異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo

文字の大きさ
75 / 179
第二章 初学院編

74

しおりを挟む
※キルヴェスター視点



今からアースとの模擬戦が始まる。今朝はアースとカーナイト様への配慮が足りず、失敗してしまったが、この機会を本当に楽しみにしていた。同世代で、魔導士として実力のある者はほとんどいない。ウェルはなかなか強いが、ウェルと模擬戦を行うのは少し癪だ。

王子である俺に対して、忖度なしに戦ってくれるのは側近のみんなや一部の大人くらいだ。だからこそ、こういう機会は大切にしたい。………それに、アースとは一度真剣に戦ってみたかった。



「それでは、キルヴェスター殿下とアース様の模擬戦を始めます。立会人は、私、カーナイトが務めさせていただきます。」


俺とアースが模擬戦をするということで、祖父上が立会人を名乗り出てくれた。王子である俺の立会人を引き受けることができる人は限られているから、非常にありがたい。………だけど、話を聞きつけた兄上たち、自称保護者組やクラスメイト達も多く見物に来ている。なぜ、このような大ごとになっているのかわからない。俺はただ、アースや側近たちと真剣に訓練がしたいと思っていただけなんだが………。一方アースはというと、見物人なんかいてもいなくても構わないというような、余裕のある笑みを浮かべている。アースは緊張しないのだろうか、こんなにもみられているにもかかわらず。………主として、俺はまだまだのようだ。



「では、双方、礼を。」


祖父上の声で、俺とアースは互いに礼をした。

「よろしくね、キル。手加減をしてはそれこそ失礼だから、全力で行くよ。怪我をしたら、俺が治すからさ。」


「それはありがたいな。………だけど、模擬戦後に回復ができるくらいの余裕を、アースに残させるつもりはない。」



俺が不敵に笑うと、アースも不敵に笑って見せた。正直、アースの実力はジールから聞いたものしか情報がない。一緒に訓練をしていたが、それは基礎訓練のみだ。アースの魔導士としての本気を、俺はまだ知らない。………それは少々、主としてどうかと思ったんだ。主としてな。


俺達は少し離れて、互いに位置に着いた。その距離はと言うと、遠すぎると魔導士に、逆に近すぎると騎士に有利なため、中間の位置となっている。

俺は剣を構えて、祖父上の開始の合図を待った。アースはというと、目を瞑っていた。騎士ではありえないことだ、敵を前に目瞑るなど。だけど、アースには、ひいては師匠の祖父上には考えがあるのだろう。


「始め。」


祖父上の静かな声とともに、俺はアースとの距離をつめようと身体強化で走り出した。

騎士が魔力を何に使うかというと、主に身体強化に使う。属性によって強化される種類が異なるが、俺の様に火属性の場合は火力が上がり、筋力が向上する。キースのように雷属性だと、スピードが上がるといった具合だ。


俺が接近しても、アースに特に動きはなかった。………試合を放棄しているわけではないよな? 魔導士が騎士に接近されて、何もしないというのは異常だ。何か考えがあるのかもしれないが、その前に一気に決めてやる。


『魔力展開』


アースの元まであと少しというところで、アースが静かにそうつぶやいた瞬間に、俺は反射的に後ろに飛びのいた。

魔力展開。アースがその練習をしていたことも、アースに必要なことも知っている。だけど、こんな膨大で濃密な魔力を展開できるようになっていたのか。



「流石、キルだね。これは一種の威圧みたいなもので、魔力をしっかりと感じられる人に対して、有効な猫だましなんだよ。」


「ああ、そうみたいだな。」


展開することによる効果は猫だましかもしれないが、展開後はそんなものではない。この魔力が展開されている場所は、アースの領域だ。展開後の魔力をどのように使うのかは、その人次第だ。アースがどのように魔力を利用してくるのかは、俺はまだ知らない。だけど、それでこそフェアというものだ。


『氷弾』



アースがそういうと、三メートル近い氷が俺に向かって飛んできた。通常の氷弾よりは確実に大きいが、俺は、俺達はこれ以上の氷をすでに見ている。この程度の大きさで驚くようなことではない。だけど、三メートル近い物体が高速で飛んでくるだけでも相当の脅威だ。………並の相手ならな。

俺は飛んできた氷弾を、正面から叩き潰した。たたき潰された氷は、俺の周囲に細かく飛び散った。アース、初級魔法程度ならいくら大きかろうと俺は叩き潰すぞ。

アースの警戒しなければならない攻撃は、やはりあの巨大な氷山だが、おそらくあの攻撃はしない。すきが大きいし、避けれたときに自身の視界や行動範囲を狭める邪魔者ものしかならないからだ。


