2 / 54
2 勇者秋葉剛
しおりを挟む
自分の進むべき方向性を失いながら、いつものように訓練を終えたある日の帰り道、道端に女性ものの衣類が散乱している事に気がついた。
「あっ……」
そして服の落ちている場所のさらに奥には裸の女性が気を失い倒れていた。
この状況は間違い無い。勇者の仕業だ。
周囲を見回すが勇者らしき奴は見当たらない。
あの時の全身を焦がす怒りが再び湧いてきた。
許せない。絶対に殺す! 殺してやる!
本当は女性を介抱すべきなのだろうが、俺には二年間貯め込んだこの怒りを抑える事はもはや出来なかった。
俺は気を失っている女性に落ちていた服を掛けると、犯人である勇者を求めて道を全速力で走ったが、しばらく進むとフラフラと道を歩く黒髪の男の後ろ姿が見て取れた。
「おい! 止まれ! お前がやったのか?」
「あ~? お、お前誰だよ。俺が勇者の秋葉剛様と知って声をかけてんのか? ヒック」
こいつ、酔っているのか。さっきの千鳥足といい、喋り方といい完全な酩酊状態に見える。この男酔った勢いであの女性を……
「お前があれをやったのか?」
「は~ぁ? あ、あれってなんだよ。無礼な奴だな。ック」
「この道の手前に若い女性が倒れていたが、あれはお前がやったのか?」
「ああ、そんな事か。ちょっと気分が良かったからな。目の入った女の相手をしてやったんだよ。ック、勇者様の相手が出来たんだ、あの女も喜んでるだろ。結構良かったぜ。ヒック」
勇者秋葉剛のふざけた物言いを聞いて俺の中の理性は完全に吹き飛んだ。
こいつは俺の妹を死に追いやったあの勇者では無いが、本質は全く同じ。
絶対に許す事は出来ない。こいつを野放しにすればまだ誰かが被害に遭う。
俺が……俺がこいつを殺す。こいつを止める。
「もうしゃべるなこの豚野郎! 人のなりをした獣め! この豚野郎! お前は俺が殺してやる」
俺は腰に下げた剣を構えて豚野郎に向けた。
「おいおい、まじかよ。この勇者様にそんななまくらが通用すると思ってんのか? こっちは来たくもないこの世界に来て戦ってやってるんだ。女の十人や二十人なんて事ないだろ。飯だってまずいし、酒でも飲まねえとやってられねんだよ~このボケが~!」
勇者秋葉が、フラフラしながらも腰に下げていた剣を構えてこちらを向く。
構えはすきだらけ、基本の型も何もあったものではないが、こちらを向くだけで、感じた事のないプレッシャーが襲ってくる。
これが勇者か……
酔っぱらったこの状態でこの圧力。間違いなく化け物だな。
俺も剣術仲間とこの二年の間にゴブリンを討伐した事がある。
最下級モンスターであるゴブリンだが、ステータス値は概ね五十程度あり、一般人よりも遥かに強く、俺の限界値をも上回っているので数人がかりで囲んで倒した。
あの時もかなりのプレッシャーを感じたが、今のこれはその時のものとは比較にならない。
「おおおおおおおおぉぉお~!」
俺は雄叫びを上げ萎縮する自分の身体に気合を漲らせて、秋葉に向かって全速力で駆けて行く。
間合いに入り、秋葉の頭部に向けて俺のこの二年、いやこの十八年の人生を賭けた渾身の一撃を放った。
「あっ……」
そして服の落ちている場所のさらに奥には裸の女性が気を失い倒れていた。
この状況は間違い無い。勇者の仕業だ。
周囲を見回すが勇者らしき奴は見当たらない。
あの時の全身を焦がす怒りが再び湧いてきた。
許せない。絶対に殺す! 殺してやる!
本当は女性を介抱すべきなのだろうが、俺には二年間貯め込んだこの怒りを抑える事はもはや出来なかった。
俺は気を失っている女性に落ちていた服を掛けると、犯人である勇者を求めて道を全速力で走ったが、しばらく進むとフラフラと道を歩く黒髪の男の後ろ姿が見て取れた。
「おい! 止まれ! お前がやったのか?」
「あ~? お、お前誰だよ。俺が勇者の秋葉剛様と知って声をかけてんのか? ヒック」
こいつ、酔っているのか。さっきの千鳥足といい、喋り方といい完全な酩酊状態に見える。この男酔った勢いであの女性を……
「お前があれをやったのか?」
「は~ぁ? あ、あれってなんだよ。無礼な奴だな。ック」
「この道の手前に若い女性が倒れていたが、あれはお前がやったのか?」
「ああ、そんな事か。ちょっと気分が良かったからな。目の入った女の相手をしてやったんだよ。ック、勇者様の相手が出来たんだ、あの女も喜んでるだろ。結構良かったぜ。ヒック」
勇者秋葉剛のふざけた物言いを聞いて俺の中の理性は完全に吹き飛んだ。
こいつは俺の妹を死に追いやったあの勇者では無いが、本質は全く同じ。
絶対に許す事は出来ない。こいつを野放しにすればまだ誰かが被害に遭う。
俺が……俺がこいつを殺す。こいつを止める。
「もうしゃべるなこの豚野郎! 人のなりをした獣め! この豚野郎! お前は俺が殺してやる」
俺は腰に下げた剣を構えて豚野郎に向けた。
「おいおい、まじかよ。この勇者様にそんななまくらが通用すると思ってんのか? こっちは来たくもないこの世界に来て戦ってやってるんだ。女の十人や二十人なんて事ないだろ。飯だってまずいし、酒でも飲まねえとやってられねんだよ~このボケが~!」
勇者秋葉が、フラフラしながらも腰に下げていた剣を構えてこちらを向く。
構えはすきだらけ、基本の型も何もあったものではないが、こちらを向くだけで、感じた事のないプレッシャーが襲ってくる。
これが勇者か……
酔っぱらったこの状態でこの圧力。間違いなく化け物だな。
俺も剣術仲間とこの二年の間にゴブリンを討伐した事がある。
最下級モンスターであるゴブリンだが、ステータス値は概ね五十程度あり、一般人よりも遥かに強く、俺の限界値をも上回っているので数人がかりで囲んで倒した。
あの時もかなりのプレッシャーを感じたが、今のこれはその時のものとは比較にならない。
「おおおおおおおおぉぉお~!」
俺は雄叫びを上げ萎縮する自分の身体に気合を漲らせて、秋葉に向かって全速力で駆けて行く。
間合いに入り、秋葉の頭部に向けて俺のこの二年、いやこの十八年の人生を賭けた渾身の一撃を放った。
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる