75 / 77
五章
第75話 王都に忍び寄る不穏な影
しおりを挟む昨日の夜はダンという少年の大いびきで全然寝られなかった。
だが、人と一緒に寝たのはいつぶりだっただろうか。
彼らと会ってから余計なことを考える時間が多くなった。
大会など正直面倒だ。
邪神攻略への糸口を見つけるには、彼らの近くにいることが最適あることは確かだが、何も方法はそれだけではない。
もうバックレてしまおうかと考えたが、胸がチクリと痛む。
この痛みは何なのか。
自分はおかしくなってしまったのか。
もう十分だ。このまま彼らと共に行動すれば、余計な思考に囚われることになる。
そう決意して立ち去ろうとしたのだが、部屋の扉が開け放たれた。
「お兄ちゃん! 大会行くよ!」
ユーリという少女が部屋に入ってきた。
鍵は閉まっていたと思うが、合鍵でも持っているのだろうか。
「いや、僕は……」
「ほーら! 早く準備して! ……ってまたその恰好なの……?」
「だから僕は……」
「ダン君! いつまで寝てるの!? 置いてくよ!?」
「ん、んあ? もうちょっとだけ……」
「……もう!遅れちゃうでしょ!」
ニアリーはユーリという少女の勢いに押されて、反論することもできず、部屋を出た。
*
――本当に騒がしい奴らだ。
ユーリという少女は兄のことが余程心配なのだろう。
だが、信頼のみの関係性は必ず破綻する。
ニアリーには家族はいないが、たとえ血縁関係があったとしても極論、異なる人間であり、言ってしまえば他人なのだ。
完全には分かり合えないし、ほんの些細なきっかけで、その関係性はあっけなく崩れ去る。
だからこそ、不思議だった。
他人に対してここまで執着できるものなのか。
妄信した挙句、裏切られることを恐れないのだろうかと。
いや、知らないだけなのだ。
ニアリーは知っている。
お人好しが生きていけるような綺麗な世界ではないことを。
今だってそうだ。
ニアリーを兄と勘違いして、最後には裏切られるのだから。
では、裏切られないためには何が必要か。
力だ。他者に害されないほどの力があれば良い。
裏切れば死が待っていることを理解させるのだ。
ニアリーにとって信頼関係とは、力による支配だった。
過去に教団の中にもニアリーに優しく接してくれた人がいた。
彼にとって姉のような存在だった。
しかし、彼女はもうこの世にはいない。
ある時、ニアリーの強大な力に目を付けた教団の過激派に彼女は利用された。
過激派は古代の技術により、優秀な人間のクローンを作り出し、意のままに操ることを目論んでいた。
ニアリーは彼女に連れられた研究施設で拘束された。
流石に何かおかしいと感じたニアリーは暴れ回った。
ニアリーが暴れている間、彼女は泣いていたように思う。
なんで言うことを聞いてくれないの、とか。
あなたしかできないことなの、とか。
当時は彼女が泣いていた理由も彼女が言っていたこともよく分からなかったが、今考えると、彼女にも何か事情があったように思う。
過激派の連中に何かを吹き込まれたか、脅されていたのかわからないが、いずれにせよ利用されていたのだろう。
結果、利用価値がなくなった途端に彼女は殺された。
彼女が生かされていたのはニアリーの制御装置になり得ると判断されていたためだ。
それができないとなれば、彼女は用済みである。
その後の彼女の役目は、始末されることのみだ。
彼女が殺される最後の瞬間をニアリーは未だに忘れていない。
――お前のせいだ、と。
彼女の瞳は怨嗟に満ちていた。
そこでニアリーは、自分が裏切られたことを知った。
だが、だからといって彼女を恨んでいるわけではない。
既に死んでしまっているということもあるが、多分仕方なかったのだと思う。
彼女が死んだのは彼女が弱かったからだ。
弱いから付け込まれるし、死の間際に抵抗することもできない。
結局のところ人間は、どれだけ心の距離が近くなったとしても、きっかけさえあれば平気で他者を裏切るのだ。
だからこそ信頼関係などあやふやなものに、ニアリーは惑わされない。
力による支配こそが、生き抜くすべなのだ。
ニアリーは過去の出来事からそれを学んだ。
だけど、だからこそニアリーは思うのだ。
この目の前の対戦相手には一撃で気を失ってもらおうと。
ユーリが泣いてしまわないように。
どうせ邪神を手中に収めるために、ユーリを裏切ることになるのだ。
抵抗するようなら、最悪の場合、殺してしまうかもしれない。
この過酷な世界で生きるには、力が必要なのだ。
力が全てであり、力が無ければ奪われる。そんな世界だ。
せめて、その時までは――
彼らとのごっこ遊びに付き合ってやっても良い――
◆
深夜――
日付が変わろうという時間帯――
王都は祭りの真っ最中であり、夜遅くまで賑わっていた。
そんな中、王都上空を飛び回る未確認飛行物体が目撃された。
常軌を逸した速度で不規則に飛び回る物体。
同時に複数の物体を見たとの目撃情報もあり、それら一つ一つが赤く光り輝き、まるで目玉が飛んでいるかのようだったと。
祭りで浮かれていたこともあったのだろう。
それを目撃した者は、悪魔の使者だとか、厄災の前触れだとかそんな根拠のない噂で盛り上がる。
現在は、一年に一度の祭りの真っ最中であり、そんな与太話すら酒の肴になる。
こういったオカルト染みた騒ぎなど、祭りの時期には腐るほどある。
今回も祭りが終わるに従い、その熱も徐々に収まるだろう。
誰もがそう思った。
「本当に見たんだって!」
冒険者の男が騒ぐ。
「ハハハ! それでおめぇ、そのモンスターだかなんだかわかんねぇもんにビビっちまったってのかよ!傑作だな!」
「怖くてママのおっぱいが恋しくなっちゃいまちたかぁ~? ギャハハハ!」
怯えた様子の冒険者の男を周りが囃し立てる。
「お前ら……くそっ!馬鹿にしやがって! 後で泣いても知らねぇぞ!!」
馬鹿にされた冒険者の男は怒りを露わにして怒鳴りつける。
「そりゃあいい! 是非とも泣いてみたいもんだな! ガハハハハハ!」
それを面白がる周りの男たち。
そんな騒がしくて楽しい時間の裏で、静かに、そして確実に、運命の歯車が音もなく狂い始めていたことに、彼らはまだ気付いていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる