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第四幕 ご利用に、終止符を
74.シーン4-11(お騒がせな一時共闘)
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オルカと彼のおばあちゃん曰く、どこからともなくふらりとこの村に現れたあの黄金比を駆使したゴリラは、この村にいるという手練の魔術師の噂を聞き及んでやって来たとのことらしい。手近な村の人間にその人物を尋ねて対面するや、問答無用で力比べを挑んできたというのである。
そんなどこぞの少年誌にでも掲載される漫画みたいにお騒がせな戦闘狂が果たしてこの世にいるのだろうか、いるのだから納得するより仕方がない。何かあったらゴリオさんを召喚し、戦ってもらうより他にない。
「望み……うーんそうだな。それじゃあ、僕が勝ったら、君がその手に持っている宝玉、証として貰おうか」
「これは、この地の歪みを封じるために使用している非常に大切な魔石です。よそ者に譲ることなど出来ません」
ミネコさんの言葉を聞いて、私がうっかり真顔で凝視してしまったオルカは非常に気まずそうに頷いた。
二人の間で音もなく交わされた、非常に短い重要な意思疎通はこれだ。
……あれか。……あれだ。
なるほど、渡してなるものか。
様子からして恐らく男の人ではないかと思しき彼が、装飾品を必要以上に身につけて歩いているのは、何も見目麗しき自身をさらに飾り立てるためではないのだろう。
放牧により生計を立てて暮らす騎馬民族は、定住先を持たないからこそ、土地や家に使う分の財産を服飾として多く身につけ持ち歩く。
まさしく彼の行動を考えるに、刺激を求めて各地を流浪しているのであろう彼は、財産を宝飾品として身につけて持ち歩くのだ。
何も彼は適当な褒美として目の前にいる人物が持つ石を要求してきたわけではない。その暮らしぶりから目が利くからこそ、ミネコさんの持つ魔石の価値に気がついて、さらには自身の稼ぎを得るためそれを指し示してきたのである。たちの悪いバウンティハンターさながらだ。
「まあ、それは別に後でいいや。それよりも、随分おもしろそうなのがいるじゃないか。まとめてでいいよ」
私のそばに控えている高魔力者たちの気配に気づいた彼の目は、どこか好奇に輝いた。ルビー、いや血のように真っ赤な瞳は魔色変化によるものだろう。ご多分にもれずというべきか、彼も非常に高い魔力を持っている。
ギャラクシー・パラリラとばったり出くわしてからというもの、ここのところ、とにかく高魔力者らとことごとく縁があるようだ。本来ならばここまでそう何度も立て続けに出くわす存在ではないはずが、類は友を呼ぶということなのか、甚だ嘆息ものである。
バトル漫画ここに極まれりな展開に持ち込んでくる黄金比ゴリラは、周りに見物人がいることなどまるで気にせずこちらへ向けて手をかざす。一体何がまとめてでいいのだろうか、ここには私とおばあちゃんがいるではないか!
私はおばあちゃんと顔を見合わせ、おばあちゃんは少しだけ身を引いた。私も少し離れようと思ったところで左手首の縄が突っ張り動きが止まる。おばあちゃんは完全に遠巻きの方へ行ってしまった。私を置いて行かないで!
「いけっ、パラリラ、きみにきめた!」
私がバッジを持っていないせいか、パラリラは棒立ちのままで何も言わず、言うことを聞いてくれない。コクヤで揉めた一件なら謝るから、だからここでは動いてくれ!
