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四章
第49話 ダンジョンアタック!
しおりを挟む日曜日、僕たちは下見のためにダンジョンに来ていた。
ダンジョンは王都から馬車で30分ほどのところにある。
朝っぱらからこんな陰気な場所に入るのはとても気が滅入るが、これも試験のためだ。
試験の達成条件はパーティの人数分の魔物を討伐証明部位を千切って持ってこないといけない。
危険度Dの魔物というと、生徒の実力にもよるが、一人で倒せるか倒せないぐらいかの強さで、小鬼や骨人のようなやつが分類される。
なので最低でも三人一組のパーティを組めということらしい。
小鬼みたいな肉付きのやつを殺すのは、ちょっと抵抗があるので、僕としては骨人を狙いたいところだ。
骨人なら生き物を殺める抵抗感も少ない。物を壊すみたいなものだ。
というわけであまり緊張感もなくダンジョンに来ている。
「ちょっと緊張しますわ……」
「ダンジョンの内部では何が起こるかわからないから注意しないとね! ……ね!お兄ちゃん?」
「そうだぜ、毎度毎度トラブル起こしやがって巻き込まれるこっちの身にもなれってんだ……」
ダンの呆れ顔を見ているとどうしても怒りが込み上げてしまう。
僕だって巻き込まれた側なのだ。
僕が引き起こしているという勘違いを正してやる!
「ちくしょう!! お前だけはここで亡き者にしてやる……!!」
ダンに掴み掛るが、首根っこをむんずと掴まれて宙吊りにされる。
くそう!!なんでこんな奴に適当にあしらわれないといけないんだ!!
ダンへ罵詈雑言をぶつけながら、宙吊りにされていることを良いことに四肢を振り回しダンへの攻撃を試みるが、あまり効いていない。
涙が溢れてくる。ちくしょう……。
「落ち着いてくださいまし!ニアさん!」
ティーナが僕を諫める。
ダンの奴が憎たらしい顔をしているのが悪いのだ。僕は悪くないはずだ。
「お兄ちゃん、はい」
ユーリが手を出してくる。
お駄賃でも欲しいのだろうか。
僕には悲しいことに弟にあげれるお金は持っていないのだ。
「僕には君にあげられるものはないんだ……不甲斐ないお兄ちゃんでごめん……」
「何言ってるの? お兄ちゃんが迷子にならないように手を繋ぐんだよ」
「………………」
そう言うと僕の手を取って手を繋ぎ始めた。
僕の信用はどうなっているのだろう。怒るより悲しくなってきたよ。
というか、片手を塞いでいたら戦えないのではないのだろうか。
「に、ニアさん、ワタクシもお友だちなので、し、失礼しますわ……!」
すると、照れたように頬を染めて、僕の手をギュッと握ってくる。
僕は捕獲された宇宙人ではないのだ。
というか両手を塞がれていたら、いよいよ魔法の一つも使えなのだが、これでは戦力外というより、お荷物でしかない。
「なんだかお前に殺意が湧いてくるぜ…… 一発殴っていいか?」
疑問文であったはずだが、僕の許可を待たずにゴチンと頭を殴られる。
僕が気に入らないときは自分の中で苛立ちを消化するしかないのに、立場が逆になると、一方的に暴力の制裁を加えられるのは如何なものか。
僕たちはダンジョンに入る手続きをするために近くの女性の係員に声をかける。
「……ふふ…… 魔法学園の学生ですね。4名様でよろしいでしょうか。」
「よろしくお願いしますわ!!」
なんだか生暖かい目で見られているが、僕だって不本意なのだ。
何故僕が子どものように扱われなければいけないのだ。
ダンジョンに入るためには魔法的に施錠されたゲートがあり、冒険者は冒険者証をかざせば入れるのだが、僕たちは持っていないので、係員に声をかける必要があった。
両サイドをがっちり固められ、ダンジョンの中に連行されていく。
ダンジョンの中はただの洞窟のような場所で、ダンジョンの壁には光る苔のようなものが壁にこびり付いており、薄っすらと辺りを照らしている。
ジメジメした暗い場所で何となく気味が悪い。
このダンジョンは未踏破のダンジョンで最大到達階層は二十二階らしい。
頻繁に冒険者の出入りがあるからだろうか、低階層は魔物が少なくほとんど見かけない。危険度Dの魔物は二階層から出てくるらしい。
たまに現れる魔物も危険度Eのネズミぐらいのものであり、こちらが危害を加えない限り襲い掛かってこないため、特にトラブルもなく進めた。
***
「ブオオオオォォォオオオオオオ!!」
「んぎゃあああぁぁぁぁああああああ!! 死ぬううううぅぅぅうううう!!」
迷った……完全にはぐれてしまった。
二人に手を繋がれて連行されていたのではないのか。
何故こんなことになるのだろう。
僕は悪くないはずだ。僕の意思で手を離すことはできなかったのだから。
その結果、今僕は凶悪な顔をした二足歩行の牛に襲われていた。
僕たちは順調に二階層を進んでいたのだ。
基本的にはダンが戦闘で肉弾戦を繰り広げ、ユーリとティーナは後ろから魔法で援護するという形で問題なく進んでいたはずだった。
ちなみに僕は置物だった。
なので、ここは二階層ということで間違いはないはずなのだけど、歩いている魔物の種類がなんだか雰囲気が違う気がする。
具体的には二階層に比べて凶悪そうな顔をしているのだ。
僕は戦闘が苦手なので、基本的に気配を消して進み、見つかったら逃げるというのを繰り返して何度か階段を上っていたのだが、全然出口に辿り着けないのだ。
というか僕は二階層にいるのではないのか。
二階層にいるのであれば、階段を一度上がれば出口まで行けるはずだ。
僕はダンジョンの瘴気にあたりすぎて幻を見ているのだろうか。
決して僕が正気を失っているということではないはずだ。
その上、運が悪いことに他の冒険者の姿もしばらく見かけていない。
どうしてこんなことになるのだ。
そんな風にぼやいていても、この目の血走った牛の魔物は待ってはくれない。
僕を八つ裂きにしようと右手に持つ大斧を狂ったように振り回している。
とにかく今はこいつを何とかしないと僕の心の平穏は訪れない。
走りながら魔力を練り上げ、目の前の曲がり角を曲がった直後に魔法を発動させる。
すると、少し遅れて牛の魔物が曲がり角を曲がってきた。
「ブオオォォ…………?」
首を傾げる牛の魔物。
僕は曲がり角で姿を消した後に壁に張り付き、僕のオリジナル魔法であるマジックミラーを目の前に設置したのだ。
ひいいいぃぃぃ!
マジックミラー越しに牛魔物の恐ろしい顔が目と鼻の先に来る。
しかし、僕の存在に気付くことなく牛の魔物は去っていった。
こんなことを繰り返しているとその内ぽっくりと死んでしまうのではないのだろうか。
敵に見つかる可能性があるので、明かりをつけることもできずに暗闇を彷徨っていたのだが、命の危険を感じるほど恐ろしい顔をした魔物がウヨウヨしている。
本当に出口はあるのだろうかと心が折れかけていたとき、進む先に人影を見つけた。
やったぞ!僕は遂に帰れるかもしれない!
