれないし、声をかけてみようかな。
そんなことを考えて、爆弾を仕掛けながらストーキングをしていると、四階層まで来てしまっていた。
「誰にも見られていないっすね……」
辺りを気にしていたその人物は急に曲がり角に駆けて行った。
怪しい!!怪しすぎる!!
僕もローブの人が走って行く先に走って向かう。
「あれ? 行き止まりだ……」
確かに曲がり角を曲がっていったはずなのだが、忽然と姿を消していた。
うーん。おかしい……。
あんなに怪しい行動をしていたのだ。
絶対何か秘密があるに違いない。
ちょっと調べてみようか。
――数十分調べて見た結果、何にも見つけることはできなかった。
なんだか疲れてしまったので、近くの壁に寄りかかり休憩を取ろうとする。
「よっこらしょ…………うわっ!」
壁に体重をかけると、ガコンと音がして僕が寄りかかっていたはずの壁が消失し、後ろ向きに転がってしまう。
「うげっ! いてて……」
強かに打ち付けた後頭部を撫で付ける。
うーん……。多分だけど僕がいたであろう通路への壁が忍者屋敷の壁のようにグルンと回ったのだと思う。
ダンジョンの四階層にこんな隠し通路があったなんて驚きだ。
なんだかワクワクしてきた。
この先はどこに繋がっているのだろう。
もしかしたら、宝物庫とかだったりして……。
下に長い階段が続いており、先の方は暗くて見えない。
今日も例の如く、灯りは持ってきていないが、暗視の魔法薬を飲んできているので、比較的周りは見えているのだが、それでも先が見えないほどに下に続いているようだった。
「なんだか緊張してきた……」
何度も階段を折り返して進んでいく。
やがて一番下まで辿り着くが、先には壁があるだけで行き止まりになっていた。
「入ってきたときと同じように回転扉になっているのかな」
調べてみると思った通りガコンという音と共に壁がグルンと回る。
回転扉の先も今までと同じような景色が広がっていた。ここがどこなのかは分からないが、少なくとも宝物庫ではなさそうだ。
考えないようにしていたことなのだが、一つ不安に思っていることがある。
結構下まで降りてきたのだが、ここは四階層と思っていていいのだろうか。
恐らくだけどハイキング感覚で来るような階層ではないような気がする。
隠し通路を見つけた時の心臓の高鳴りとは別の意味でドキドキしてきた。
僕は生きて帰れるのだろうか……。
まあ、危なくなったらこの隠し通路に戻ってくればいいのだ。少し探検してみよう。
しばらく歩いていると、先ほどの小柄のローブの人がいた。
この間と同じ黒いぼろ布を纏った人を鞭みたいなやつで叩いていた。
ここは以前に僕が迷い込んだ場所なんだろうか。
だとしたら、あのぼろ布の人はずっとここに閉じ込められて、虐待を受けていたのだろうか。
まあ確かに暴力的な人だが、この世界の人間は基本的に暴力的なのだ。
これが普通のことなのだろう。
この前も迷っている僕を助けてくれたのだ。
この世界の基準からしたら案外良い人に分類されるのではないのだろうか。
ちょっと声をかけてみようかな。
「やあ、奇遇だね。 今日も良い感じに痛めつけてるね」
「……っ! あんた……またっすか……!」
「それで、上手くいってるのかな?」
「う、上手く……?」
「んと、まあ……君の計画…………?」
彼女がぼろ布の人を虐待している意味は分からないが、試験の前日にこんなところでこそこそしているのだ。
僕の予想ではこの子も学園の生徒で、僕と同じような理由でここに居るのではないだろうか。多分きっと何かを企んでいるに違いないのだ。
「なんで計画のこと知ってるっすか……? 自分が考えた計画っす。他に知っている人はいないはずっす……」
「え……? まあ…………学園の試験……だよね…………?」
「……っ! いや、まさか…… でも、この場所を知っているってことは……」
何やら、ブツブツと独り言を言って考え込んでしまった。
ちょっと自信はなかったので、ぼそぼそと声が小さくなってしまったが、僕の言っていることは間違っていないはずだ。
「それで……その……計画は順調なの?」
「…………あんた、もしかして自分の監視役ってやつっすか……?」
監視役ってのはどういうことだろう。
言うなれば、復讐という目的を同じくする同志だ。
まあ、僕の目的の方が若干崇高ではあるのでそこは分かってもらう必要がある。
「監視役……? 僕は君と同じ目的を持っている仲間だよ。 まあ、もしかしたら、より高い所にいるかもしれないけど……」
「……なっ!? まさか…… 先日の失敗を上層部に……」
またブツブツと独り言を始めてしまった。
この子はちょっと暗い子なのかもしれない。
「まあ、とりあえず協力していこうよ!」
「……はいっす……! 自分、頑張るっす……!」
なんだかやる気になった様子のローブの人を見て、僕は満足気に頷く。
一人よりも二人の方が、何事も上手く進むと僕は思うのだ。
「とりあえず名前を教えてよ。 僕はニアって言うんだ!」
「自分はミザリーっす。 よろしくお願いするっす!」
思いがけず協力者を得られた僕は、アーサーへ復讐するための計画を企てるのだった。
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