離れていても分かるほどに高いゴリラの魔力が、臨戦態勢によりさらに巨大に膨れ上がる。
しかしまあ焦るべからず、こちらには一応カインだけでなくミリエとオルカとミネコさんだっているのである。何も心配することなどありはしない。多分ない。本当にないのだろうか。何かちょっとまずくないか。何かわりと想像以上に凄くないか。これはこの群衆の中でドンパチやって本当に大丈夫なものなのだろうか。
若輩組四名及び、年長組一人を残し、周囲から完全に人が退く。私も一応、左手首の縄の端をつまんでおいた。これで万全、いつでも来い。
「任せなさいよ!」
敵の掌より放たれた黒い波動を、一歩前に踏み出したミリエが受ける。お気に入りの棒、もとい杖を持ち上げ、直進してくる魔力弾と平行の向きに足を置く。
直角に構えたミリエは自身の周囲に力場を作った。ミリエの魔力が飛んでくる弾の衝撃を受け止め、緩和する。そのなかを、きれいな軌跡を描いて杖、否もはやこれではやはり棒がびゅいんと横切り、びりびりと迸る電光とともに黒い魔球が跳ね返る。非常に物理的である。
ミリエの魔力の威力を増して打ち返された豪速球が運悪くその先にある民家へと直撃し、壁が盛大に吹き飛んだ。遠巻きのどこかから、家主と思しき悲鳴が上がる。
「アリエ、あたしさっきアンタのこと助けたわよね。……だからあとで一緒に謝りに来てくれる……?」
致し方ない。
茫然とするミリエに向かってまたもや次の攻撃が飛んでくる。ミリエをかばって前に出たオルカが防御壁を張り、迫る黒弾を受け止めた。
先立ったミリエが引き起こした悲劇によって、飛ばされてくる攻撃を受け止めるしかなくなってしまった私たちに、さらなる追撃が向かってくる。黄金比ゴリラはまだまだ余裕綽々の顔で軽く弾を飛ばしてきており、ひとつ、またひとつと放たれるたび魔力の桁が跳ね上がる。
再びオルカがその攻撃を防御壁とともに受け止めるも、体を打つほど激しい衝撃波が付近を駆け抜け、彼が食いしばった歯の奥からは苦痛の声が短く漏れた。
振動により、先ほど壁が吹き飛んだ家屋の壁がまたもやがったんばったんと崩れ落ちて、遠巻きのどこかから見守っている家主からは絶望の悲鳴が上がる。
「もうこれこっちが勝ったらあの首のあたりにぶら下がってる宝石、何個かもぎ取ってもいいんじゃないかな……」
とは言え下手に動けば動くほどに周囲に被害が飛び火してしまうこの状況は、非常に苦しいものがある。せめて時と場所を選んでくれれば良いものを、これでは防戦一方である。
オルカが指先から閃く光の矢を放ったが、周囲の家屋を意識したのか、何やら随分思い切りのない攻撃に落ち着いてしまったらしい。向こうはそれを何食わぬ顔で払い飛ばした。
そんなどこぞの少年誌にでも掲載される漫画みたいにお騒がせな戦闘狂が果たしてこの世にいるのだろうか、いるのだから納得するより仕方がない。何かあったらゴリオさんを召喚し、戦ってもらうより他にない。
「望み……うーんそうだな。それじゃあ、僕が勝ったら、君がその手に持っている宝玉、証として貰おうか」
「これは、この地の歪みを封じるために使用している非常に大切な魔石です。よそ者に譲ることなど出来ません」
ミネコさんの言葉を聞いて、私がうっかり真顔で凝視してしまったオルカは非常に気まずそうに頷いた。
二人の間で音もなく交わされた、非常に短い重要な意思疎通はこれだ。
……あれか。……あれだ。
なるほど、渡してなるものか。
様子からして恐らく男の人ではないかと思しき彼が、装飾品を必要以上に身につけて歩いているのは、何も見目麗しき自身をさらに飾り立てるためではないのだろう。
放牧により生計を立てて暮らす騎馬民族は、定住先を持たないからこそ、土地や家に使う分の財産を服飾として多く身につけ持ち歩く。
まさしく彼の行動を考えるに、刺激を求めて各地を流浪しているのであろう彼は、財産を宝飾品として身につけて持ち歩くのだ。
何も彼は適当な褒美として目の前にいる人物が持つ石を要求してきたわけではない。その暮らしぶりから目が利くからこそ、ミネコさんの持つ魔石の価値に気がついて、さらには自身の稼ぎを得るためそれを指し示してきたのである。たちの悪いバウンティハンターさながらだ。
「まあ、それは別に後でいいや。それよりも、随分おもしろそうなのがいるじゃないか。まとめてでいいよ」
私のそばに控えている高魔力者たちの気配に気づいた彼の目は、どこか好奇に輝いた。ルビー、いや血のように真っ赤な瞳は魔色変化によるものだろう。ご多分にもれずというべきか、彼も非常に高い魔力を持っている。
ギャラクシー・パラリラとばったり出くわしてからというもの、ここのところ、とにかく高魔力者らとことごとく縁があるようだ。本来ならばここまでそう何度も立て続けに出くわす存在ではないはずが、類は友を呼ぶということなのか、甚だ嘆息ものである。
バトル漫画ここに極まれりな展開に持ち込んでくる黄金比ゴリラは、周りに見物人がいることなどまるで気にせずこちらへ向けて手をかざす。一体何がまとめてでいいのだろうか、ここには私とおばあちゃんがいるではないか!
