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ラヴレター

先生、これは18禁乙女ゲームじゃありません。

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ここは、学園の接見の間 。
 
 
『・・・・――――何故、それを私に聞く?』 
 

あまり使われることのないこの荘厳な空間に、普段なら心地良さに包まれるような、その清澄な声は、しかし、正面の御簾の中から、凄まじいプレッシャーと共に放たれ、如何にも老獪で強かな帝国の宰相程の人物が、圧倒され、言葉が思うように出てこないのが、手に取るようにわかる。
自分も同じ気持ちだからだ。 
 
 『・・・・それは由々しい事態だ。其の事故に至った経緯を含め、事の顛末を余すところなく弁明してもらいたい。今!この場で!』


呑まれる。 
 
自分に向けられているわけではないのに、視野が狭まり、鳥肌が収まらない。手足が震える。


 


ああっ・・・、


これが、『王気』。 
 
 
 
・・・・――――『カッコウの国の絶対女王。』 
 
 
 
いつも悪戯っ子のような眼をした、愛くるしい妹が、謁見の間でその尋常ではない片鱗を見せつける・・・―――。 
 
 
 
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 「ピーコちゃん。早く出ておいで~殻を爆砕して出ておいで~」


「爆砕かよ!!てか、なんでピーコ?!」

「エ?だって、鳥ならピーコ、猫ならタマ、犬ならフランダースというのが、業界基準というものでしょ?」

「どこの業界?!つーか犬だけなんかげーーー!!」

 「ククク・・・土論君、私は人間の既成概念などに囚われはしないのだよ。鳥だから!」

「ピーコとタマは囚われ過ぎだろ?!」

昔操むかしとった杵柄きねづかです。人間であったような気がする、遠い昔の・・・」

「うろ覚えかよ?!まだひと月もたってねぇ!!」

「3歩で忘れます。鳥だから」

「人間の時と変わんねぇじゃねぇか」

「いいえ。私は、ずばぬけて成績優秀だった気がします。昔過ぎて覚えていないのが、口惜しい」

「都合よく過去を改竄かいざんしてんじゃねぇ!!」




私達は、明日に控えたソビエト帝国への出発の準備を終え、先生の研究室で、目出度く2個に増えた卵を囲んでソファに半分寝そべりながら、お別れ会も兼ねて、内輪でまったりとお茶をしているところだ。

だが、残念ながら、卵は孵るまで皇太后に託されることになってしまった。
まあ、危険がないとは正直、言えない所に行くわけだから、いっしょに持って行く事は出来ないだろう。
それに、本当の鳥の卵なら問題はないが、何が生まれるのか、可能性は未知数だ。
もし仮に、人間の子供なら30日ほどで孵ったところで、生きられはしないだろう。
何らかの対策を講じる必要がある。
幸い、外からの魔力等のエネルギーは、取り込めるようなので、一番魔力の高い人に預けるのが一番だというのは、理解できる。
今の自分では、魔力は一滴も上げられはしない事も、分かってはいるけれども、出来れば自分の腕の中で、孵って欲しかった。

溜息が出る。


カッコウの一族。やはりそうゆう巡りあわせなのだろうか、私の血筋は。



卵をなでながら黙り込んだ私に、長男の武羅宇が。声を潜めるように聞いてきた。

「何時から政変を予測していたんだい?」 

誰の耳があるかわからない。ここは安全だと分かってはいても自然に私も声を潜めるように答える。
 
「いいえ、全然知らなかったです。アンドレイは何にも告げずに、消えてしまいましたから。・・・手紙はくれましたけど」 
 
「何?!あの紅のアンドレイが、どんな、ラヴレターを書いたのか非常に興味深いな!」 
 
「陛下!そんな事言っている場合ですか?!」 
 
「分かってないな武羅宇。恋する男の頭の中身なんてものは、それはもう、愉快なモノなんだ。荒れ狂う情欲の血潮が視神経を侵し、美化しまくった虚像への妄想と下ネタしか詰まっていない」 
 
