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路地裏にて
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薄暗く細い路地裏に、一匹の猫が居た。
白黒の可愛らしいぶちねこだ。
猫は蓋付きのぼろぼろなゴミ箱の上に、ちょこんと寝そべっている。
小さいけど、いい体をしている。
猫が体を起こす。
いい感じに二色がマッチしている体を足で掻き始めた。
ふぁあと大きく猫があくびする。
昔飼ってた猫だ。
『なんだ。お前もこっちに来たのか』
猫が話しかけてくる。
「ああ、なんかこんなところに来ちまった。相変わらずかわいいなお前」
『ふん、これだからお前は』
すぐ近くにある両壁を見ると、右壁に『HELL TO YOU!』と、左壁に『YOU DIED! GO AHEAD』と様々な暗い色カラースプレーで落書きが施されている。
路地裏の先には、大きな花畑らしきものがチラッと視えている。
一歩踏み出す。
『いいのか?』
「何がだ」
光に向かおうとする俺を静止する猫。
『その奥は怖いぞ。なんてったって踏んだだけで毒が体に周り、お前はやがて死ぬ。もう……戻れないぞ』
「おーそれはそれは。なんと恐ろしい。」
猫の言葉に震え上がる。
前に進めば死。
では後ろは?
振り返ると、真っ暗な広い道の奥に一つ小さな店があった。
しかし、シャッターは閉まっており、そのシャッターにも悪趣味な落書きが施されている。
『戻りたいか?』
「いや、今は戻りたくないな」
でも、いつか戻りたくなるかもしれない。
もしかすると、あの店もいつかは再度開店する可能性だってある。
猫に視線を戻す。
ぴょん、と猫がゴミ箱の上から飛び降りる。
「良いなお前は。そんな小さい体で無茶できて」
『お前は無茶しすぎたんだ』
猫はプイっと俺から顔をそらした。
「なあ。ここに今まで誰か来たか?」
当たり障りない質問をする。
『ああ来たさ』
「どうだった?」
『みんな花畑を見て真っ直ぐに進んでいったよ。希望を眼に写しながら』
「ほう。他のやつに先に行くと死ぬと教えてやらなかったのか?」
『教えたさ。でも、教えたところであいつらは聞かなかったよ』
「なるほど」
顎を擦る。
『お前も座れよ』
「いやだよ」
『どうして』
「ぶにぶにするから」
『ごもっともだ。だが私が寝るには丁度いい』
ふたたび高く飛び、猫がゴミ箱の上に乗る。
こちらを向いた猫のくろぶちに覆われた目が俺を貫く。
『誰もかも誰かよりも自分を優先するんだ』
「深いな」
『経験だ。深くもなんともねえ』
ふたたび猫は寝そべる。
後ろから光が差し込む。振り返ると店のシャッターが開いていた。
「生きてりゃ良いことあるな」
『生きてりゃな』
「まああっち行けば死ぬしな」
『そういう意味じゃねえ』
「じゃあどういう意味?」
『お前は知らなくていい』
確かに知る必要もないな。
フッと笑って視線を戻す。
少し目を見開いた。
なぜならゴミ箱が小さな猫用のベッドに変わっていたからだ。
こんなこともできるのか。この路地裏は。
『ベッドもきもちいいな』
「ベッドはきもちいいよ」
バカみたいな会話をする。
猫はそんな話にくすっと笑った。
尻尾を振って猫は聞いてくる。
『後ろに、戻るか?』
「なんだ、もうここから離れなきゃいけないのか」
『バカ言え、お前の意志だろ。誰が離れろつった』
「え、俺が決めるのか。じゃあ離れたくない」
『…私がバカだったか』
急激に猫の尻尾が萎えていく。
「そんなに離れてほしいか」
『ああ。もう二度と会いたくないね』
「そうか?俺はまたもう一度お前に会える気がするぞ。」
本心同士の会話。この猫様との近い距離感が大好きだ。
『言い方を変えよう。二度とこの路地裏に来るな。お前が来るような場所じゃない』
「じゃあ路地裏ってどんなやつが来る場所なんだ?」
『ぼっち』
「ええ…」
個人的には路地裏というのはちゃらい男とかわいい女が二人であんなことやこんなことをやるところだと思っていたが……そうやら薄い本の読み過ぎらしい。
ふと後ろを振り返る。
だんだんと出口が近づいてくる。
「仕方ない。行くか」
こころなしか、俺を呼ぶ声が聞こえる。
猫が尻尾を振って言葉を俺に放った。
『ほら行け。もう来んなよ』
「そうだな……」
俺は猫に背を向け、最後に言葉を口にした。
「ばいばい、そして、ただいま」
『おう。帰れ』
白黒の可愛らしいぶちねこだ。
猫は蓋付きのぼろぼろなゴミ箱の上に、ちょこんと寝そべっている。
小さいけど、いい体をしている。
猫が体を起こす。
いい感じに二色がマッチしている体を足で掻き始めた。
ふぁあと大きく猫があくびする。
昔飼ってた猫だ。
『なんだ。お前もこっちに来たのか』
猫が話しかけてくる。
「ああ、なんかこんなところに来ちまった。相変わらずかわいいなお前」
『ふん、これだからお前は』
すぐ近くにある両壁を見ると、右壁に『HELL TO YOU!』と、左壁に『YOU DIED! GO AHEAD』と様々な暗い色カラースプレーで落書きが施されている。
路地裏の先には、大きな花畑らしきものがチラッと視えている。
一歩踏み出す。
『いいのか?』
「何がだ」
光に向かおうとする俺を静止する猫。
『その奥は怖いぞ。なんてったって踏んだだけで毒が体に周り、お前はやがて死ぬ。もう……戻れないぞ』
「おーそれはそれは。なんと恐ろしい。」
猫の言葉に震え上がる。
前に進めば死。
では後ろは?
