俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎

文字の大きさ
27 / 63

新たな開発

しおりを挟む
 荷車を引いて国の中心部へと向かう道中、周囲の景色が徐々に変化していくのが目に入った。郊外の復興が遅れている地域とは打って変わって、中心部は活気に満ちていた。

 街路樹が整然と並び、その緑が目に優しい。道路は舗装され、馬車や人々が行き交う。建物は瓦礫の痕跡もなく、むしろ魔王討伐以前よりも立派になっているように見える。魔力で光る街灯が並び、夜でも明るい街並みを作り出しているのだろう。

 道行く人々の服装も豪華だ。魔石を使った装飾品を身につけている者も多く、その光沢が目を引く。露店では高級な食材や珍しい魔導具が売られており、買い物客で賑わっていた。

「随分と違うな……」

 俺は思わず呟いた。リサも同じように周囲を見回している。その表情からは何も読み取れないが、僅かに握りしめた拳に、何かを感じ取っているのが分かった。家族の境遇を考えると、何か思うところがあったのかもしれない。

 国の中枢機関が集まる広場に到着すると、そこには巨大な魔力結晶で装飾された噴水が鎮座していた。その周りを囲むように、重厚な石造りの建物が立ち並んでいる。

「評議会の議長様が執務される建物ですね」

 リサが小声で言った。俺は黙って頷いた。魔王討伐後、新たに設立された評議会。その議長が実質的な国王として君臨しているのは周知の事実だ。もっとも、形式上は旧王家の末裔が国家元首の座に就いているらしいが。

「あそこです」

 リサが指さす先には、『復興支援局』と書かれた看板が掲げられた建物があった。

(官僚か……)

 俺は心の中で呟いた。魔王討伐後の混乱期に台頭してきた新しい支配階級。彼らの中には、魔法使いや技術者として頭角を現した者も多いという。

 中に入ると、忙しなく動き回る職員たちの姿が目に入る。魔導通信機を使って各地の状況を確認したり、魔法で投影された地図を囲んで会議をしたりと、ここでは最先端の魔導技術が駆使されているようだった。

「あの、カリエル・ノヴァー様はいらっしゃいますでしょうか」

 受付でリサが尋ねる。カリエル・ノヴァー。その人が俺たちの担当のプロジェクトマネージャーらしい。

「カリエル様でしたら、只今会議中ですが……少々お待ちいただけますか?」

 受付係が言うと、俺たちは待合室へと案内された。

 しばらくすると、一人の男性が現れた。鋭い眼光と整った顔立ち、そして威厳のある立ち振る舞い。間違いなく、要職に就いている人物だろう。

「カリエル・ノヴァーだ。君たちが例の支援物資を作ってくれたロアンとリサだね」
「はい、そうです」

 俺が答えると、カリエルは満足げに頷いた。

「素晴らしい仕事をしてくれている。感謝しているよ」

 カリエルの言葉に、俺は少し気恥ずかしさを感じた。しかし、ここで躊躇っている場合ではない。

「実は、新たな支援物資の案件について相談があって」

 俺は現場で聞いた作業員たちの声を伝え、強化手袋と有毒ガス対策マスクの開発案を説明した。

 カリエルは真剣な表情で聞き入っていたが、途中で眉をひそめた。

「確かに、それらは必要なものだ。しかし……」

 彼は少し言葉を濁した。

「現在の予算では、新たな開発案件を追加するのは難しい。それに、そこまでの高度な魔導具を大量生産するのは……」

 俺は焦りを感じた。このまま断られてしまえば、現場の人々の期待に応えられない。

「コストの問題なら、なんとか抑えられると思います。それに、量産方法も……」

 俺の言葉を遮るように、カリエルが手を上げた。

「わかった。君たちの熱意は伝わってきた。こうしよう。まずは試作品を作ってもらおう。その性能と、量産の可能性を見極めてから、正式な案件として検討しよう」

 俺とリサは顔を見合わせた。これは予想外の展開だった。

「ありがとうございます。ですが、試作品を作るための素材と……」
「ああ、そうだったな。試作用の素材と、少額だが開発資金は提供しよう。ただし、これは特別措置だ。結果次第では全てなかったことになる可能性もある」

 カリエルの言葉に、俺は深く頭を下げた。

「ありがとうございます。必ず期待に応えてみせます」

 素材と資金を受け取り、俺たちは意気揚々と工房へと戻った。しかし、喜びもつかの間、新たな問題に直面することになる。

 工房に着くと、すでに多くの注文が溜まっていた。通常の武具の注文に加え、支援物資の追加生産の依頼まで入っている。

「これがなぁ……」

 俺の嘆息に、リサが困惑した表情でこちらを見る。

「どうしましょう、ロアンさん。このままでは注文をこなしきれません」

 そう、今の人員では全ての仕事をこなすのは不可能なのだ。かといって、ただ人を増やせばいいわけでもない。高度な技術を要する仕事だからだ。

「人手不足か……」

 俺は深いため息をついた。わかってはいたことだが、この問題を解決しなければ、せっかくのチャンスが台無しになる。

 腹を括って、人材確保に乗り出すしかないか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」 Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。 しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。 彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。 それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。 無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。 【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。 一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。 なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。 これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...