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10 朱里

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次の日の朝、待ち合わせの場所に行くと既に朱里が待っていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。それじゃあ早速行くか」
「はい」
「ところでお前の武器は何なんだ?」
「一応このショートソードをもらってるんですけど、こんなの使った事ないです。それと私魔法が使えるみたいなんです。昨日使った回復魔法もそうですけど攻撃魔法も使えるみたいです」
そうか、こいつは魔法使いタイプの勇者か。近接から斬ればいけるか。
そこから、二人でモンスターのいる森まで向かった。
「リュートさんは冒険者なんですか?」
「いや、そうじゃないが、訓練の一環だな」
「訓練ですか。リュートさんは偉いですね」
「分かって無いようだが、この世界は自分の身は自分で守る必要があるんだよ」
「え? 勇者の人達が守ってくれるんじゃ無いんですか?」
「は? お前何を言ってるんだ? 勇者が守ってくれるわけないだろう」
「だって勇者はこの世界の人を守る為にモンスターと戦うんですよね」
ああ……こいつは完全にこの世界の勇者を取り違えている。
確かにモンスターを倒す事はこの世界の人を助ける事に繋がっているとは思うが、それ以上に害悪をもたらしている事を全く理解していない。
「お前、勇者の特権を知っているのか?」
「特権ですか? モンスターを退治する以外は何をしてもいいとは言われましたがその事ですか?」
「ああ、それだよ。他の勇者が何をしているのか知らないのか?」
「モンスター退治以外はよくわからないですけど、街の人のお手伝いとかですか?」
「はぁ~。お前……本当に勇者か?」

こいつ本気で言ってるのか? 勇者が街の人のお手伝い? ありえない。

「私も勇者って柄では無いと思うんですけど、一応そうみたいです」
「は~っ……俺の妹と幼馴染はな、勇者に殺されたんだ」
「えっ!?」
「勇者に襲われて、弄ばれてボロ雑巾のように捨てられて、首を吊って死んだんだよ」
「そんな……」
「勇者達はな、この世界をおもちゃか何かと勘違いしているんだ。女を襲い、人の家の財産を奪い、食い逃げをする。好きなようにしていいというのはそういう意味なんだよ」
「うそ……そんな事って」
「あいつらはな、俺達を人とは思ってないんだよ。絵空事か何かと勘違いしてるんだ」
「あぁ……それで、あの人達がVRゲームとかNPCとか言ってたんだ……なんてこと。信じられない」
「これがこの世界の勇者だ。モンスターからは人々を守るが、モンスター以上にこの世界の人々の生活を害する存在それが勇者だ」
「……リュートさん、本当にごめんなさい。謝って済む事じゃ無いのは分かっていますが、ごめんなさい。ごめんなさい……」

朱里が大粒の涙を流しながら俺に謝ってきた。
こいつは……何だ? こいつは勇者じゃ無いのか? 悪意の塊である勇者では無いのか?
何故、涙を流して俺に謝っているんだ。
どうして俺を嘲り俺から奪おうとしない。
どうしてなんだ。俺にはこいつが分からない。
朱音の事はよく分からない。
勇者の精神構造はやはり根本的に俺のものとは違うのかもしれない。俺に朱音が何を考えているのか分からない以上ここで朱音と話していても何も解決を見ないので、当初の目的であるモンスター退治に専念する。
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