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五章
第74話 苛烈なお仕置き
しおりを挟む王都の祭りを堪能した一行は、ダンの希望により近くの酒場で夕飯を食べることになった。
ダンという少年は、出店を回って常に食べ物を口の中に含んでいたにも関わらず、まだ食うというのだ。
ニアリーはオレンジジュースを頼み、チビチビと飲みながら周りの様子を眺める。
「うめぇぇぇええええ!!」
「食い過ぎじゃ!! 限度を知らんのかお主は!! ……うぇっぷ…… は、吐き気が……」
「ミスラちゃんも食べ過ぎたんじゃない……?」
「ワタクシも負けませんわぁ!! …………うっ……!」
「ティーナももうやめときなって…… ダン君と張り合ってもしょうがないよ」
「うめぇぇぇええええ!!」
鳥の丸焼きやら豚の丸焼きやら、ひたすらに肉を胃にぶち込んでいくダン。
ニアリーは特に食い過ぎたわけではないが、見ているだけでも胸やけがする。
何より食い方が汚いのだ。
こいつらは本当に能天気で救いようがない。
血気盛んな冒険者が集う酒場で騒いでいれば、目を付けられてもおかしくはない。
冒険者など山賊と然程変わらない。それがニアリーの認識だった。
更に数十分後、ダンが腹を満タンにしたため、寮に帰ることになった。
辺りはすっかり暗くなっており、人通りも少ない。
「うう…… 食い過ぎたぁ……」
「ダンさんはちょっと食生活を見直した方が良いかもしれませんわ!!」
「ティーナよ、こやつに何を言っても無駄じゃ。 目の前に餌がぶら下がっておれば、例え吐いたとしても、その吐瀉物ごと食うのじゃ」
「ううう……」
彼女たちの言葉に反論の余地も無く項垂れるダン。
吐瀉物すら食うとは酷い言われようではあるが、彼の食い様を見れば、そう思ってしまうのも無理はないだろう。
関わりの少ないニアリーでさえそう思うのだから。
ニアリーは寮に向かう彼らに黙ってついていく。
先ほどから不穏な視線を感じる。
何か良からぬことを考えているようなドロドロとした視線だ。
(酒場からずっとつけられてる…… 気配がダダ洩れだし…… 気付かれていないと思ってるのかな……)
気付いてはいたが、放置していた。
大きな通りを離れ、路地に入ったところで、後ろを尾行していたガラの悪い三人の男がいやらしい笑みを浮かべて近づいてくる。
「おいおい、こんなところで何してんだ? 俺たちも混ぜてくれよ? へへへ……」
大柄な男が声をかけてくる。
ほら見たことかとニアリーは思う。
ニアリーが思った通り、酒場で騒ぎ過ぎて目を付けられてしまったらしい。
王都は比較的治安は良い方ではあるが、こういった輩は何処からか蛆虫のように湧いて出てくるものだ。
「な、なんですの? あなたたちは……?」
ティーナは戸惑いながら声を上げる。
「なんだてめぇら! ……うっ……!」
「おっと……食い過ぎて眠くなっちまったか?」
素早く近づいた大柄な男は、怒りをぶつけるダンの腹に一撃を加える。
突然の不意打ちにダンは反応出来ず、地面に倒れ伏し、気を失った。
「ひゅ~! 君たち可愛いね~名前は?」
「オレっち達と気持ち良いことしようぜぇ?」
長髪のヒョロ長い男と、背の低い小太りの男が近寄ってくる。
「僕たちはもう帰るところなんですけど……」
ティーナを庇うようにして、ユーリが怯えた様子で答える。
「男は帰ってもいいぜ? 女子はダーメ! ぎゃははは!!」
何が面白いのか汚い笑い声を上げる男たち。
こういった奴らは弱い癖に態度だけはでかい。
大司教である自分の前でこのまま調子に乗らせておくわけがない。
(僕に関わったことを後悔させてやる……!)