俺は再び距離をつめようと、駆け出した。近づきさえすれば、体術などの心得のないアースに勝ち目はほとんどない。


『氷弾―五月雨』



アースがそういうと、今度は小さな氷の礫が大量に出現した。すると、正面だけではなく、様々な方向から氷の礫が俺に向かって飛んできた。

なるほど、そう来たか。今度は質ではなく、量で勝負ということか。だけど、これくらいなら余裕だ。

俺はあらゆる方向から飛んでくる氷を、剣で叩き潰した。俺を威力だけの騎士だと思ってもらっては困る。だが………数が多すぎる。というよりも、アースの魔力が桁違いすぎる。切っても切っても、アースが氷弾を生み出していくからキリがない。動き回って、アースに狙いをつけさせないような方向に、シフトしたほうがいいかもしれない。

俺はタイミングを見計らい、身体強化でアースを中心に、大きく回るように走りだした。しかし、思ってもみないことが起こった。アースの氷弾が、俺を追ってくるのだ。追尾する魔法なんて、見たことがない。おそらく、アースの領域内で可能な技なのだろう。それに加えて、身体強化を使う俺に対して、アースは正確に氷弾で狙ってくる。追尾と正確な氷弾の二つで、俺は完全に後手に回っている。対処に力をそがれてしまい、攻撃に転じることができない。

動き回りつつ、少し様子を見るしかない。アースもアースで、攻め手に欠けているだろう。初級魔法しか使えないというのは、やはり攻撃という面においては威力不足だ。



しばらくの間、アースの氷弾と俺の剣戟の応酬が続いた。どちらも、現状維持しかできないという感じだ。アースは攻めを緩めると、俺に近づかれてしまうため、攻撃を継続する必要がある。俺は俺で、その攻撃に対処する必要があるのだ。

すると、アースが先ほどまでの量よりも多くの氷弾を放った。そして、直接俺のことを狙うのをやめて、追尾の魔法のみに攻撃をゆだねた。チャンスではあるが、追尾の氷弾が多すぎるため攻めに行くことができない。………次の詠唱を許してしまうな。



『恣意雪』


は?
アースがそう詠唱すると、空から雪が降り始めた。天候操作の初級補助魔法か。これも初めて見たな。天候に干渉するため、膨大な魔力を要するのだ。アースならば、このくらい造作もないということか。

………ただ、この状況で雪を降らせることに、何の意味があるんだ?


『水弾』


クッ、今度は水弾か! 有形の氷弾と違い、無形の水弾はガードが難しい。………だが、氷よりは難しいという話だ。俺は氷弾と同様に、無数の水弾を切り払った。

アースの方に視線を移すと、アースは悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。

アース、楽しいか? 俺もこれまでの模擬戦の中で、一番楽しいぞ!

だが、楽しんでばかりもいられない。このままだと、アースの魔力と俺の体力の持久戦の戦いになる。先に尽きるのは………考えるまでもないな。いったん、領域外まで出て、攻めなおした方が良いかもしれない。

俺はすきを見計らって、足に力を入れた。その瞬間、体勢が崩れてしまった。

な、なんだ? いきなりのことで、なぜ自分の体勢が崩れたのが理解できなかった。しかし、大勢が崩れたことによって地面へと視線が移った。俺の目に飛び込んできたのは、降り積もった雪と水弾の水が混ざり合ったみぞれだった。そう、俺は滑ってしまったのだ。今思うと、アースの攻撃は上からのものが多くなっていた。今の地面の状態を悟られないように、アースは俺の視線を上の方へと誘導していたのだ。

アースはやはり賢いな。前から気づいてはいたが、アースは作戦を立てたり、指揮をしたりする立場も適しているのではないだろうか?

俺はすぐに剣を地面に突き刺し、体勢を何とか整えた。その瞬間、初手よりも数倍大きな氷弾が俺の目の前に迫ってきた。

アースはえげつないな………。だが、あれから俺はアースの巨大な氷を切れるように訓練していたのだ。そう、騎士団長に向かってアースが巨大な氷を放って、団長が見事に切った時、アースはたいそう感心していた。あの時、自分があの芸当をできないということに、ものすごく焦った。だから、次にこういう機会があったら、俺にも切れるということをアースに見せたかった。………だから、しっかり見ていろよ、アース!

しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL シリアスはほとんどないです 不定期更新

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...