振り返ると、真っ暗な広い道の奥に一つ小さな店があった。
しかし、シャッターは閉まっており、そのシャッターにも悪趣味な落書きが施されている。
『戻りたいか?』
「いや、今は戻りたくないな」
でも、いつか戻りたくなるかもしれない。
もしかすると、あの店もいつかは再度開店する可能性だってある。
猫に視線を戻す。
ぴょん、と猫がゴミ箱の上から飛び降りる。
「良いなお前は。そんな小さい体で無茶できて」
『お前は無茶しすぎたんだ』
猫はプイっと俺から顔をそらした。
「なあ。ここに今まで誰か来たか?」
当たり障りない質問をする。
『ああ来たさ』
「どうだった?」
『みんな花畑を見て真っ直ぐに進んでいったよ。希望を眼に写しながら』
「ほう。他のやつに先に行くと死ぬと教えてやらなかったのか?」
『教えたさ。でも、教えたところであいつらは聞かなかったよ』
「なるほど」
顎を擦る。
『お前も座れよ』
「いやだよ」
『どうして』
「ぶにぶにするから」
『ごもっともだ。だが私が寝るには丁度いい』
ふたたび高く飛び、猫がゴミ箱の上に乗る。
こちらを向いた猫のくろぶちに覆われた目が俺を貫く。
『誰もかも誰かよりも自分を優先するんだ』
「深いな」
『経験だ。深くもなんともねえ』
ふたたび猫は寝そべる。
後ろから光が差し込む。振り返ると店のシャッターが開いていた。
「生きてりゃ良いことあるな」
『生きてりゃな』
「まああっち行けば死ぬしな」
『そういう意味じゃねえ』
「じゃあどういう意味?」
『お前は知らなくていい』
確かに知る必要もないな。
フッと笑って視線を戻す。
少し目を見開いた。
なぜならゴミ箱が小さな猫用のベッドに変わっていたからだ。
こんなこともできるのか。この路地裏は。
『ベッドもきもちいいな』
「ベッドはきもちいいよ」
バカみたいな会話をする。
猫はそんな話にくすっと笑った。
尻尾を振って猫は聞いてくる。
『後ろに、戻るか?』
「なんだ、もうここから離れなきゃいけないのか」
『バカ言え、お前の意志だろ。誰が離れろつった』
「え、俺が決めるのか。じゃあ離れたくない」
『…私がバカだったか』
急激に猫の尻尾が萎えていく。
「そんなに離れてほしいか」
『ああ。もう二度と会いたくないね』
「そうか?俺はまたもう一度お前に会える気がするぞ。」
本心同士の会話。この猫様との近い距離感が大好きだ。
『言い方を変えよう。二度とこの路地裏に来るな。お前が来るような場所じゃない』
「じゃあ路地裏ってどんなやつが来る場所なんだ?」
『ぼっち』
「ええ…」
個人的には路地裏というのはちゃらい男とかわいい女が二人であんなことやこんなことをやるところだと思っていたが……そうやら薄い本の読み過ぎらしい。
ふと後ろを振り返る。
だんだんと出口が近づいてくる。
「仕方ない。行くか」
こころなしか、俺を呼ぶ声が聞こえる。
猫が尻尾を振って言葉を俺に放った。
『ほら行け。もう来んなよ』
「そうだな……」
俺は猫に背を向け、最後に言葉を口にした。
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『おう。帰れ』
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