49 / 77
第三幕 神は天に居まし、人の世は神も無し
49.シーン3-15(コクヤ)
しおりを挟む
出会い頭の挨拶がてらに少し話し込んでしまったものの、このまま立ち話を続けているわけにもいかない。それから私たちはフルーラさんの家宅へと向かい、当初より教会の詰め所へ泊まる手筈だった私とキュリアさん以外は中に入ることになった。しかし、到着したあとさあお邪魔しようというところになって、カインが黙り込んだまま一行の後方から動こうとせず、フルーラさんの手前で少し困ったキュリアさんが機転を利かせ、自分が泊めてもらうことにすると私に向けて小さく告げた。
余程この家に泊りたくないということなのか、小声で私が向かってくださいとマントの裾を引っ張ってみたところ、見事に彼は無言で私の手を振り払った。
本当にこれで三十路近い、いい歳の大人なのかと疑いたくもなってしまうところである。このままもたついてこの男が渋っているとフルーラさんに感付かれてしまっては、せっかく善意で赤の他人を泊めてくれているファレンシア家に申し訳が立たないと、私にさっと目配せされたキュリアさんの焦った視線が告げていた。
兵装の私よりも、教会要職の彼女のほうが適任だろう。私は静かに頷いて、カインを詰め所で管理しますと目で答えた。そして、ミリエ、オルカ、キュリアさんがフルーラさんの邸宅へと入っていく様子を見送ってから、私もあらかじめ聞いていた教会の詰め所へと足を進めた。
船の中で、マナの解放は明日行うとの日程を聞いている。まず今日は、宿泊先へ腰を落ち着けること、そして解放組は明日に備えて万全を期すこと、私は教会や聖都絡みの荷物の配達と、船から一部持ってきた書物の写し作業が予定されている。教会の詰め所で再開したゴリオさんに、急遽こちらへ来ることになったカインを預け、私は詰め所で聞いた品々をコクヤの街からかき集めて港へと運ぶために表へ出た。
人で賑わい所狭しと様々な店が並ぶ商店通りから、技術職が腰を据える一角までを順番に回っていく。ある程度荷を集め終えたところで、私は背後からずっと付いてきている不穏な気配を振り返った。
「何してるんですか」
無言で付いて来られると少し気味が悪いので、出来ることなら声をかけるなり何なりしてもらいたい。
ギャラクシー・パラリラは私の問いには答えることなく、私が抱えた大きな布の塊を掴み取ると、そのまま黙って突っ立っている。いいよ何だよ私が持つから帰りなよという目で見上げながらその旨を伝えようと口を開きかけたのだが、有無を言わせぬ鋭い視線で見下ろされ、私はあえなく口をつぐんだ。目付き、目付きが悪くて非常に怖い。あれだけ散々やりたい放題できていたのは周りに人がいたからなのだと思い知り、自分の小物具合を嘆く。
「明日があるから休んだほうがいいんじゃないですか」
彼はやはり無言だった。眉ひとつピクリとも動かさず、私を黙って見下ろしている。何だ。言いたいことがあるなら言ってみろ。ここまでやってきた以上、私の勝ちは変わらないんだからせいぜい覚悟するがいい。
どうやら彼は私同様に荷運びをするつもりでいるらしいが、馬車と船と少しの徒歩であろうとも長時間の移動というのは疲れるものだ。その手段は問わないが、思い思いの方法で羽を伸ばして気や身体を休めておくに越したことはないだろう。そのほうが私は良いと思うのだが、それでも無言でついて来られる以上、無理やりに押し返してまで断るほどの理由もなし、私にはどうにもしてやれない。詰め所で聞いた量が量であっただけに、助かるのも事実である。
せっかく居心地の悪かった彼の魔力圏から離れる機会だったのにと、こっそりと心の中で肩を落として、私は再び荷運び作業を続けるために歩き出した。彼は今日いっぱい荷運びに付き合うつもりなのだろうか、三十路近くが体を酷使し、万が一腰を痛めたり筋肉痛で動けなくなったりでもしたら、どうしてくれるつもりだろうか。