私はおばあちゃんと顔を見合わせ、おばあちゃんは少しだけ身を引いた。私も少し離れようと思ったところで左手首の縄が突っ張り動きが止まる。おばあちゃんは完全に遠巻きの方へ行ってしまった。私を置いて行かないで!
「いけっ、パラリラ、きみにきめた!」
私がバッジを持っていないせいか、パラリラは棒立ちのままで何も言わず、言うことを聞いてくれない。コクヤで揉めた一件なら謝るから、だからここでは動いてくれ!
離れていても分かるほどに高いゴリラの魔力が、臨戦態勢によりさらに巨大に膨れ上がる。
しかしまあ焦るべからず、こちらには一応カインだけでなくミリエとオルカとミネコさんだっているのである。何も心配することなどありはしない。多分ない。本当にないのだろうか。何かちょっとまずくないか。何かわりと想像以上に凄くないか。これはこの群衆の中でドンパチやって本当に大丈夫なものなのだろうか。
若輩組四名及び、年長組一人を残し、周囲から完全に人が退く。私も一応、左手首の縄の端をつまんでおいた。これで万全、いつでも来い。
「任せなさいよ!」
敵の掌より放たれた黒い波動を、一歩前に踏み出したミリエが受ける。お気に入りの棒、もとい杖を持ち上げ、直進してくる魔力弾と平行の向きに足を置く。
直角に構えたミリエは自身の周囲に力場を作った。ミリエの魔力が飛んでくる弾の衝撃を受け止め、緩和する。そのなかを、きれいな軌跡を描いて杖、否もはやこれではやはり棒がびゅいんと横切り、びりびりと迸る電光とともに黒い魔球が跳ね返る。非常に物理的である。
ミリエの魔力の威力を増して打ち返された豪速球が運悪くその先にある民家へと直撃し、壁が盛大に吹き飛んだ。遠巻きのどこかから、家主と思しき悲鳴が上がる。
「アリエ、あたしさっきアンタのこと助けたわよね。……だからあとで一緒に謝りに来てくれる……?」
致し方ない。
茫然とするミリエに向かってまたもや次の攻撃が飛んでくる。ミリエをかばって前に出たオルカが防御壁を張り、迫る黒弾を受け止めた。
先立ったミリエが引き起こした悲劇によって、飛ばされてくる攻撃を受け止めるしかなくなってしまった私たちに、さらなる追撃が向かってくる。黄金比ゴリラはまだまだ余裕綽々の顔で軽く弾を飛ばしてきており、ひとつ、またひとつと放たれるたび魔力の桁が跳ね上がる。
再びオルカがその攻撃を防御壁とともに受け止めるも、体を打つほど激しい衝撃波が付近を駆け抜け、彼が食いしばった歯の奥からは苦痛の声が短く漏れた。
振動により、先ほど壁が吹き飛んだ家屋の壁がまたもやがったんばったんと崩れ落ちて、遠巻きのどこかから見守っている家主からは絶望の悲鳴が上がる。
「もうこれこっちが勝ったらあの首のあたりにぶら下がってる宝石、何個かもぎ取ってもいいんじゃないかな……」
とは言え下手に動けば動くほどに周囲に被害が飛び火してしまうこの状況は、非常に苦しいものがある。せめて時と場所を選んでくれれば良いものを、これでは防戦一方である。
オルカが指先から閃く光の矢を放ったが、周囲の家屋を意識したのか、何やら随分思い切りのない攻撃に落ち着いてしまったらしい。向こうはそれを何食わぬ顔で払い飛ばした。
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