すると、何故か皆の視線が一斉に先生に向かう。 
 
「・・・・・先生、コレどう見える?」 

と、茶莉伊の膝に乗って遊んでいた私をおそるおそる指さし土論が訪ねる。



隣にいた先生は、最初、きょとんとしていたが、ニッコリと、それはそれは幸せそうに微笑み、


「――・・・・世界一セクシーだ・・・・―――」 


と吸い込まれそうな妖艶な瞳に私を映し込みながら、敬虔な祈りのように、気品ある物腰で私の羽を持ち上げそっと唇を落とす・・・。
 
先生の視神経は今日も絶好調のようだ。ニヤリ。


「眼科へ行けー!!」 
 

「あん先生。子供が見てるの」 
 
「茶莉伊君!目をつぶりたまえ!ここに変態がいる!!」

「違うの!!亜蘭。子供は土論のことなの」

「お前の方がぶっちぎりのガキだろうがぁ?!てか、変態は?!」
 
「先生は、『神様』なので、人間の物差しで計ってはいけません。」

『神様?!』

「ね?先生、私が、どんな姿でも愛してくれる?」

「なんて可愛いんだ!愛してるよ、葵。一生この姿でいて良いんだ。寧ろいてくれ!!」

「マジで言ってるよ、この人!!」

「君達だって分かるはずだ。この俺の気持ちが!・・・・大人になった葵を男達がどんな目で見ているかと思うと・・・っ、心配で心配で心配で気が狂いそうだったんだ!!」

『あぁーーーーー・・・。』
胸ね。胸だなと何やら妙なつぶやきが聞こえる。

宇宙一可愛いのは、先生なのである。



「それより葵、どうして気付けなかったんだい?少なくとも、一カ月前に捕虜全員が、永住許可申請書を提出した時点で、何らかの異変に気付いたはずだよ。」 
 
「ああ、其の事でしたら、実際に永住許可申請書が提出されていたのは、アンドレイ一人だけです。あの大量の書類は、外交官佐々木健次郎を筆頭とした、私を支えてくれる皆さんの努力の賜物です」 
 
「!!」 
 
「敵である、帝国宰相に、捕虜を渡してはならない。それが、大前提です。 
問題は、元捕虜の潜伏先でしたが、実際、八カ月を過ぎた時点で、帝国兵たちは捕虜ではなくなっていましたし、捕虜ではなくなった時点で捕虜収容施設は、待遇も改善して、ただの兵士宿舎と必然的に名が変わったに過ぎません。 だから、捕虜収容施設は、今現在、我が学園には存在さえしていないことになる。 なので、捕虜はいないとウサチャン宰相に告げた事は、全くのデタラメではありませんよ」 
 
と、ニンマリ笑う。

 「しかし、解せない。あの時の宰相の動揺は、確かに本物だったと思う。だが、即席で偽造した御璽で、誤魔化されてくれるほど、宰相の目は節穴ではないはずだ。」

 「・・・――――帝国のクーデターを知らせる、アン ドレイのメッセージ。その情報の信ぴょう性について、私達が疑わなかったのは、何故だと思います?」 
 
「何か他に、信じるに足る、証拠を残していたと言う事か?」 
 
「これです」 

先生に手伝ってもらって、胸元に肌身離さず下げてあった、可愛いお魚の形をした巾着から、ころりと大振りの指輪を出す。
ちなみにこの巾着は、執事緑川のお手製である。さすがは出来る男、レース編みも得意らしい。
 
「これは!」 
 

「そう。ソビエト帝国皇帝の御璽」 
 

「・・・・・・・・・・」 
 
「あのウサチャン宰相は、自分が皇帝に政治を一任されていると言っていましたけど、実質、 帝国での実権を握ることが出来るのは、現在、御璽を持っているこの私。」 

『!!!!』


 
そしてこれをアンドレイに託された時点で、私のミッションは決まった。 
ミッショ~ン・コンプリ~ト。いや、言いたかっただけだ。

今なら分かる。
アンドレイが、何故、あれほど、手間ヒマかけてプロポーズを仕掛けたのか!
私のように、よほど暇だったわけではないはずだ。たぶん。


・・・―――変事の際、潜伏先として10万の兵がすぐ動員出来る程に、帝国に近い国の、ある目的を強行するに足るべき権力を持った「巨乳」が、私の他にいるだろうか?! 今は無乳だが。
 

そう、日本王国次期女王である、『私』でなければならなかったのだ。


でもそれには、それ相応の実力を計る必要があった。
下手に権力を有した女など、諸刃の剣。かえって足をすくわれかねない。 
先の戦争は私の器量を計るに絶好の機会であっただろう。
けっして、胸囲を計るだけではなかったはずだ。


・・・・・・・―――― そして、意のままに私を操り、骨の髄までしゃぶり尽くすつもりだったのかもしれない!
ぶっちゃけ、今なら鳥ガラで良い出汁がとれそうだとか、
『しゃぶる』というワードに妙にそそられるものがあるとか、そう言う事ではない!


勝つためなら手段を選ばない。


彼は「不敗の英雄」。
それは良くも悪くも「絶対に負けない」行いをして来た事を意味する。
だから彼は、真実そういう人間だったのだろう。


少なくとも私に恋心を抱くまでは。 
 
でも、その彼が、私を利用するのではなく、八万を超える軍勢と、御璽を、『私』 に託してくれた。 
私はこれこそが、彼からの最大級のラヴレターだったんじゃないかと思う。 


今の彼は、私の支援なんて当てにしていないのかもしれない。 でも、
 




「彼はまだ、私からラヴレターの返事を聞かされていません。 だから、迎えに行きます。」


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