「ぐあぁぁ!」
突然大柄な男が苦痛に声を上げる。
一瞬の出来事であった。
大柄な男はそれなりの手練れであり、油断はなかったはずだった。
間合いも十分にとっており、不測の事態が起きても対応できる自信もあった。
しかし、反応すらすることができなかった。
ニアリーがスキンヘッドの男の腕を掴みギリギリと締め上げていたのだ。
「なぁっ……! なんだ……お前!!」
突然目の前に現れたニアリーに瞠目するスキンヘッドの男。
(蛆虫共は駆除しないといけない……!)
グレゴリオもそう言っていた。
「お兄ちゃん!!」
「ぐ……! 離し……やがれ……!!」
締め上げられた腕が軋み、痛みに顔を歪ませるスキンヘッドの男。
「て、てめえ!! 何してんだ!!」
背の低い小太り男がニアリーに気付いて腰の曲剣を抜き放ち、袈裟懸けに振るう。
ニアリーはチラリとその小太りの男を見て魔力を凝固させた不可視の玉を数発見舞った。
「ぐああああ!!」
数メートルほど吹き飛ばされる小太り。
魔力の玉が当たったであろう場所が不自然にへこんでおり、小太りは苦痛に悶える。
「ひっ……!」
小太りがやられる様を見たヒョロ長い男は恐怖に顔を歪めてその場から離脱しようとする。
しかし、ニアリーは逃がさない。
「逃げるな!!」
ニアリーが魔力の波動をぶつけると、ヒョロ長い男の動きが止まった。
「あ、ああ、あああああああ……」
ヒョロ長い男は恐怖に震えて失禁する。
「ちぃっ……!! 離せ!離せ!!離せ!!!」
ニアリーに掴まれた腕は固定されたかのように動かない。
しかし何もしなければ、この得体の知れない子供に殺されてしまうのではないかと、半ば半狂乱になりながら逆の腕でニアリーを殴り付けるが、拳は届かない。
障壁で阻まれているわけでもない。
まるで、目の前の空間が歪んでいるかのように届かないのだ。
大柄な男の考えは正しい。
ニアリーは無属性に分類される空間魔法を行使していた。
空間魔法は転移魔法陣などに使用され、本来であれば複数人で行使する必要があるほどに魔力消費が大きい。
ニアリーはその魔力量の多さから一人で発動させるという荒業をやってのけているのだ。
「…………」
慈悲を与える必要もない。
嬲って嬲って最後には絶望を見せてやろうと、どす黒い感情に支配される。
身体強化を施し、素手でスキンヘッドを殴る。
「ぎゃ!ぐあ!や、やめ! もうしまぜ!ん!!ごはっ!! い、いのぢだげは……ぐべ!」
男は涙を流して懇願する。
それでも足りないと何度も何度も拳を振るう。
「お兄ちゃん……!もうやめて……!」
ユーリの震えた声に振り上げた腕が止まる。
「もう……もういいから…… これ以上お兄ちゃんが暴力を振るうところ見たくないよ……」
ユーリは静かに涙を流してその場に崩れ落ちる。
その姿にニアリーは胸がチクリと痛んだ気がした。
「もう良いじゃろ。そやつらも十分苦しんだようだしの」
今まで黙っていた邪神が口を開く。
「……邪神が他人の心配をするの?」
「他人の心配はせぬが、配下の心配はするのじゃ。 ……まあ、お主がやらんかったらこやつらは我が殺していたがの! ほれ、もう帰るぞ! おい起きろ!!いつまで寝ておるのじゃ!!」
ゲシゲシとダンを足蹴にする邪神ミスラ。
(……ふん…… こんな蛆虫共なんて生かしておいても意味なんかないのに……)
チラリとユーリの姿を盗み見る。
でも――
今回は見逃してやる――
ニアリーはモヤモヤとした気持ちを抱えながら、帰路に着くのだった。
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