僕は久方ぶりに見た人の姿に安堵するが、逸る気持ちを一旦抑え込む。
相手がどんな人物かも分からないのだ。慎重になるに越したことはない。
ちょっと観察してみよう。
「うーん…… 流石にこのレベルになると大変っすねぇ……」
何をしているんだろう……。
小柄なローブの人が、黒いぼろ布を纏った人を鎖の魔法で縛り付けて、鞭で痛めつけている。小柄な人は声の感じだと女の人だろうか。
なんだか怪しい人みたいに見えるけど、人を見た目で判断してはいけないよね。
裏路地での取引を思い出すのだ。堂々としていれば物事というのは良い方向に進むものだ。
「やあ、君はこんなところで何をしているのかな?」
「……っ!? 何者っすか!?」
なんだか警戒しているみたいなので、少し安心させてあげよう。
「僕は敵じゃないよ。 ちょっと道に迷っちゃったんだよね」
「……こんなところに冒険者がいるわけがないっす。怪しいっす……」
ダンジョンなんだから冒険者がいないということはないけど、どういうことなんだろう。
「……だったらこんなところにいる君は“冒険者”……じゃないってこと?」
「……っ! ぼ、冒険者に決まってるっす!」
やっぱり冒険者がいないというのは嘘じゃないか。
ふふ……僕に知恵比べで上回ろうとしても無駄さ。
しかし、まだ警戒されているみたいだ。
あの黒い人の虐待現場を見られたことを気にしているのだろうか。
「……ふふふ……それを見られたのが、気になるんだろう?」
「……っ! だとしたらどうするつもりっすか……?」
警戒するように鞭を構える小柄な人。
なんだか更に怪しまれた気がするのだけど、僕は外に出たいだけなのだ。
しかし、どうしよう。攻撃なんかされたときには僕みたいなもんは一溜まりもない。
できるだけ寄り添ってあげる必要がある。
「いや、それは僕も昔に経験があるんだけど、もっと苛烈に痛めつけるといいよ。 死にそうになると眠っている力が覚醒するんだよ」
これは本当だ。
昔に父親から受けた剣術の指導という名の虐待に耐え忍んだ経験もあるし、死にそうになると火事場の馬鹿力という名のタイム・スロー・ザ・タイムが発動するのだ。
「……あんた……何を企んでいるっすか……?」
僕が企んでいることは、さっき言った通りダンジョンの出口まで案内してもらうことだ。
「……ふふふ……分かるだろう……?」
「………………」
なんだか品定めをするような視線で僕を見てくるので、不敵な笑みを浮かべておこう。
ふふふ……君と僕は対等の存在なんだよ。
君は僕を虐げてはいけないよ。……どうかお願いします……!
「まあ、君は何も気にしないで、僕を外までエスコートしてくれればいいよ」
「………………それだけなら、いいっすよ……」
「ほんと?ありがとう!」
道中は特に会話もなく、魔物が出てきたらローブの人が倒していった。
しかし、あの黒いぼろ布を纏った人は置いてきて良かったのだろうか……。
ちょっと心配である。
もしかして、僕がもっと痛めつけると良いと言ったことを真に受けているのだろうか。
そんなことを考えているとダンジョンの出口まで来ていた。
ローブの人はまたダンジョンに戻るのか引き返して行ったので、お礼を言っておく。
「案内ありがとう!またね!」
「……っ! ……もう行くっす……」
最後まで警戒はしていたようだけど、外に出ることはできたので良しとしよう。
声の感じだと同年代のようだし、また会ったら仲良くなれるかもしれない。
ダンジョンから出ると空は茜色に染まっていた。
とりあえず早く戻らないとユーリたちが心配しているかもしれない。
*
僕が寮の部屋に戻るとユーリとティーナがソファで寛いでいた。
ダンは疲れたのかベッドで大いびきをかいていた。
なんだか僕がいなくなったことを誰も気に留めていないようだった。
すると、ユーリが帰ってきた僕に気が付き、声をかけてくる。
「あれ、お兄ちゃん……?」
「ダンジョンに置いてけぼりにされたんだけど……」
「…………………………え?」
「…………ニアさんはワタクシたちと手を……」
ユーリとティーナは自分の隣を見る。
僕もそれに釣られて二人の視線先を追う。
「……カタカタカタ」
そこにはユーリとティーナにがっちりと手を繋がれた骨人の姿があった。
一瞬の静寂が部屋の中を支配する。
「………………………………い…………いやあああぁぁぁああああああ!!」
半狂乱になった二人の悲鳴が木霊する。
一体どこですり替わったのだろうか……
というかここに来るまでに誰一人として気が付かなかったというのが信じられない……。
僕はそんなにも存在感がないのか、それとも僕はあの骨と同等の存在であるということなのか。
いや、やめよう……。考えていると悲しくなってくる……。
「ファイアーボールファイアーボールファイアーボール!!」
「ウインドカッターウインドカッターウインドカッター!!」
ドカンバコンバリン!
家具が宙に舞い、ガラスが弾け飛び、部屋の中はまるで戦場のような凄惨な状態となっていた。
ユーリとティーナが骨人と死闘を繰り広げ、ダンはその隣で大いびきをかく。
そんな様子をボーっと見ていると、ドッと疲れが押し寄せてきた。
君たち片付けはしてくれるんだよね……?
まあいいや……今日はもう寝よう……。
背後で魔法が飛び交う音をBGMに僕はベッドに潜り込むのだった。
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