一巡目に集める手筈だった粗方の品々を無事回収し、港へ向けて歩いていると、道の途中でフルーラさんとミリエとオルカに出くわした。主に商店や宿などが賑やかに軒を連ねているメインストリートの片隅で、もう一人見慣れぬ人物と会話しているところだったようだ。
ミリエは無言で私へ向けて「アンタなんでその人こき使ってんのよやめなさいよ」といった感じの視線を送る。私はなるべく「知らないよ勝手に付いてくるんだよ」といった感じの表情を意識しながら首を小さく左右に振った。
なんでも、気分転換に少しコクヤを観光しようと出ていたらしく、その途中でフルーラさんの知り合いと遭遇したところだったのだとか。キュリアさんは諸々の仕事の為に、私たちが抜けたあとの詰め所へと向かったらしい。
フルーラさんの横に立つ人物は、どうやら少年のようだった。歳のほどは彼女と同じくらいであろう。キリリと清々しい目鼻立ちを飾るがごとく、とにかく白くて繊細な色調で全身がまとめられている。髪は真っ白、目も灰色、真昼時には炎天下にもなろうかという日差しの下で果たして大丈夫なのだろうか、肌も透けるほどに白い。彼女と横に並んでみると、黒と白で対照的だ。だというのに、なぜか非常に二人は似ているのではないかという気がしてくるのだ。
相違と類似の中に混じる得体の知れない不気味な何かの所在を果たして掘り当てて良いのかどうか、迷いながらしばらく黙って見ていたところで、私のそばへ寄ってきたミリエが私を肘でちょいちょいとつっついて、ねえちょっとと耳打ちしてきた。
「二人の魔力、雰囲気がすごく似てる気がするのよ。共振者だったりして」
耳打しているはずのわりにはずいぶんと弾んだ声でミリエが話す。
「二人が話してるとこ見てたらなんだかんだで仲良さそうだし。やだもう、運命の人っ?」
頑張って声量を抑えているのであろうが、しかしキャッキャウフフと耳にかかる息づかいが有り余って凄まじい。とっても盛り上がってしまったミリエの声が聞こえたらしく、フルーラさんと少年は赤い顔で気まずそうにお互いから目を反らした。
余程この家に泊りたくないということなのか、小声で私が向かってくださいとマントの裾を引っ張ってみたところ、見事に彼は無言で私の手を振り払った。
本当にこれで三十路近い、いい歳の大人なのかと疑いたくもなってしまうところである。このままもたついてこの男が渋っているとフルーラさんに感付かれてしまっては、せっかく善意で赤の他人を泊めてくれているファレンシア家に申し訳が立たないと、私にさっと目配せされたキュリアさんの焦った視線が告げていた。
兵装の私よりも、教会要職の彼女のほうが適任だろう。私は静かに頷いて、カインを詰め所で管理しますと目で答えた。そして、ミリエ、オルカ、キュリアさんがフルーラさんの邸宅へと入っていく様子を見送ってから、私もあらかじめ聞いていた教会の詰め所へと足を進めた。
船の中で、マナの解放は明日行うとの日程を聞いている。まず今日は、宿泊先へ腰を落ち着けること、そして解放組は明日に備えて万全を期すこと、私は教会や聖都絡みの荷物の配達と、船から一部持ってきた書物の写し作業が予定されている。教会の詰め所で再開したゴリオさんに、急遽こちらへ来ることになったカインを預け、私は詰め所で聞いた品々をコクヤの街からかき集めて港へと運ぶために表へ出た。
人で賑わい所狭しと様々な店が並ぶ商店通りから、技術職が腰を据える一角までを順番に回っていく。ある程度荷を集め終えたところで、私は背後からずっと付いてきている不穏な気配を振り返った。
「何してるんですか」
無言で付いて来られると少し気味が悪いので、出来ることなら声をかけるなり何なりしてもらいたい。
