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五章
第73話 子ども大司教、初めてのお友達?
しおりを挟む「ニア!お前やるじゃねぇかよ!!」
「なっ、なんだ!またお前か!」
試合が終わった後、邪神一行に纏わりつかれていた。
「お兄ちゃん凄いじゃん!!」
「うっ…… や、やめろよぉ……」
ブロンドの髪の容姿の整った少女に抱き着かれ、ニアリーは顔を赤くして小さな声で呟く。
「ニアさん!流石はワタクシのお友だちですわ!!」
ツインドリルの少女が年齢の割には豊満な胸にニアリーの顔を押し付ける。
「や、ややややめ……!」
最初こそジタバタと暴れるが、ギュッと抑え込まれて動けない。敢えて動いていないとも言えるかもしれない。
「ティーナよ!我のしもべじゃぞ! そ、そそ、そのような破廉恥行為はやめるのじゃ!」
「お兄ちゃん!? 離れなさい!! スケベ!!」
ブロンド髪の少女に引き剥がされる。
「申し訳ありませんわ! お友だちと言えど失礼なことしましたわ!」
「な、なななんてことを……! い、言っておくけど、ぼ、ぼぼ僕はそういうことには、き、興味ないんだからな!」
ティーナに解放されたニアリーは必死に弁明するが、幸い仮面を被っていたため、顔が赤くなっていることには気付かれていないだろうと内心安堵する。
「……今日はもう試合ないよね!皆でお祭り行こうよ!」
「なんで僕がそんなことをしなきゃいけないんだ! 無礼だぞ!」
「いいじゃん!頑張ったご褒美だよ! さ、行こ!」
憮然とした態度ながらも大人しくなったニアリーは、手を引かれて街へと連れていかれたのだった。
*
ニアリーは邪神一行と街を歩いていた。
「お兄ちゃん!試合に勝ったのはいいけど、なんですぐにいなくなるの!?」
このユーリという少女はニアリーのことを兄だと思っているらしい。
そして今のようにニアリーを叱るのだ。
他人の失敗を自分が責められるというのは納得がいかず、怒りが沸々と込み上げてくるが、邪神が近くにいる状況で下手な行動は取れない。
邪神と初めて対峙したときにまともに戦って勝てる相手ではないと痛いほど理解させられた。
そして、試合中に魔力を吸い取られたのは、間違いなく邪神の仕業だろう。
他人の魔力を吸い上げるなど馬鹿げた芸当ができるのは、超常の存在である神ぐらいだ。
逃げ出してしまうことも考えたが、邪神などという至上のオモチャを手に入れられる機会を自ら捨ててしまうことはできなかった。
誰かと勘違いされているならば、この状況を逆に利用して邪神の弱点を探ってやると、欲望に瞳を濁らせる。
だが、ニアリーは子ども大司教だ。
幼少より大司教として好き放題振舞ってきたのだ。
自制ということをしたことがないニアリーは、自身が責められている状況で我慢などできるはずがなかった。
「この……!!無礼だぞ!!」
その怒りをぶつけるが、
「学園長と約束したんでしょ!? 間に合ったから良いけど、もしかしたら退学になっていたかもしれないんだから! しかも、そんな変な格好して!」
自分の言葉を無視されたニアリーは呆気に取られる。
彼は今までこんな経験をしたことがなかった。
この世に生を受けた時から、強い力を宿した彼は、成長と共にその力を加速度的に増大させていった。
程なくして、ヘブンズアーク教団の大司教として担ぎ上げられたのは当然の結果であると言えよう。
神の生まれ変わりとまで言われた彼を叱りつけた上に無視をするなど、初めてのことであった。
しかも叱りつけただけでは飽き足らず、変な格好と侮辱したのだ。
「…………」
顔を伏せ、体を震わせる子ども大司教。
「どうしたの? お腹痛くなっちゃったの……?」
「う、うう、うええぇぇぇぇええええええん!!」
生まれてから一度も他人から叱られたことがなかった子ども大司教はそれはもう子どものように泣き喚くのだった。
「もう……お兄ちゃんったら…… 鼻チーンする?」
「ユーリがそうやって甘やかすから付け上がるんじゃねぇのか?」
ユーリは、子ども大司教が泣き止むまで、あやすのだった。
「それで、何でそんな恰好してるの?」
ユーリが尋ねる。
「……僕はいつもこの格好だよ……」
白い法衣は大司教としての正装だ。
ニアリーは人前で泣き喚いてしまった照れ隠しなのか、憮然とした態度で答える。
「まあ、いっか…… お兄ちゃんが変なことをするのはいつものことだしね……」
ユーリがニアリーの頭を撫でながらポツリと呟く。
今まで人に頭を撫でられた経験など殆どなかったニアリーは胸の奥がくすぐられるような感覚に包まれる。
家族というものは知らないが、姉がいればこんな人なのだろうとニアリーは思う。
このユーリという少女は相当なお人好しだ。
――今まで自分に好意を向けてくる人間がいないわけではなかった。
しかし、そういう人間は例外なく自分よりも先に死んでいった。
ニアリーはそんな世界で生きてきた。生き延びてきた。
こいつも同じだ。どうせすぐに死んでしまうのだろう。
「おい、お前も食うか?」
ダンという少年が串焼きを突き出してくる。
ぶっきらぼうな態度だが、突然泣き喚いたニアリーを気遣っているようだった。
「やめるのじゃ! お主の食ろうておるものを食べたらお腹を壊すのじゃ!」
邪神もニアリーの情けない姿を見て、呆れているようだった。
恐らく警戒する必要もないほどに力の差があるからなのだろう。
そんな邪神の様子に悔しさを感じる。
「ワタクシもよしよしですわ!」
ティーナという少女がニアリーの頭を撫でる。
騒がしい。
彼らの喧騒が鬱陶しく感じる。
こんな場所にいても精神が乱されるだけだ。
すぐにでも立ち去るべきである。
(いや、邪神を近くで観察するという目的がある……)
強大な力を持つ邪神を手に入れるためには、それを覆すだけの弱みを見つけるしかない。
そう……だから……
だから、もう少しだけここにいても良いかもしれない。
誰かと勘違いしているのならそれを利用するまでだ。
今までそうやって生きてきた。
信用できるのは自分だけ。
こいつらのような能天気な奴らなど、利用して捨ててしまえば良いのだ。
「明日も試合だけど大丈夫? またいなくなったりしないでよ?」
闘技大会の新人戦のことだろう。
予選を勝ち抜いた15名と学園長の推薦枠1名が参加しているとのことだった。
一日目が第一回戦、二日目に二回戦と三回戦、三日目に決勝戦を行い、その後は全学年対象の本戦が始まるということらしい。
どうやら少々面倒なことになりそうだ、とニアリーは小さく息を吐く。
だが、邪神の弱みを握るためだと自分に言い聞かせる。
「頑張ってくださいまし!」
「まあ、大丈夫だと思うよ。 僕結構強いし」
「そうかぁ……?そんなヒョロヒョロの体で勝てるとは思えねぇがな」
失礼な奴だとニアリーは嘆息する。
しかし、今まで面と向かってこのような失礼なことを言ってくる者はいなかった。
友達……そんな単語が頭を過るが、すぐにその愚かな考えを捨てる。
友達や家族など邪魔なだけだ。それらは弱みに繋がる。
ニアリー自身、多くの人間をその弱みに付け込み潰してきた。
「僕は普段から努力してるんだよ」
「流石はワタクシのお友だちですわ!!」
こいつらは本当に呑気で救いようがない。
ぬるま湯に浸かっているような感覚が不快だった。
「ほう? お主が努力しているところなど見たことはないがの?」
邪神の発言に自身の企てが見透かされ、その上で泳がされているのかと疑う。
だが、今は細かいことは考えないようにする。
いずれ自分のモノにするのだと、瞳の奥に淀んだ光を宿す。
「そんなことより! まだまだ時間あるしお祭りを楽しもう!」
自分で話題を振っておいて勝手な奴だとニアリーは思う。
「おうよ!」
すると、ダンというガタイの良い少年が返事と同時にニアリーの腕をガシリと掴む。
「え?」
「よし、行くぞぉ!」
「ちょおおおお!まってぇぇえええ!」
あまりのスピードで引っ張られたニアリーの叫び声が響き渡る。
仮面の下の表情が綻んでいたのは本人でさえ知らないことであった。
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