妹転生!~妹への愛が止まらないのに、何故か僕には妹がいない~

百円玉

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五章

第75話 王都に忍び寄る不穏な影

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 昨日の夜はダンという少年の大いびきで全然寝られなかった。
 だが、人と一緒に寝たのはいつぶりだっただろうか。
 彼らと会ってから余計なことを考える時間が多くなった。

 大会など正直面倒だ。
 
 邪神攻略への糸口を見つけるには、彼らの近くにいることが最適あることは確かだが、何も方法はそれだけではない。

 もうバックレてしまおうかと考えたが、胸がチクリと痛む。
 この痛みは何なのか。
 自分はおかしくなってしまったのか。

 もう十分だ。このまま彼らと共に行動すれば、余計な思考に囚われることになる。
 そう決意して立ち去ろうとしたのだが、部屋の扉が開け放たれた。

「お兄ちゃん! 大会行くよ!」

 ユーリという少女が部屋に入ってきた。
 鍵は閉まっていたと思うが、合鍵でも持っているのだろうか。

「いや、僕は……」

「ほーら! 早く準備して! ……ってまたその恰好なの……?」

「だから僕は……」

「ダン君! いつまで寝てるの!? 置いてくよ!?」

「ん、んあ? もうちょっとだけ……」

「……もう!遅れちゃうでしょ!」

 ニアリーはユーリという少女の勢いに押されて、反論することもできず、部屋を出た。





 ――本当に騒がしい奴らだ。

 ユーリという少女は兄のことが余程心配なのだろう。

 だが、信頼のみの関係性は必ず破綻する。

 ニアリーには家族はいないが、たとえ血縁関係があったとしても極論、異なる人間であり、言ってしまえば他人なのだ。
 完全には分かり合えないし、ほんの些細なきっかけで、その関係性はあっけなく崩れ去る。

 だからこそ、不思議だった。
 他人に対してここまで執着できるものなのか。
 妄信した挙句、裏切られることを恐れないのだろうかと。

 いや、知らないだけなのだ。

 ニアリーは知っている。
 お人好しが生きていけるような綺麗な世界ではないことを。
 今だってそうだ。
 ニアリーを兄と勘違いして、最後には裏切られるのだから。

 では、裏切られないためには何が必要か。
 力だ。他者に害されないほどの力があれば良い。
 裏切れば死が待っていることを理解させるのだ。
 ニアリーにとって信頼関係とは、力による支配だった。

 過去に教団の中にもニアリーに優しく接してくれた人がいた。
 彼にとって姉のような存在だった。

 しかし、彼女はもうこの世にはいない。

 ある時、ニアリーの強大な力に目を付けた教団の過激派に彼女は利用された。
 過激派は古代の技術により、優秀な人間のクローンを作り出し、意のままに操ることを目論んでいた。
 ニアリーは彼女に連れられた研究施設で拘束された。
 流石に何かおかしいと感じたニアリーは暴れ回った。

 ニアリーが暴れている間、彼女は泣いていたように思う。
 なんで言うことを聞いてくれないの、とか。
 あなたしかできないことなの、とか。
 当時は彼女が泣いていた理由も彼女が言っていたこともよく分からなかったが、今考えると、彼女にも何か事情があったように思う。
 過激派の連中に何かを吹き込まれたか、脅されていたのかわからないが、いずれにせよ利用されていたのだろう。

 結果、利用価値がなくなった途端に彼女は殺された。
 彼女が生かされていたのはニアリーの制御装置になり得ると判断されていたためだ。
 それができないとなれば、彼女は用済みである。
 その後の彼女の役目は、始末されることのみだ。

 彼女が殺される最後の瞬間をニアリーは未だに忘れていない。

 ――お前のせいだ、と。

 彼女の瞳は怨嗟に満ちていた。

 そこでニアリーは、自分が裏切られたことを知った。
 だが、だからといって彼女を恨んでいるわけではない。
 既に死んでしまっているということもあるが、多分仕方なかったのだと思う。
 彼女が死んだのは彼女が弱かったからだ。
 弱いから付け込まれるし、死の間際に抵抗することもできない。

 結局のところ人間は、どれだけ心の距離が近くなったとしても、きっかけさえあれば平気で他者を裏切るのだ。

 だからこそ信頼関係などあやふやなものに、ニアリーは惑わされない。
 力による支配こそが、生き抜くすべなのだ。

 ニアリーは過去の出来事からそれを学んだ。

 だけど、だからこそニアリーは思うのだ。
 この目の前の対戦相手には一撃で気を失ってもらおうと。
 ユーリが泣いてしまわないように。

 どうせ邪神を手中に収めるために、ユーリを裏切ることになるのだ。
 抵抗するようなら、最悪の場合、殺してしまうかもしれない。
 この過酷な世界で生きるには、力が必要なのだ。
 力が全てであり、力が無ければ奪われる。そんな世界だ。


 せめて、その時までは――

 彼らとのごっこ遊びに付き合ってやっても良い――









 深夜――
 日付が変わろうという時間帯――

 王都は祭りの真っ最中であり、夜遅くまで賑わっていた。

 そんな中、王都上空を飛び回る未確認飛行物体が目撃された。

 常軌を逸した速度で不規則に飛び回る物体。
 同時に複数の物体を見たとの目撃情報もあり、それら一つ一つが赤く光り輝き、まるで目玉が飛んでいるかのようだったと。

 祭りで浮かれていたこともあったのだろう。
 それを目撃した者は、悪魔の使者だとか、厄災の前触れだとかそんな根拠のない噂で盛り上がる。
 現在は、一年に一度の祭りの真っ最中であり、そんな与太話すら酒の肴になる。

 こういったオカルト染みた騒ぎなど、祭りの時期には腐るほどある。
 今回も祭りが終わるに従い、その熱も徐々に収まるだろう。
 誰もがそう思った。

「本当に見たんだって!」

 冒険者の男が騒ぐ。

「ハハハ! それでおめぇ、そのモンスターだかなんだかわかんねぇもんにビビっちまったってのかよ!傑作だな!」

「怖くてママのおっぱいが恋しくなっちゃいまちたかぁ~? ギャハハハ!」

 怯えた様子の冒険者の男を周りが囃し立てる。

「お前ら……くそっ!馬鹿にしやがって! 後で泣いても知らねぇぞ!!」

 馬鹿にされた冒険者の男は怒りを露わにして怒鳴りつける。

「そりゃあいい! 是非とも泣いてみたいもんだな! ガハハハハハ!」

 それを面白がる周りの男たち。

 そんな騒がしくて楽しい時間の裏で、静かに、そして確実に、運命の歯車が音もなく狂い始めていたことに、彼らはまだ気付いていなかった。

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