ギャラクシー・パラリラは私の問いには答えることなく、私が抱えた大きな布の塊を掴み取ると、そのまま黙って突っ立っている。いいよ何だよ私が持つから帰りなよという目で見上げながらその旨を伝えようと口を開きかけたのだが、有無を言わせぬ鋭い視線で見下ろされ、私はあえなく口をつぐんだ。目付き、目付きが悪くて非常に怖い。あれだけ散々やりたい放題できていたのは周りに人がいたからなのだと思い知り、自分の小物具合を嘆く。
「明日があるから休んだほうがいいんじゃないですか」
彼はやはり無言だった。眉ひとつピクリとも動かさず、私を黙って見下ろしている。何だ。言いたいことがあるなら言ってみろ。ここまでやってきた以上、私の勝ちは変わらないんだからせいぜい覚悟するがいい。
どうやら彼は私同様に荷運びをするつもりでいるらしいが、馬車と船と少しの徒歩であろうとも長時間の移動というのは疲れるものだ。その手段は問わないが、思い思いの方法で羽を伸ばして気や身体を休めておくに越したことはないだろう。そのほうが私は良いと思うのだが、それでも無言でついて来られる以上、無理やりに押し返してまで断るほどの理由もなし、私にはどうにもしてやれない。詰め所で聞いた量が量であっただけに、助かるのも事実である。
せっかく居心地の悪かった彼の魔力圏から離れる機会だったのにと、こっそりと心の中で肩を落として、私は再び荷運び作業を続けるために歩き出した。彼は今日いっぱい荷運びに付き合うつもりなのだろうか、三十路近くが体を酷使し、万が一腰を痛めたり筋肉痛で動けなくなったりでもしたら、どうしてくれるつもりだろうか。
一巡目に集める手筈だった粗方の品々を無事回収し、港へ向けて歩いていると、道の途中でフルーラさんとミリエとオルカに出くわした。主に商店や宿などが賑やかに軒を連ねているメインストリートの片隅で、もう一人見慣れぬ人物と会話しているところだったようだ。
ミリエは無言で私へ向けて「アンタなんでその人こき使ってんのよやめなさいよ」といった感じの視線を送る。私はなるべく「知らないよ勝手に付いてくるんだよ」といった感じの表情を意識しながら首を小さく左右に振った。
なんでも、気分転換に少しコクヤを観光しようと出ていたらしく、その途中でフルーラさんの知り合いと遭遇したところだったのだとか。キュリアさんは諸々の仕事の為に、私たちが抜けたあとの詰め所へと向かったらしい。
フルーラさんの横に立つ人物は、どうやら少年のようだった。歳のほどは彼女と同じくらいであろう。キリリと清々しい目鼻立ちを飾るがごとく、とにかく白くて繊細な色調で全身がまとめられている。髪は真っ白、目も灰色、真昼時には炎天下にもなろうかという日差しの下で果たして大丈夫なのだろうか、肌も透けるほどに白い。彼女と横に並んでみると、黒と白で対照的だ。だというのに、なぜか非常に二人は似ているのではないかという気がしてくるのだ。
相違と類似の中に混じる得体の知れない不気味な何かの所在を果たして掘り当てて良いのかどうか、迷いながらしばらく黙って見ていたところで、私のそばへ寄ってきたミリエが私を肘でちょいちょいとつっついて、ねえちょっとと耳打ちしてきた。
「二人の魔力、雰囲気がすごく似てる気がするのよ。共振者だったりして」
耳打しているはずのわりにはずいぶんと弾んだ声でミリエが話す。
「二人が話してるとこ見てたらなんだかんだで仲良さそうだし。やだもう、運命の人っ?」
頑張って声量を抑えているのであろうが、しかしキャッキャウフフと耳にかかる息づかいが有り余って凄まじい。とっても盛り上がってしまったミリエの声が聞こえたらしく、フルーラさんと少年は赤い顔で気まずそうにお互いから目を反らした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる